ディティールの差で、曲の印象に変化が
まずはオーヴァージョイドから聞いてみます。この曲の大きな特徴は、小石を水面に落とした音、草を踏む音、小鳥のさえずり、コオロギの鳴く音などの自然環境音を、リズム楽器として使用していることです。ピアノやアコースティックギター、ストリングスが織りなす音空間と一緒に、美しい歌メロをサポートします。
最初に44.1kHz/16bitから聞きましたが、充分に気持ちの良いサウンドです。森の中の湖畔で木漏れ日を浴びている気持ちの良い風景が頭に浮かびます。
しかし、352.4kHz/24bitで再生すると、いつもと違う感覚を覚えました。リズム楽曲として使われた環境音が、24bit化により周囲に埋もれず独立して聞こえてくるので、曲がリズミカルに感じるのです。特に埋もれがちだった草を踏む音も、バックビートとして気持ちの良いグルーブを作っていきます。スティービー・ワンダーが鍵盤の前で歌いながら体をゆらしているあの感じです。
ボーカルや各楽器の存在感もアップするので、アレンジの妙を今まで以上に感じる事ができました。スティービー・ワンダーが考えた本来の曲のカタチってこれなのかなと思うと、ファンとしてワクワクしてきます。
スティーヴィー・ワンダーのおいしさを満喫
次曲はレゲ・ウーマン。この曲はスティービー・ワンダーの70年代3部作と言われるアルバムの最終章となる不朽の名作「ファースト・フィナーレ」からの一曲です。このころのスティービー・ワンダーは、多くの楽器を自ら演奏した、多重録音中心でアルバム制作をしていたのは有名な話です。当時注目を集めていたシンセサイザーの導入など、サウンド的な冒険を進めていた時期でもあります。
そしてこの曲もご多分に漏れず、楽器の主役はシンセベースです。ステレオ空間の中で、中央にシンセベースが分厚く鳴り響き、その後方左側にドラム、同じく後方右側にパーカションが定位。リズムを刻みながら曲がスタートします。途中からギターと生ピアノ、エレピが、後方中央に現れて、本当の主役スティービー・ワンダーのボーカルがシンセベースの前に陣取ります。
この曲の特徴は、この様に独特と言える各楽器の定位の仕方です。分厚いアナログシンセベースがセンターで存在感を発揮している中、それぞれの楽器が埋もれることなく、どこまで分離して再生できるかをポイントに聴き比べてみました。
結論から書くと、44.1kHz/16bitでも充分楽しめます。試聴している再生環境のクオリティが高い事もありますが、各楽器がそれぞれの存在感をしっかり聞かせてくれます。
それでも352.4kHz/24bitで聞いた時に、曲のファンクネスがグッと増したのは驚きでした。24bit再生により解像度が増して、シンセベースに埋もれがちだったバスドラの音圧が、耳に届くようになりビートが明確になったのです。各楽器の立ち上がりも今まで以上にわかる様になり、それぞれの定位も明確になった事も理由の一つです。ダイナミズムがわかりやすくなって、間奏から終盤にかけて、ハープやピアノが徐々に熱い演奏になっていくところも楽しく聴くことができました。
今回の試聴でわかったこと。それは音が良くなる事で、その曲の印象が想像以上に変わるという点です。聞き慣れた楽曲が今まで気づかなかった顔を見せてくれて、フレッシュな気持ちで向き合えます。音楽ファンのみなさんには、アナログレコードの楽しさや、ストリーミングの利便性に加えて、高音質再生の楽しさもぜひ体験して欲しいと思いました。
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