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宇宙からスペースデブリの“流れ星”が降る日

2015年06月18日 20時00分更新

 理化学研究所は4月、ISS(国際宇宙ステーション)から“宇宙望遠鏡”と“レーザー”を組み合わせたシステムを使い、“スペースデブリ”を除去する技術を提案して話題となった。注目の理由は、1辺10cm以下の小さなスペースデブリを対象としていた点だ。

 スペースデブリとは、人工衛星を打ち上げた際のロケット上段の残骸や、運用を終えて軌道上に残っている衛星、それらが衝突した後の破片などを指す。2014年末の時点で、アメリカのスペース・サベイランス・ネットワークがカタログ化しており、監視対象となっている大型のスペースデブリは、地上から確認できるもので合計1万6906個ほど存在する。

地上からスペースデブリの“流れ星”が見える日
地球低軌道に存在するスペースデブリのイメージ(スケールが合っているわけではない)。年々数が増えているため、深刻さを増している。
(C)NASA Orbital Debris Program Office

 しかし、地上からのレーダーで検出できるのは主に金属のデブリで、樹脂などで構成されたデブリや、センチメートル級の小さな破片は正確な数がわからないのが現状だ。特に小さなデブリは、大きなデブリの周囲に、まるで雲のように付随する“デブリクラウド”となって軌道を周回しており、それらは70万個以上、3000トン以上の量になるとの推計もある。

 大きなスペースデブリに関しては、JAXA 宇宙航空研究開発機構や民間企業、アストロスケールが小型の推進機関を取り付けて衛星を大気圏に再突入させるといった除去方法を検討しているが、センチメートル級の小さなデブリの除去方法については、これまで有効なものがなかった。

地上からスペースデブリの“流れ星”が見える日
1980年代、NASAの人工衛星『ソーラーマックス』にスペースデブリが衝突して表面に開いた穴。
(C)NASA Orbital Debris Program Office

 理化学研究所の戎崎計算宇宙物理研究室 戎崎俊一博士らの研究チームが提案しているのは、宇宙から飛来する宇宙線を検出するために開発された“EUSO型超広角望遠鏡”と“CAN”と呼ばれるファイバーレーザーを組み合わせる方法だ。CANは、光ファイバーを媒質に使った固体レーザーの一種で、振動に強いという特徴があり、ロケットによる打ち上げの際の振動も、ファイバーレーザーなら耐えられるという。

EUSO型超広角望遠鏡
地上からスペースデブリの“流れ星”が見える日
口径3mのEUSO望遠鏡。
画像提供:理化学研究所

 方法はこうだ。まず、EUSO型広角望遠鏡でデブリの位置と速度を検出する。次にその方向に向かって高強度レーザーを照射し、その反作用で公転しているデブリの速度を落とす。速度が落ちることによってデブリは地球の重力に引かれて大気圏に再突入し、燃え尽きて消える。

地上からスペースデブリの“流れ星”が見える日
EUSO望遠鏡とCANファイバーレーザーの構成図。
画像提供:理化学研究所
地上からスペースデブリの“流れ星”が見える日
EUSO望遠鏡で検出したスペースデブリをCANレーザーで除去する仕組み。レーザーでデブリの表面をプラズマ化させて進行方向と逆に噴出させ、速度を落とす。デブリは重力で大気圏に再突入する。
画像提供:理化学研究所

 現在、ISSはスペースデブリに対して10cm以上の大型の場合は回避行動を取る、小さなものは進行方向のデブリバンパーで受け止めるという対応を取っているが、このレーザーが小さなデブリを除去できれば、ISSの安全性も格段に上がるだろう。センチメートル級のデブリは、1ヵ月に1回程度の頻度でISSからの距離100kmまで近づいて来るため、そのたびに出力500kWwのレーザーの照射を10秒程度照射すればいい。そのための電力は、ISS太陽電池パネルの出力全部を30分間使えば得られる」という。

 このEUSO望遠鏡を使ったデブリ除去システムは、“プロトタイプ”版と“フルスケール”版の2段階を経て、実用化を目指している。

「まずは、2017年に口径20cmとなるEUSO望遠鏡とファイバー100本からなるプロトタイプをISSに運んで実証を開始する提案をしています。システム開発のとりまとめはイタリア・ロシアが共同で行い、ISSのロシアモジュールから実証を想定しています。プロトタイプで実証するのは、EUSO望遠鏡の視野をスペースデブリが通ったときに検出できるかどうか。また、デブリの方向や速度を決定できるかという部分です。さらに、レーザーの照射実験。レーザーが当たれば明るくなるので確かめることができます。この時は、リモートセンシングに使う弱いレーザーで十分です。」(戎崎博士)

