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980Tiを打ち倒しGeForceを超えられるか!? 『RADEON R9 Fury X』の実力

2015年07月02日 10時30分更新

 AMDは先日秋葉原で発売イベントを開催し、新GPU『RADEON R9 Fury X』を発表しました。シングルのRADEONのフラッグシップとしては、ほぼ1年半ぶりの更新であり、水冷ユニットを標準で備え、かつ世界初のHBM1(High Bandwidth Memory)メモリー搭載のGPUと、目新しい要素もテンコ盛りの製品です。

RADEON R9 Fury X

 聞くところによると秋葉原ですら全部で15個しか入荷しなかったというほど激レアな製品のようですが、ここへ来てようやく編集部にも評価用の機材が回ってきました。これはもうレビューするしかないでしょう!

HBMは低クロックでも極太のバス幅

  手始めにFury X(開発コードFiji)のスペックをまとめてみます。コアクロックは公式にこれと決まった数値がある訳ではありませんが、評価用機材の値を掲載しています。

RADEON R9 Fury X
RADEON R9 Fury X

 ポイントになるのは、GPUのコア部分がこれまでと同じGCNベース(FijiはR9 285で採用されたTongaの延長線上にあるようです)ですが、HBMに対応するためにメモリーコントローラーが大きく変化しています。話は前後しますが、Fury Xに搭載されているHBMとは、垂直方向にスタックした新世代のメモリー。狭い面積内でも大きな容量が確保できるのに加え、低クロック&広帯域なのが特徴です。

 そして、Fury Xに採用されたHBMはデーターレート1GHzという低速動作(実クロックはわずか500MHz!)でありながら、1基あたり1024ビットのバス幅を持っています。Fury XにはHBMが4基あるので4096ビット! 1世代前のR9 290Xの4倍というとんでもないスペックを秘めています。さらに、HBMはGPUダイのすぐ隣に実装されるため、従来GPUの周囲にズラリと並べざるを得なかったVRAM(ビデオメモリー)用のスペースが不要になりました。そのため、Fury Xのカードの長さは200mm弱と短くなっているのです。

 さらに、AMDは今夏後半にFiji+HBMベースで作られたミニサイズのグラボ『RADEON R9 Nano』をリリースする予定です。小型ゲーミングPCで今後RADEONの活躍の場が増えそうな予感がします。

 GPUの基本的なアーキテクチャーに変更はないため、GPUのTDP(最大消費電力。GeForceのTDPとは意味が異なります)は275Wと大きめになっており、補助電源も8ピン×2構成なので消費電力はあまり期待できない感じです。ただし、Fury Xでは水冷クーラーが標準で備わっています。高負荷なゲームを全力で回してもガンガン冷やせる点は頼もしいですね。

RADEON R9 Fury X

 外部電源は8ピン×2。コネクターの根元には9基のLEDがあり、うち8基はGPUの負荷に応じてオーディオのレベルメーターのように点灯します。発光色は赤/青/紫/消灯から選択可能です。

RADEON R9 Fury X

 ディスプレー出力端子はDisplayPort3系統にHDMI1.4aが1系統。DVIは4K時代には相応しくない(+コネクターが無駄にデカい)ので撤去されてしまったようです。しかしHDMI2.0非対応なのは残念でなりません。

RADEON R9 Fury X
RADEON R9 Fury X

 水冷ユニットのラジエーター部は結構大ぶり。ファンの口径は120mmですが厚み(約65mm)と長さ(約155mm)があるため、設置場所はある程度選びます。高負荷時の排気温度も50℃以上にあるため、ケースの天井か背面に付けないとダメな感じです。

 今回の検証環境は以下の通りです。比較対象として1世代前のR9 290X、さらに価格やターゲットユーザー層が被っているGTX980Tiを用意しました。

●検証用PC構成
CPU:Core i5-4670K(4コア/4スレッド、3.4GHz、最大3.8GHz)
マザー:ASRock Z97 Extreme6(Intel Z97 Express)
メモリー:Corsair CMY16GX3M2A2133C11(DDR3-2133で使用、8GB×2)
グラフィック:RADEON R9 Fury Xリファレンスカード、RADEON R9 290X リファレンスカード、GeForce GTX 980Ti リファレンスカード
SSD:Crucial CT512M550SSD1(512GB)
電源ユニット:Corsair RM650(80PLUS GOLD、650W)
OS:Windows 8.1 Pro(64ビット)
ドライバー:Catalyst 15.15.1004(Fury X)、Catalyst 15.6beta(R9 290X)、GeForce 353.30(GTX980Ti)

