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IchigoJamの世界進出は始まっていた。開発者福野泰介さんインタビュー:IchigoJam第6回

2015年06月06日 13時00分更新

 “こどもパソコン”こと『IchigoJam』。そもそもどういう経緯で作られたのか、今後どうなっていくのか、開発者の福野泰介さんにお伺いいたしました。少年時代の福野さんのエピソードも少し。

IchigoJam福野さんインタビュー
↑jig.jp代表取締役社長でIchigoJam開発者の福野泰介さん。


■IchigoJamが生まれたのはMSXのおかげ?

――IchigoJamを開発することになったきっかけを教えてください

福野 5年くらい前から、“子供にプログラミングを教える”というを取り組みをやっていまして、最初はタブレットを使っていたんですが、興味をもってくれる子に継続できる環境を提供できなかったんです。タブレットを買ってもらうというのがまずハードルが高いですし、タブレットを持っていたら持っていたでゲームで遊んじゃうし。
 そんな中、『Raspberry Pi(ラズベリーパイ)』が出てきて、「これを使えば……」とも思ったんですけど、セットアップしたりなんかしたりと結構ややこしいので、もっと簡単なほうがいいなと思っていたんです。そんなときに、ちょうどアスキーさんのMSX30周年記念企画を見て、昔使っていたMSXをひっぱり出してきて――壊れてたんですけど直して――動かしてみたところ「意外とこれで教えるのってありかもな」って思ったんですね。それがきっかけで、作ってみようとできたのがIchigoJamです。

――あらそうなんですか、意外なところでうちとつながっていたんですね。それでBASICを?

福野 『Scratch(スクラッチ)』とか、いろんなプログラミングっぽい体験アプリはあるんですけど、あれでプログラマーになれるかっていうと、やはりできることに限界があるなと。逆にシンプルなことをやろうにもまどろっこしくて、あまり好きになれなかったんですよね。そんな中、昔はMSXのBASICでプログラムを6年間やっていたんで、そういうのは今の子供たちでも、もしかしたらいけるんじゃないかと。

IchigoJam福野さんインタビュー
『Scratch』は、MITメディアラボか開発した初心者向けプログラミングの学習環境。


――IchigoJamを使った、子供向のプログラミングイベントを積極的に開催されてますが、すごい子供とかいました?

福野 IchigoJamでプログラムを作ることを教えていたら食いつきのよい子がいたので、ちょうどそのころ作っていたIchigoJamのマニュアルを渡してみたんです。そしたら、たった数日で「全部読んじゃったんですけど、次何やったらいいですか?」とかいう連絡があって。

――保護者のかたの反応はいかがでしょう

福野 お父さんがハマるケースもあって、親御さんにも新鮮で楽しんでいただいているみたいですね。あと、子供の食いつきがよくて「今までこんな顔したのを見たことがない」という声もあったりして、それは非常にうれしいですね。

――子供はどこにいちばん食いついてきます?

福野 やはり自分でプログラムを作るところですね。プログラムするとその通りに動いて、どんどん複雑なものが作れるようになっていくところとか。多分、その先には自分で自在にゲームが作れるようになるという予感があるんでしょうね。

――小学生が多いんですか?

福野 ええ、ターゲットは小3と思っているので。

――なぜ小学3年生?

福野 あまり根拠はないんですけど、私自身小3からやってきたんで、そのくらいの子でも好きな子は好きなんだろうなと思って。

――その話お聞きしても良いですか?

福野 はい。私はファミコンにハマった世代なんですが、ちょうど小3のころ友達の家に行ったら、ファミリーベーシックが置いてあって「なんだこれ、ゲーム作れるのか!?」ってなって。で、すぐ欲しくなって親にお願いしたところ、買ってきたのがMSXだったと。

――よくある悲劇ですね(笑)。某セガのアレでなくてよかったかもしれません。

福野 あまり悲劇とも思ってなかったんですけど。どうやら電気屋さんに行ったら、ファミリーベーシックがなくて、それならこれお勧めだよと勧められたのがMSXだったみたいなんです。

――では、一番最初のパソコン体験はMSXなんですね。ちなみに機種は?

