敏腕エンジニアを口説いて独自開発した音声解析AI
進む営業リモート化 営業電話をAIで見える化するIP電話「MiiTel」が急成長中
2020年07月22日 07時00分更新
2017年に設立したRevComm(レブコム)は、音声解析AI電話「MiiTel(ミーテル)」を提供している。クラウドベースでユーザーは簡単に導入でき、「導入顧客の確実な売上改善や生産性向上につながる」と、創業者で代表取締役である會田武史氏は強い自信を見せる。同社のMiiTelとはどんな製品なのか。顧客提供価値に強い自信を見せる要因はどこにあるのだろうか。
ブラックボックス化されてきた電話営業を顕在化
RevCommが提供する「MiiTel」は、営業活動に欠かせない電話でのやり取りを可視化するサービスだ。
「これまで、電話営業でのやり取りを可視化することは難しく、ブラックボックス化問題が起きていた。『報告だけでは、ニュアンスが伝わらない』『内容を報告する担当者のバイアスがかかる』といったことが悩みがあった。これを解決する方法となるのが、我々のMiiTel。これまでブラックボックス化されていた営業担当者のコミュニケーションを解析して可視化する」――會田氏は笑顔でこうアピールする。
実際にやり取りした音声そのものをAIによって分析することで、文字化されたやり取りを分析するだけでは明らかになっていなかった課題まで顕在化することに成功した。
たとえばしゃべる内容が早すぎる説明は相手になかなか理解されにくい。実際にデータから調査したところ、1秒間に7文字相当を話していると早口で聞き取りにくいという声があがる。それが5文字になると、途端に理解しやすいという声に変わるのだという。
また、新人の営業担当者が、相手が答え終わるのを待たず、かぶせて発言していることが多いことが明らかになったこともあった。相手の会話にかぶせて発言を行なうことは、圧迫感や不信感を与えることになる。分析によって初めてこの事実に気がついた営業担当者は、指摘を自ら修正するセルフコーチングによって自分の営業スタイルの見直しを行なった。
現在はさらに調査を進めており、業種ごとに必要な話術が異なることも明らかになった。たとえば金融商品は提供する情報量を増やした方が成功率が高い。不動産業では、「駅から徒歩何分の物件を探しているのですか?」といったヒアリングに徹して条件を聞く方法では成果が上がりにくい。成績の良い不動産セールス担当者は、「今、特別な掘り出し物の物件がありますよ?」といった応対をしている違いがある。
ここまで述べたように、MiiTelを導入することで、(1)ブラックボックス化問題の解消、(2)セルフコーチング、(3)リモートワークの実現という3つの効果をもたらすと會田氏は説明する。
「交わされているやり取りを全て文字化・要約して、たとえば、営業活動の見直しに利用するという方法がある。文字化された会話を見て、営業成績の良い人がコメントを入れる。『会話のここが大事ですよ』『ここの部分は、もっと掘り下げていった方がいいですね』といった、より具体的な指摘ができるようになる」
営業活動を可視化するソリューションは、決して新しいものではない。外資系ITベンダー、国内ベンダーなど多数のベンダーが取り組んできたジャンルだ。既に多くのユーザーを獲得している製品もある。
しかしながら、會田氏は、「これまでの営業支援ソリューションは、音声のやり取りを文字化するにとどまっていた。そのため、報告を行った人が省略した部分が実はポイントとなっていたのに、そこが伝わっていなかった。MiiTelではこれまで伝わってこなかった部分を顕在化している。さらに、既存の営業支援ツール品と競合するわけではない。むしろ連携ができる」
実際、日本で多く使われている営業支援ツールとの連携もすでに実現している。ブラックボックスだった電話でのやり取りをコアに、これまでの営業支援ツールを補完する役割も果たしているのだ。
優秀なエンジニアを探して作り上げたオリジナルAI
近年のAIを活用したクラウドサービスでは、AIは海外大手企業などが作ったエンジンを活用し、アプリケーション部分を独自で作るケースが多いが、MiiTelは全て独自で開発を行なった。
「すべて自社開発。音声を文字化する上流部分の『スピーチ・トゥ・テキスト』、表記の揺れ等の補正を行なう中流部分、文章を要約する下流部分まで、全て自社で作っている。当社のエンジニアは本当にスキルが高い。だからこそ実現できたのだと思う」
會田氏自身はエンジニアではない。小学校4年生の時から「起業したい」と考え始め、大学、留学、三菱商事での勤務を経てRevCommを起業した。「子どもの頃から起業することを考えていたものの、起業してやりたいことが見つからなかった。三菱商事に入社する時も、起業する踏ん切りが付かず、3年で辞めるつもりで入社した。だが入社してみると、仕事は面白いし、やりたいことは見つからない。ウクライナ勤務になったのをきっかけに、ようやくやりたいことを見つけなければと考え、真剣に市場調査をして、これから必要な要素技術がディープラーニング+コミュニケーションとなると考えた」
