週刊アスキー電子版では、角川アスキー総合研究所・遠藤諭による『神は雲の中にあられる』が好評連載中です。この連載の中で、とくにウェブ読者の皆様にご覧いただきたい記事を不定期に転載いたします。
5月某日、大阪で行なわれた“新世紀発明バトル ABC ハッカソン~ひらめきで世界を変えろ!~”に審査員として参加させてもらった。テレビ局や新聞社がハッカソンをやることはあるが、どちらかというと“オープンイノベーションに前向きな会社”ですというブランディングと、逆に“メディアのこれからのメシの食べ方をみんなに聞きたい”という本音のまじった雰囲気のものが多かった。それに対して今回の朝日放送は、ハッカソンの参加者を密着取材してコンテンツとして料理してしまった。
(C)ABC |
ハッカソンの始まりは'99年のサン・マイクロシステムズによるものだそうだが、そんなシリコンバレー生まれの風物を、お茶の間のエンターテインメントにしてしまえというわけだ。実際、ハッカソンは『料理の鉄人』や『アメリカン・アイドル』に負けない緊張感と盛り上がりがある。それどころか、若い男女が130人も集まって(たいていは男でかなりのオジサンもいるが)3日間にわたってムッチリと作業するのって、街コンを極端にコッテリさせた催しのようでもある。それとはあまり関係ないが、'70年代からバブル期にかけて日本で放送されたデート番組、『ラブアタック!』、『プロポーズ大作戦』、『パンチDEデート』、『ねるとん紅鯨団』のすべては大阪のテレビ局制作だったのをご存じか?(ふたつずつABCと関西テレビ)。
ところで、今年に入って私は毎月のように大阪に出かけていて、関西のスタートアップに関係する人たちと話をさせてもらうこともある。すると必ず「大阪から新しい文化やテクノロジーを発信するには?」というような会話になる。私にとって、大阪パワーはある種のあこがれであった時期があるので、そういう話になると「なんで?」という気分になる。
'80年代はじめ、吾妻ひでお取り巻き軍団だった私は、先生について大阪で開催されたSF大会まで出かけた。いわゆる“DAICON Ⅳ”である。当時は、東京のオタクどもに大阪まで行かなきゃと思わせるものがあったのだ。そして、入り口で「ここでは通貨がありますので」と両替させられたときにガツーンときた(これの経緯は岡田斗司夫氏が本誌に詳しく書いていたと思う)。当時の大阪のポップカルチャーといえば、情報誌『プレイガイドジャーナル』が映画を1本紹介する際の味のある論調がよかったし(私は新宿紀伊國屋アドホック店の地方誌コーナーで毎月買っていたのだ)、いしいひさいち氏もいた『チャンネルゼロ』も同人誌の域を超えていた。その頃の私と大阪と言えば駸々堂阪急ファイブ店やゼネプロで『東京おとなクラブ』を売ってもらっているくらいの関係しかなかったが。
それで思うのは、なんとなく大阪って“お笑い”ということをよくいうけどむしろ“センス・オブ・ワンダー”がエネルギー源だったのではないか? ということだ。こう書くと私の直下のスタッフ全員が関西出身で「全然違いますよ」などと返ってきそうなのだが、堂々とアンチ東京をうたってヤバめなものを世界から集めて眺めているだけで、人も育つし自然に噴き出てくるというものだ。その意味では、世の中的にはまだなんだかわからないハッカソンを思いっきりショウアップしまくるという、今回のハッカソンのハックは楽しい出来事だ。酒あり(?)女あり(?)の味付けは、ぜひとも米国のスタートアップスクール“Yコンビネーター”の関係者などにも見ていただきたい。6月20日(土)25時45分から、地上波(朝日放送)とニコニコ生放送で同時放送とのこと。
もっとも、ABCハッカソンの中身自体は“1万人以上の参加者のあるイベントで便利に使えるハードウェア”というテーマで、API提供社もメンターの方々もキッチリした顔ぶれ。ドコモやTechCrunchのハッカソンの審査員もやらせてもらった私から見ても、生み出された作品の水準は高い。審査員のひとり、マンガ家の江川達也先生は、Javascriptを勉強中で大学の卒論はコンパイラの開発(しかもアセンブラで)だったというのには驚きましたが。
↑ABC ハッカソンの最終プレゼン審査風景。一番手前が江川達也さんで一番向こうが私ですね。AR 三兄弟の川田十夢氏やYahoo!Japanの村上臣氏の顔も見えます。番組イメージキャラクターを務めるのは、モデルで歌手の三戸なつめちゃん。(C)ABC |
●関連サイト
ABC Hackathon
【筆者近況】
遠藤諭(えんどう さとし)
株式会社角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員。元『月刊アスキー』編集長。元“東京おとなクラブ”主宰。コミケから出版社取締役まで経験。現在は、ネット時代のライフスタイルに関しての分析・コンサルティングを企業に提供し、高い評価を得ているほか、デジタルやメディアに関するトレンド解説や執筆・講演などで活動。関連する委員会やイベント等での委員・審査員なども務める。著書に『ソーシャルネイティブの時代』(アスキー新書)など多数。『週刊アスキー』巻末で“神は雲の中にあられる”を連載中。
■関連サイト
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