電子版週刊アスキーにて好評連載中の「仮想報道」よりバックナンバーをピックアップしてお届けします。Twitterの企業買収にまつわるエピソードから見えてくるFacebookとの違いとは。前回「Twitterに字数制限が必要な理由:仮想報道」の続きです。※一部内容は連載当時のままです。
Vol.835 ツイッターとフェイスブックの企業文化は違う?
(週刊アスキー2014/8/5号 No.989より)
ツイッターを使い続けている人は4人に1人
ツイッター社によれば、世界でツイッターを使っている人は2億5500万人とのことだ。ツイッター人口がフェイスブック人口と並んでいる国はそんなに多くはないらしい(日本では、フェイスブックとツイッターを実際に使っているアクティブユーザー数がどちらも2000万人強で競っている)。(※いずれも掲載時、2014年7月時点のデータ)
広告主が気になるのは実際に使っているユーザーであることもあってか、ツイッターは、アクティブユーザー数しか発表していない。ツイッター社によるアクティブユーザーの数字は、アカウントにともかくもログインした人を数えていると思われる。だからタイムラインを見ているだけで(ほとんど)つぶやいていない人も含まれているだろう。
以前、ツイッターで頻繁に情報発信している人はかなりわずかで、大半の人はフォローしている人のツイートを見ているだけという調査結果を紹介した。アクティブユーザーといってもこうしたユーザーも含まれているにちがいない。
「ツォップチャート」というサイトはツイッターのアカウント数を発表している。それによると、10億4290万とのことだ。つまりアカウントを作ったものの実際にいまも使っている人は4人に1人しかいないことになる。
ロイターが行なった調査でも、アカウントを作ったものの使っていないユーザーは、フェイスブックよりもツイッターのほうがずっと多いという結果だった。そして、ツイッターを使っていない人の38パーセントが、何がおもしろいのか、何の役に立つのかわからないと答えたという。ツイッターが何の役に立つのかは、創立メンバーでも揉めていたぐらいだから、よくわからないと答える人が多くても不思議ではない。
↑ツイッターについてのデータを提供していた「ツォップチャート」。5年にわたってツイッターの情報(API)を取得してデータを提供してきたが、規約に反しているということでツイッター情報の取得を差し止められてしまったと、活動を停止した。
ツイッターが政治的なツールと見られるようになった理由
ツイッターは見ているだけの人が多いといっても、数では測れない影響力がある。
自由を求めた「アラブの春」で重要な役割を果たしたり、オバマ政権誕生に貢献したりと、政治的な影響力を発揮してきた。しかし、政治的にどういう役割を果たすかは、社内でも議論になってきたとニック・ビルトンの著書『ツイッター創業物語』は書いている。
政治にかかわることでツイッターは名を売ってきたわけだが、4人の創業者のなかには、政治的に一方の側に荷担していると見られるべきではない、中立的なツールであるべきだと主張し続けてきた人物がいるという。
創業者のなかでメディアに語ることがうまかったこともあって一時「ツイッターの顔」となっていたビズ・ストーンだ。仲違いして追放劇を繰り返してきたツイッター創業者たちのなかでは、温厚な人柄のストーンは蝶つがい的な役割を果たしてきたようだ。彼のツイッターへの貢献は、第一にこうしたツイッターの「倫理的な側面」にあったとのことだ。
政治的にアクティブな役割を果たすのは好ましいことのように思っていたが、たしかにそれは諸刃の剣だ。自分たちはあくまで中立的な道具を提供しているだけで、それをどう使うかは利用者にゆだねているというスタンスをとるほうが賢明かもしれない。
2009年のイランの大統領選挙では、不正があったと反体制派の抗議運動が起こった。抗議集会の呼びかけなどでツイッターがさかんに使われ、その一方、自由を求める若者たちの動きを政府がおさえにかかり、世界中の注目が集まった。しかし、大規模な抗議運動があるときにツイッターの定期メンテナンスがぶつかり、機能が停止することがわかった。反体制派の動きを支援したい米国務省は延期を打診し、ツイッター社はそれに応じた。
ツイッター社と国務省との「連携」が報じられたが、このときもストーンは、公平な立場を維持したいと主張したという。彼は、ツイッターが政治的な役割を果たすこと自体に反対しているわけではなくて、会社の人間がメディアに出ていって特定の立場に立っていることを表明すべきではないと考えていたようだ。
ストーンはこうした立場をとる一方で、利用者の個人情報を守るポリシーをツイッター社内に浸透させた。どう振る舞うべきかというモラルの問題についてはっきりとした主張を持ち、「ツイッターの良心」として発展を支えてきたわけだ。
ツイッターのアイデアを思いついたという意味で最大の貢献者であるはずのジャック・ドーシーだが、その行状についてビルトンは批判的だ。ストーンの打ち出した方針をドーシーは裏切る行為を重ねてきたという。
オバマがツイッターを使った対話集会を開いたときにも、ドーシーは司会を買って出た。ドーシーは社内での決定権をまったく失っていたにもかかわらず、メディアの取材を次々と受けた。ツイッターが社会問題で触媒の役割を果たしたことについてインタビューに応じるべきでないと常日ごろ言っていたストーンは激怒し、「強く反対する」と全社にメールを送ったそうだ。この章のタイトルは「ジャックが凶暴化した」だった。
↑ロイターの調査では、フェイスブックに登録していて使っていない人は7パーセントだったのに対し、ツイッターに登録していて使っていない人は36パーセントいたという。上記の調査へのアクセスはこちら。
ツイッター買収を何度も試みたフェイスブック
ビズ・ストーンが培ったツイッターのこうした企業文化は、他社との合併話のときにもハードルになったようだ。
この本では、米ヤフーやフェイスブックなどとの買収交渉について生なましく描いている。ツイッターはいずれの買収話にも乗らなかったわけだが、これら企業からは「応じなければ同じようなものを作ってつぶしてやる」と脅されたという。こうしたことはシリコンバレーではよくある話なのだそうだ。
フェイスブックからの働きかけがもっとも詳しく書かれている。フェイスブックのCEOザッカーバーグは、ツイッターは脅威になると感じて危機感を持ち、何度もアプローチしてきたとのことだ。ドーシーに近づき、買収に応じさせようともした。ドーシーは買収に前向きだったが、ザッカーバーグにとってタイミングの悪いことに、ドーシーが失脚し、この話は流れてしまった。
ストーンやエヴァン・ウィリアムズらほかの創業メンバーは、フェイスブックとはカルチャーが違うと感じていた。フェイスブックは金を稼ぐことに関心があるが、自分たちは、全世界の人びとが平等に意見を言えるとか、権力のない人びとが権力の濫用に対して立ち上がるのに役立つといったことに価値を見出してきたという。
ドーシーが復権し、幹部が大きく変わってしまったいまのツイッターにもこうしたDNAが受け継がれているのかどうかわはわからない。しかし、日本ではフェイスブックとツイッターのカルチャーに政治的な違いがあるなどと意識されることは少ないだろう。2つのソーシャルメディアに違った企業文化があるということを『ツイッター創業物語』は教えてくれる。
Afterword
日本でも、買収に応じなければ同じようなものを作ってつぶしてやるといった威圧的な交渉が行われているのだろうか。なくはないだろうが、そもそもアメリカほど買収が頻繁でもないし、ネットのビジネスでは先に立ち上げたほうが有利なこともあって、似たサービスをあとから立ち上げてつぶしてしまうのはそう簡単ではないはずだ。
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画像:Jason Howie
●関連サイト
歌田明弘の『地球村の事件簿』
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