福野 キヤノンの『V10』ですか。1983年製のを87年に買ってるんでけっこう安かったはずです。
 で、それについてきた説明書を読みながらインベーダーふうのゲームを作ったというのが最初ですね。いや、初めは説明書に数あてゲームみたいなのが書いてあったんで、そこからやりました。

――ベーマガは読んでました?

福野 ときどき読んでましたけど、MSX・FANを買ってました。

IchigoJam福野さんインタビュー
↑徳間書店から発売されていた『MSX・FAN』。写真は1995年7月発行の最終号。


――プログラムの投稿はしていたんですか? MSX・FANは投稿コーナーがありましたよね。

福野 そうですね。本格的にプログラミングを始めたのが小5からだったんですけど、あまり投稿することはなく、中1のころに1回載ったくらいですか。
 小学校6年生のとき、夏休みの自由研究で、作ったプログラムを持って行ったことがありますけど……。

――自由研究でプログラム……どんな内容だったんですか?

福野 6年生のころにちょうどランダムドットステレオグラムというのが流行って、あれが好きで自分で作ってみようということになって。自分で絵を書いたらそれがランダムドットステレオグラムに変わるっていうプログラムを書いたんです。

――おおっ、小学生で!?

福野 それをプリンターで印刷して紙でも見える状態にして、こういう仕組みで見えるという理論と合わせて模造紙に貼って、学校へ持って行きました。

――MSXの次はなんだったんですか?

福野 実は小5のときにMSX2を買って、中3のときにTurboRを買ったんですよ。で、高専に入って、高専の1年の終わりくらいにDOS/Vを買ったんですね。それからはずっとAT互換機でしたが、今はMacです。

――高専ではどういうことを?

福野 高専は電子情報工学科なので、プログラミング関係と、あとは電子回路とか、ハードウェア系も若干ですがやりました。ただ、電子工作自体は小学生のころに電子工作通信教材というのを買ってもらっていたので、ハンダごてなどは子供のころから使ってました。

――それはお父さんとか誰かの影響があるのでしょうか?

福野 いえ、新聞を見てたら電子工作のロボットがどうのというのが載っていて、「これ欲しい」と言ったら買ってくれたんです。毎月だったかな? 届く教材を開けてハンダごてを使って自分で組み立てていました。教科書みたいなものも付いてたんですが、トランジスタとか難しくて意味がよくわかんなかったです。


■まさかのベーマガの復活

――IchigoJamの発表、販売を始めてまわりの反応はどんな感じでしたか?

福野 特にMSXユーザーの方は喜んでくれたみたいです。

――私もそのひとりで……。ネガティブな反応もありました?

福野 まぁ「いまさらBASICか」っていうのはありますね。

――なにか驚いたことは?

福野 一番びっくりしたのは秋月電子の社長が連絡してくれたことです。実際に会ってみたら社長だったといいう。

――それはどういう経緯だったんですか?

福野 実は秋葉原で一番最初に販売が始まったのはアセンブラージュっていう駅前のお店なんです。そこで見ていただいたみたいで。あ、でも元をたどれば、元ベーマガ編集長の大橋さんですかね……大橋さんがいろんな人に紹介してくれたみたいで。大橋さんもアセンブラージュで見て、たしかFacebookで連絡あって「電波新聞で取り上げさせてください」というお話で、「どうぞどうぞ」と。で、電子工作マガジンに載って、まさかのベーマガが復活しちゃったという。これもびっくりしましたね。

IchigoJam福野さんインタビュー
↑今年4月に行なわれた“Ichigojam女子会”のときの様子。前列左が秋月電子の辻本信昭社長、中央のピースの男性が電波新聞社の大橋太郎さん。後列右端がアセンブラージュの槙野汐莉さん。


――ところでIchigoJamの名前の由来を教えてください。

福野 ラズベリーパイが、全世界で600万台というすごい勢いで売れてますが、これ子供に渡してもすぐには使えないんですね。SDカードにインストールとか、別途パソコンがいりますという時点でアウトだと思ったんです。そこを改善して使えるものを作りたいなと。なので、ラズベリーパイに対抗する意識もあり、もっとかわいい名前ってことで「イチゴ」というのをまず決めました。

――ジャムのほうは?

