立ち上るタイヤスモーク、焼けるタイヤの匂い、そしてモンスターマシンが発する轟音……。SUPER GTなどとは異なる魅力に溢れるモータースポーツ「ドリフト」。そのドリフト競技の国内最高峰「D1グランプリ」の20年目となる幕が上がった。
その最初期からD1グランプリに携わり続けた人物がいる。D1グランプリの実況・解説でおなじみの「マナP」こと鈴木 学さんだ。そんな鈴木さんに、D1グランプリの思い出や、課題についてお話を聞いた(前回のお話は「20周年を迎えたD1グランプリの見どころをご意見番「マナP」に聞いた!」を参照)。
「昔の方が面白かった。今はツマラナイ」ことは何ひとつない!
プロのモータースポーツ競技であるドリフトは、もともとビデオオプションの読者参加企画「いかす走り屋チーム天国」(通称いか天)から生まれた。鈴木さんは、その企画のMCとして参加。プロドライバーの土屋圭市さん、織戸 学さんと共に約10年間、企画を盛り上げた。
そんなある日のこと、土屋圭市さんは「いか天で上手くても、その先がない。ドリフトでメシが食えるようにしたい」という想いを抱いたことから、賞金をかけたドリフトのシリーズ戦「D1グランプリ」は始まった。鈴木さんは、2000年から始まったシリーズ戦の2戦目からすべてのレース実況を担当。今や我が国でもっともドリフト競技に精通している人物と言っても過言ではない。
さて、長年行なわれている興行の会場では、「昔はよかった」というような声を耳にすることがある。D1グランプリにもそれはある。不躾とは思いつつ、今回は鈴木さんにその話をぶつけることからインタビューを始めることにした。その声は、鈴木さんの耳にも届いていたようだ。
「オールドファンの人たちは、今のクルマや走りがツマラナイという人が結構いらっしゃいますよね。一方で、最近見た人の中からは、もっとこうした方がいい、あぁした方がいいという声もあります。僕は20年見てきていますが、昔の方がよかったとは全然思えないですよ。今の方が全然面白いし、明らかにスピード、角度といったレベルが違いますからね。昔の方がイイという方は、その当時のレギュレーションを持ってくればいいという話ではなく、その場の雰囲気や、その時の感情なのでしょうね」
YouTubeの公式チャンネルでは、過去のシリーズ戦の映像が公開されている。そこに映るのは、実況や審査も含めてD1グランプリは一つのエンターテイメントショーのよう。F1やSUPER GTといったモータースポーツとはちょっと様子が異なる。
「初期の頃は模索していたこともあり、レギュレーションや審査方法もその場で決めていました。たとえば決勝で2台が走って2台が壊れた。で、審査委員長の土屋圭市さんが両方優勝って言っちゃって(笑)。壊れた2台の両方が優勝とかって、普通のモータースポーツではないですよね。それが2回位ありました。それが楽しいといえば楽しいけれど、それでは世間から認められないし発展しないと思いますね」
プロ競技として収益を得るには、世間で認められる必要がある。そのためには1団体のエンターテイメント興行ではなく、モータースポーツという競技形態でなければならない。もともと鈴木さんはレーサー出身ということもあり、その思いは強いのだろう。
「隣で土屋さんがジャッジする様子を見ながら、“この状態はよくない”と思っていました。これは土屋圭市さんの事を悪く言うつもりではなくて、問題が起きた時のジャッジ基準がないから、その場で決めなくてはダメだったことが問題なのです。言い換えるなら、我々内部が悪いのです。それはいまだに、今までなかったアクシデントが出てきて、その場で決めなければならない時があります。それは審査方法が変化しているから、というのもありますけれど、物事をきちんと決めていないことが悪いんです」
現在、D1グランプリは毎年ルールブックが作られている。そこには競技方法のみならず、改造範囲や安全性といった車両のレギュレーション、さらにファンサービスに関する事まで、実に細かに書かれている。これら厳密なルールは、20年間で起きた様々な問題に対するD1グランプリ知見の記録ともいえる。
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