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しなやかできめ細かい聴き心地のよさ、DYNAUDIO「Emit M10」で聴く、堀江由衣・東京事変~表情豊かな声を味わう

2020年11月03日 13時00分更新

試聴中のDYNAUDIO Emit M10。こうして部屋に置いてみると落ち着いたたたずまいであることがよくわかる。

スケールの大きな、ゆったりとした再現
それでいて、激しい音も切れ味よく描く

 DYNAUDIO Emit M10の音は、ニュートラルなバランスで忠実度の高い表現力がある。現代的なスピーカーに共通するものだが、聴き心地のいい感触もあって、優しい音だと感じる。ソフトドーム・ツィーターらしいしなやかできめの細かい再現や、厚みのある低音の感触など、少し懐かしい感触がある。見た目通りでもあるが、聴いていると気分が安らぐ、気持ち良く音楽に浸れる感じだ。

 この理由は最新のスピーカーのいかにも高解像な感じがしないことや、やや太めのタッチで描いた油彩のような厚みのある音の再現のためだと思う。しかし、細かな再現が甘くなるとか、音の立ち上がりが鈍いといった不満を感じることはない。そして、ステージの再現はかなり広大。音場が広々と展開し、ステージの奥行きもしっかりと描かれる。なによりも声のニュアンスの豊かな表現が見事だ。

 アニメソングを聴いていても、音数の多い楽曲で音がガチャガチャするような感じがなく、優しく解きほぐすような鳴り方になるので、聴いていて気持ちがいい。ヘッドフォンやイヤフォンで音楽を聴くことが多く、解像感の高い音の鳴り方になれていると多少不満を感じるかもしれないが、聴き込んでいくと情報量は十分でリラックスできる音が気持ち良くなってくる。

しなやかで聴き心地のよい音を楽しめるソフトドーム・ツィーター。

エネルギー感や量感の豊かな音を力強く鳴らしてくれるウーファー。

楽曲別に表現の違いを確かめる

「ヒカリ」(堀江由衣LIVE TOUR 2019文学少女倶楽部)

 サビの情感豊かな歌唱が印象的で、表情の豊かさがよくわかる。ステージの広さと奥行きもしっかりと出て、ファンの歓声も包まれるような感じになる。センターにしっかりと立つ音像、そして楽器の音に厚みがあり、音場感と厚みのある音像のバランスが優秀だ。

 B&W607で聴くと、音はよりクリアになるがやや細身の感触になる。すべての音が明晰でミキシングのたくみさもよくわかるのだが、ライブステージに居る感じのEmit M10と比べると、ミキサー室で音をチェックしているような一歩引いた感じになる。音場は広いが全体に奥に引っ込む感じでボーカルがもう少し前に出てほしいと感じる。

「夏の約束」(堀江由衣LIVE TOUR 2019文学少女倶楽部)

 アップテンポで歌も速いテンポになるが、滑舌はクリアー。これはさすがは声優の明瞭な発声によるものだとも思うが、上手な早口になるのではなく、きちんと情感の入った声になることが大きな魅力だと感じる。スピード感のあるドラムスもパワフルで切れ味も十分、もたつくような事がない。張りのある声がしっかりと前に出て、ステージ上の位置関係までわかるようなステージが再現される様子は見事だ。

 B&W607では、演奏のスピード感や楽曲としての爽快感が印象的な再現になる。ステージの広がりや高さ感は同等だが、奥行きの深さではEmit M10がやや上手だ。声もニュアンスや情感の豊かさを含めて十分だが、もう少し声の厚みが欲しくなる。

「スクランブル」(堀江由衣LIVE TOUR 2019文学少女倶楽部)

 人気曲でもあり、歌声とともに観衆が一緒に合唱してしまっている。このノリノリの雰囲気がポップな楽曲ともマッチしていて実に聴いていて楽しい。センターに定位するボーカルの音像と、左右に均一に広がる観衆の合唱という感じで、音の配置がしっかりと出るので、楽曲をきちんと楽しみつつ、ライブの楽しい感じを味わうことができる。

 B&W 607でも歌声と観衆の合唱の対比はしっかりと出るし、サビの部分での一体感のある鳴り方は十分に楽しい。ひとつひとつの音の粒立ちや再現性はこちらが上だが、音場の奥行きの表現の違いなのか、客席の最前列で聴いている感じになるEmit M10に対し、607は客席のさらに後ろから俯瞰しているような感じになってしまう。

「Silky Heart」(堀江由衣LIVE TOUR 2019文学少女倶楽部)

 筆者が大好きな「とらドラ!」のエンディング曲のせいもあるが、秘めた恋心を抑えながら歌う感じがぐっとくる曲。ボーカルにじっくりと集中して聴くと、音像はしっかりと立つし定位もいいが、ホールの響きまでしっかりと出るせいか、ややソフトフォーカスな感じにもなる。こうした残響や響きの再現のおかげで奥行きのある音場再現になっているとわかる。正確性や細部までじっくりと聴きたい人にも物足りなさもあるかもしれない。

 一方でB&W 607になると、声はよりシャープで定位の良さもあってリアルな再現だ。やや客観的な聴こえ方にはなるが、ライブの熱気やテンションの高さもよく出ている。このあたりの違いが、B&W 607のような現代的な鳴り方とEmit M10の鳴り方で一番好みの分かれる部分だと思う。

「赤の同盟」(東京事変/赤の同盟)

 エッジの効いた楽曲ということもあり、ハードなギターの演奏やエネルギーたっぷりのドラムスといった楽器のパワフルさもしっかりと伝わる。ギターの音色は歪みを含んだ音も入るが、それらを耳障りな音にせず、聴きやすく再現する優しさがある。このあたりは好みが分かれるかもしれない。ボーカルはコケティッシュな歌声をしなやかに表現。ニュアンス豊かな表現だ。

 ハードさやドラムスの演奏がより際立つのがB&W 607。テンションが高さ、曲のシリアスさもよく出る。切れ味はかなり鋭いが、比較するとやや重量感は足りない。声を張ったときのやや歪む感じまで明瞭に出すなど、Emit M10とは異なる表現だが情感はよく伝わる。ややキツさも感じるがそれも含めて、東京事変にはマッチする音だ。

「玉座の罠」(東京事変/赤の同盟)

 アナログシンセ調のメロディーがテクノやEDMっぽい感じさせる曲。ドラムスやベースの鳴り方は重厚で、リズムのうねる感じもよく伝わる。スピーカーの音の素性からは相性の悪そうな曲とも思うが、案外うまく聴かせてくれる。トータルのバランスの良さや、基本的には忠実度の高い再現が軸になっていることがよくわかる。

 B&W 607は芯の通ったリズムとグルーブ感をしっかりと感じさせながら、艶めかしい感じのボーカルもなかなか色っぽく再現。線の細さや楽曲の厳しい音をそのまま出すストレートさもある。

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