 スペースデブリとISSはそれぞれ秒速8km(時速約2万8000km)程度の高速で飛んでいるため、レーザー照射は人ではなく自動システムを予定している。「システム全体が正確に機能するかをまずやって、ひとつひとつ確認していかなければならない」と戎崎博士。とはいえ、これまでより正確にスペースデブリを発見、追跡できることに大きな意義があるのだ。

地上からスペースデブリの“流れ星”が見える日
2015年の国際宇宙ステーションの構成。ソユーズ宇宙船がドッキングしている場所が、EUSO望遠鏡フルスケール版の取り付けを検討しているロシアの小型研究モジュール「MRM1(ラスヴェット)」になる。
(C)NASA

 “プロトタイプ”版が順調に成功した後は、口径約3mのフルスケール版EUSO望遠鏡を打ち上げるためのプロジェクトへと移行する。こちらは2019年~2020年にロシアから打ち上げ、ISSのロシアの小型研究モジュール『MRM1』の外側に設置する目標だ。特に日本はEUSO望遠鏡の中でもフレネルレンズと呼ばれる、望遠鏡の主要部品の開発を担当しており、フルスケール版ともなれば、100km先のセンチメートル級デブリをも検出可能になる。

 そもそも宇宙線を観測するというサイエンスのための望遠鏡を、スペースデブリの除去という実用技術に結びつけた理由は、理化学研究所ならではの背景がある。「もともと、EUSO望遠鏡でスペースデブリの検出ができるという確信はありました。理研には“基礎研究から実際の社会に役に立つ研究まで一貫して行なう”という組織のモットーがあります。そこで実用化の検討を始めたところ、5年ほど前にレーザーのコミュニティと知り合って始まったといういきさつですね」と戎崎博士。

地上からスペースデブリの“流れ星”が見える日
お話を伺った理化学研究所の戎崎計算宇宙物理研究室 戎崎俊一博士。

 ISSでのプロトタイプ実証の先には、より大型の望遠鏡を利用して軌道上で単独で機能する“スペースデブリお掃除衛星”の構想を見据えている。「いわゆるスパイ衛星(偵察衛星)や地球観測衛星が多く飛んでいる、地球を南北に周回する高度900km以下の軌道に配置し、スペースデブリを除去」し続ける、本格的な宇宙の掃除衛星計画だ。

 ちなみにこの領域は、制御機能を失ってスペースデブリの増加の原因になっている人工衛星に小型エンジンを取りつけ、大気圏に再突入させる技術が研究されているエリアだ。ビジネス化を目指しているベンチャー企業なども登場しており、彼らともEUSO望遠鏡技術によるデブリ除去衛星は協力できるとしている。具体的には、大気圏再突入用のエンジンを取りつける際、対象となる衛星やロケットボディが激しく回転していると、接近して捕まえることができないため、レーザーを照射してデブリの回転をまず止めるというのだ。レーザーデブリ除去と、エンジンを使ったデブリ除去は競合するものではなく、むしろ協力し合う関係になるだろう。

 スペースデブリ問題の光明となりそうな理化学研究所レーザーデブリ除去技術。最後に、気になる点がひとつある。ISSからレーザーを照射してスペースデブリが地球に落ちるとき、その光は地上から見えるのだろうか?

 戎崎博士「ええ、見えると思いますよ。まずISSからレーザーを照射する光が見えて、その後、スペースデブリ自身が大気圏に再突入する際の光が見えます。きっと、流れ星のように見えるでしょうね」。

 実験の予定を公表する予定は?

 戎崎博士「僕は、いつ実験を実施しますという予定は公表されるし、すべきだと考えています。スペースデブリと言ってももとは人工衛星、特定の国や企業が持つ宇宙の財産です。役割を終えて軌道から取り除くとしても、勝手にやることはできない。高い透明性、信頼性を持って、関係者の合意を持って実施しなくてはならないことですからね」。

地上からスペースデブリの“流れ星”が見える日
※写真はイメージです。
(C) William L. Stefanov, Jacobs/ESCG at NASA-JSC.

 そう遠くない未来に、スペースデブリの流れ星が楽しめる日が来ることを心待ちにしたい。

■関連サイト
理化学研究所『高強度レーザーによるスペースデブリ除去技術』

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