週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

ディーゼルとガソリンの良いとこ取り「SKYACTIV-X」エンジンを搭載したマツダ「CX-30」は上質な走りを実現

2020年04月22日 12時00分更新

誰もが挑戦するもできなかった技術を
マツダが世界で初の実用化

 試乗車に搭載されたエンジンは「スカイアクティブ-X」であった。燃料を極限まで薄くして圧縮着火させるガソリン・エンジンだ。世界中の自動車メーカーが研究するものの、どこも実用化できなかったものを、ただ一社、マツダだけが成功させた夢のエンジンである。この技術は燃費で20~30%、トルクで10%の向上が期待できるという。

 そもそも圧縮着火は、本来は点火プラグなしで圧縮することで、高まる圧力と熱によって燃料を燃やす方法だ。しかし、アイドリングからフル加速まで行なうクルマのエンジンの必要な領域すべてで、圧縮着火はできない。ならば、圧縮着火できないところは点火プラグを使おうとすると、今度は圧縮着火と点火プラグ着火の切り替えが難しくなる。そこで、マツダはあっと驚きのアイデアを採用した。「点火プラグを全域で使う」というのだ。圧縮着火の領域でも点火プラグを使う。

 ただし、点火プラグで燃料すべてを燃やすのではなく、ほんの小さな火をつくる。その小さな火の圧力で、燃料すべての圧縮着火を発生させようというのだ。そして、圧縮着火できない領域では、普通に点火プラグで燃料を燃やす。切り替えがないから、特別な装置は必要ない。そして、名称は「火花点火制御圧縮着火(SPCCI)」としたのだ。

ディーゼルとガソリン・エンジンの利点を併せ持つ
スカイアクティブ-X

 スカイアクティブ-Xエンジンは、ガソリン・エンジンではあるものの、ディーゼル・エンジンと同じように燃料を圧縮着火して燃やしている。そのため、エンジン音もディーゼルに酷似したものとなった。アイドリング状態では、相当に音量は落とされているが、それでも通常のガソリン・エンジンとは異なる硬質なエンジン音が耳に届く。走り始めたときの、低速のトルクの力強さとピックアップのよさもディーゼルに近い。それでいて、高回転まで回せば、パワーがぐんぐんと伸びていく。ここが普通のディーゼルと異なる部分だ。つまり、低回転域はディーゼルのようであり、高回転域はガソリン・エンジンそのもの。ディーゼルとガソリンの両方の良い部分を併せ持つフィーリングが味わえたのだ。

 ちなみにスカイアクティブ-Xのスペックは、最高出力180PS/6000rpm、最大トルク224Nm/3000rpm、WLTCモード燃費16.8㎞/l(FFの6AT)。ガソリンのスカイアクティブ-Gよりも、パワフルかつ低燃費。ディーゼルのスカイアクティブ-Dと比べると、トルクと燃費に負けるものの、最高出力はスカイアクティブ-Xが上となる。

【まとめ】スカイアクティブ-Xは買いなのか?

 スカイアクティブ-Xを搭載したCX-30の走りは、どっしりとしており、あまりスポーツを前面に押し出すものではなかった。もちろんパワーもトルクもたっぷりあるので、飛ばすことはできる。だが、ムキになってアクセルを踏み込むよりも、上質なインテリアやオーディオ(オプションのBOSEサウンドシステムの太い音が好みであった)を味わいながら、リラックスして走るほうが楽しい。街中の買い物に使うのもよいけれど、ロングドライブもオススメだ。サイズも適宜で、ラゲッジの使い勝手も良い。デザインも素晴らしくて、走りも良い。今のマツダの持つ、最新かつ最良の技術を使った、マツダ最上のモデルと言えるだろう。

 では、スカイアクティブ-X搭載のCX-30が100点満点かというと、それはまた微妙な点がある。やはり、スカイアクティブ-Xは、まだ世に出たばかりの技術だ。完成には程遠い。なんといっても燃費性能に不満がある。期待は20~30%向上と言われていたが、現状の向上は10%程度に留まる。

 また、価格も高い。標準グレード「X PROACTIVE」が329万4500円、「X PROACTIVE Touring Selection」が341万5500円、最上級の「X L Package」は347万7100円だ(すべて税込)。ディーゼル・エンジン車よりも、高値の設定になっている。ガソリン車に対して約70万円、ディーゼル車に対して約40万円も高い。もちろん世界初のエンジンを搭載しているという勲章はある。その価値を理解できる人には、価格も納得できるだろう。しかし、残念ながら技術を気にしないでコスパを最優先すれば、ディーゼル車がオススメとなる。従来のガソリン・エンジン車のグレードも、エンジンの軽さを活かした軽快さもある。それはそれで魅力的だろう。

 ただし、スカイアクティブ-Xは新しい技術なだけに、伸びしろもたっぷりある。今後、何度かの改良を経ることで、燃費性能を大きく伸ばせば、また違って見えるだろう。今後の進化に期待したい。

■関連サイト

筆者紹介:鈴木ケンイチ

 

 1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。

 最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。


 
この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この連載の記事