起業を成功させるためには、優秀なエンジニアを仲間にすることが不可欠となる。ウクライナから日本に戻り、本格的に動き出してからは、「ひたすらエンジニアに会った」。エンジニア探しにまい進していた2017年2月から11月までの期間は、「歩いている人すべてが、声をかけるべき人材に見えた」という。Excelに連絡すべき人のリストを作り、色々な人に声をかけた。現在、CTOとして同社で勤務する平村健勝氏と出会ったのもそんな時だった。
「一緒にやろう! と誘ったものの、実は5回、ふられているんです(笑)。それが一緒にやることになったきっかけは、平村が米国出張中にたまたま空き時間ができ、その際にプライベートのメールをチェックしていたところ、私からのメッセージが目に留まり、面白そうなビジネスだと感じたようで、返信が届いた。帰国後すぐに会い、事業構想についてディスカッションし、システム構成とロードマップをその場で練った」
システム構成を考えた平村氏も加わり、起業は具体的なものとなっていく。2017年11月に本格的に事業開始し、3ヵ月後の2018年1月末にはプロトタイプができあがった。
機械学習などが発達した現在でも、音声をAIで分析することは簡単ではない。たとえば会議の様子を分析する場合、複数の参加者がいるため話者特定が難しい。会議参加者の1人ひとりの前にマイクを置ければ可能かもしれないが、あまり現実的ではない。ただし、電話の場合は状況が異なる。それぞれの話者がマイクに向かって会話し、話者別に録音できるので、話者を特定する必要がなく、不特定多数の話者がいる状況で録音された音声に比べて分析が行ないやすい。
もちろん、それでも現在の音声をテキスト化する技術は、まだ発展途上なところもある。市場の音声認識エンジンはAIスピーカーや音声検索、ロボットなど幅広い用途で扱われることを前提に設計されている製品が多い。しかし、MiiTelの場合、営業電話や顧客対応に特化した独自の話し方や語彙に最適化した設計を積極的に行うことで、現場で使える実用レベルのエンジンを短期間で構築できたという。
ニューノーマルにおいても顧客拡大に自信
もっとも電話のやり取りに特化していることは、メリットばかりではない。「電話だからこその課題もある。音声通話を録音するには、電話回線の経路内で録音を行う必要がある。何らかの録音装置を利用しても良かったが、その場合、録音品質を一定にできない問題が生じ、仕方がないのでソフトウェアでPBX(Private Branch eXchange:電話交換機)を作り、サンプリング周波数やコーデックを一定にしてようやく電話音声の解析ができるようになった」
會田氏は簡単にこう説明したが、音声を分析するAI技術と、PBXをソフトで作りあげる技術はまったく異なる。AI分析をするためのエンジニアだけでなく、電話技術に通じたエンジニアを採用する必要に迫られた。
「最初はPBXまで作るつもりはなかった。むしろ作らない方がいいと思っていた。ところがヒアリングを進めていくと、やはり電話があった方がいいという声が届くようになった。そのため、今度は電話技術を熟知したエンジニア探しが始まる。こちらは以前のように歩いている人すべてが探す相手というわけにはいかないため、SNSと紹介で探しあてた」
こうして出会ったのが、現在は執行役員 技術部長/西日本リージョン統括をつとめる川田敏巳氏。川田氏はソフトウェアベースのPBXを開発した。
「結果、ハードウェアのPBXを導入し社内に電話を敷設した場合に比べ、大幅に割安で、コミュニケーションインフラを整えることができる。Gmailの登場で、高額なメールシステムを導入する必要がなくなったことと同様、電話機導入にまつわる敷居を大幅に下げるものとなった。企業にとってはBS(貸借対照表)を圧倒的に軽くすることができる。しかも、クラウドベースだから大企業から中小企業まで、企業規模を問わず導入されている」
実際に導入した企業には熱烈なファンが多いという。その理由を會田氏は、「担当者が自分の電話応答を振り返るようになり、その結果、『営業成約率・アポイント獲得率が上がった』『企業内の教育コストが下がった』といった成果が出ている。別な例では、『リモートワークが早期に実現した』『モバイルアプリを使う事でBYOD環境が実現した』という声もある。
単純に架電工数や架電後の報告業務が減ることで生産性が上がり、架電量が増えたり、電話機器が一切不要になりコスト削減につながったというメリットも出ているようだ」と分析する。
目下、Covid-19の感染拡大防止にともなう、緊急事態宣言以降、リモートワーク環境構築の相談が増えている。会社の電話機ではなく、自分がもつスマートフォンを会社の電話として利用できることで、リモートワークにおいても営業活動を行うことができる時代。そのような移行を検討する企業にとって、MiiTelは利便性が高いサービスなのだ。
着々とユーザーを拡大しているMiiTelだが、會田氏はMiiTelの成功が自社のゴールとは捉えていないという。さらなる技術進化によって人間を電話営業から解放し、AIを活用した経営判断がもっとカジュアルに行われる世界を作っていくという目標を掲げる。「マイクロソフトやインテル製品のような、誰のシステムにも入っているプラットフォーム的製品とすることを目指し、今後もビジネスを続けていく」と、さらなる事業拡大に強い意欲を見せている。
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