RADEONとしては速いが、ライバルには負ける

 グラフィックの性能比較は定番の『3DMark』を使い、描画の重い“Fire Strike”と“Fire Strike Ultra”で比較しました。4Kを視野に入れた製品なのでFire Strike Ultraのスコアーに注目しましょう。

RADEON R9 Fury X

 新旧RADEONという点ではFury Xは大きく性能を伸ばしていますが、GTX980Tiのスコアーには及びませんでした。3DMarkのVRAM使用量は4GB程度と、今どきの超重量ゲームに比べるとマイルドなものなので、VRAM搭載量の差ではなくアーキテクチャーの差といえます(ドライバーの熟成度も関係しそうですが、熟成だけで製品版でここまでの差を逆転できるものではありません)。

  次に拡張パックが発売されたばかりの『ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド』公式ベンチを試してみます。画質はDirectX11の“最高品質”、解像度はフルHDと4Kの2通りで検証します。Fury X環境だとなぜかフルスクリーンモードで動かなかったので、今回はウインドーモードで計測しています。

RADEON R9 Fury X

 ここでもR9 290Xよりだいぶスコアーが良くなったものの、GTX980Tiよりやや劣る感じです。ただ、4K設定ではGTX980Tiにスコアー400ポイント差まで詰め寄るなど、Fury Xのスペックが活きるシーンも見受けられます。

 もう少し重いゲーム『ウイッチャー3 ワイルドハント』でも試してみました。画質設定は最も重くなるよう設定していますが、このゲームで毛皮等の表現に使われる“HairWorks”はRADEONでは圧倒的に不利に働くため、一律オフにしています。『Fraps』を使い、フィールド上の一定のコースを移動する際のフレームレートを計測しました。

RADEON R9 Fury X
RADEON R9 Fury X

 フルHDにおける3者の力関係は3DMark等と共通していますが、4K設定だとFury XはGTX980Tiに並ぶどころか、わずかに勝っています。これがHBMの力なのか、それとも4096基のSPによるものかは不明ですが、今までGeForceに大きく差をつけられていたRADEONが、シチュエーション次第ではGTX980Tiと肩を並べて争えるようになった、という点は評価すべきでしょう。

 では消費電力は? ということで『Watts Up? PRO』を利用してシステム全体の消費電力を計測してみました。アイドル時はシステム起動10分後、高負荷時は『3DMark』のFire Strikeデモ中同一シーンにおける値を計測しています。

RADEON R9 Fury X

 SPを山盛にしたハイエンドGPUであるため消費電力が増えているのは予想していましたが、実際思ったほど増えてないな、というのが正直な感想です。本当はGeForce並のワットパフォーマンスをお願いしたい所ですが、アーキテクチャーがGCNである以上仕方なのない所です。

 最後に高負荷時のGPU温度はどうなっているか、調べてみました。水冷ユニットを標準で備えているのだからさぞ冷えそうですが、相手はTDP275Wの高発熱モデル。ここでは『ウイッチャー3 ワイルドハント』を起動し、ゲームを30分プレイ状態で放置した時の温度とGPUクロックの変化を『HWiNFO64』でチェックしました。

RADEON R9 Fury X

 GPUのクロックは1050MHzでほぼ安定し、温度が高くなってもクロックの上限が下がることはありませんでした。そして温度はゲーム開始から10分程度かかって64℃に到着し、その後はそこで安定。普通の空冷クーラーだと3分もかからずに温度が上限に達する製品もあることを考えれば、水冷クーラーはかなり強力といえそうです。ただその分ポンプの動作音が常時鳴っている(CPUの簡易水冷より音が気になります)のが残念なところです。

まとめ:ゲーマーの選択肢に入れてもいいレベル。ただし……

 以上ざっくりとFury Xをレビューしてきました。大方のシチュエーションにおいてはまだGeForceに負けることはあるものの、シチュエーション次第では比肩する、というのは大きな進歩です。しかし、問題は4GBというVRAMの少なさ。4K解像度でもゲームを遊べるのがFury Xの売りでありますが、最近の重量級ゲームだと4K+高画質なら4GBに納まりきらないゲームも結構あります。

 本格的にコアゲーマーに売り込もうと思ったら、やはりVRAMは6GB以上必要なのではないでしょうか。HBMの歩留まりや価格の問題で出せないという理由が考えられますが、GeForce 900シリーズの売れ行きを見るかぎり、良い物を作れば売れるのは確かなのでAMDにはここで一踏ん張りして欲しいところです。

■関連サイト
RADEON R9 Fury X製品ページ(英語)

(2015年7月21日22時35分訂正:記事初出時、検証環境のCPUの型番が間違っていました。Core i7-4670Kとなっておりましたが、正しくはCore i5-4670Kです。お詫びして訂正します。)

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