福野 イチゴパイだとひねりがないので、なんか考えていたところ、うちの妻が「イチゴだったらジャムじゃない?」って言ってくれて。

――ではライバルはラズベリーパイということでいいんでしょうか。

福野 そうですね。ただ、実際には使うレイヤーが違うんですね。IchigoJamは本当にプログラムの初心者向けで、ラズベリーパイはお金のない大学生向けに作られているので、そもそもターゲットが違うんですけど……まぁライバルと言えばライバルですかね。

――価格も意識されましたか?

福野 はい。あ、思い出しましたど、イチゴは1と5だからというのが先だった気もします。ラズベリーパイの20ドルとか25ドルとかというのは結構衝撃的で、その半額近くを狙いたいなと。で、15ドルでイチ・ゴです


■IchigoJamは、世界に出ていく

――話は変わりますけど、影響を受けた人はいますか?

福野 人ですか……あまりこの業界と関係ないんですけど、鯖江の日本酒「梵」を造ってる、加藤団秀社長からの影響は大きいです。加藤さん、加藤吉平商店の11代目当主です。

――それはどのような?

福野 日本酒「梵」って、日本で唯一増収増益を続けている酒蔵で、国外で2割売ってるんですよ。世界中を飛び回って、いろんな国で新規開拓し、そもそも日本酒がないところに売り込みに行くっていうスタイルで。実際の酒造りも超ハイテクで、いろんなところに社長自身の発明が入っているとか、モノ作り対する姿勢がかっこいいんです。
 「世界に向けて売っていくコツは?」と聞いたときに「まずは半径10キロ圏内の宝になれ」と言われたんです。「自分がいいと思うものでないと売れるわけがない」って。そして家族や町内の人がいいと思うものでないと絶対売れないと。この話を10年くらい前に聞いて「確かにな」ということで、本当に自分がいいと思うものを作っていこう、まずはまわりの人にいいと言ってもらえるものにしようと思いました。

――そのあと世界に出ていくにはどうすれば?

福野 まぁ、実際に出ていくことですね。外に出て行って、自分が本当にいいと思っているものなら、自信をもって「いい」と言えるんだな、と。

――今後はIchigoJamも世界に出て行こうと思われますか?

福野 そうですね。なんとすでにモンゴルの高専で使われているんです。昨日もちょうどモンゴル高専の副校長が福井にきていて一緒にご飯を食べたんですけど、「今度ロシア持ってくから」って話があったり……。

IchigoJam福野さんインタビュー
↑組み立てキットならわずか1500円でBASIC言語が使える『IchigoJam』。世界の子供たちの食いつき具合も気になります。


――では、IchigoJamの今後について教えていただきたいのですが、バージョン1.0.0のリリース予定はいつくらいになりますでしょうか?

福野 そうですね……6月頭かな、とは思っています。(※このインタビューは5月中旬に行なわれました)

――そこで開発はとりあえず完了ということでしょうか?

福野 いやバージョン1.1に向けてやりたいことはたまっているので。

――たとえば、どういったことを?

福野 そうですね、まず文字列変数の導入ですね。

――え、メモリー足りますか?

福野 メモリーをあまり使わず、たとえばA="mojimoji"と入れると、そのメモリーのポインターを入れるようにします。プログラムが保存されている領域のメモリーのアドレスを代入するんです。

――なるほど!

福野 文字列どうしの足し算とかはできないんですけど、IF文を使って表示する文字を変えるとか、そういうことはできるので。個人的にはどこまで使われるかよくわからないんですけど、作っておいたらきっといろんな使い方してくれるんじゃないかなと思って。
 あとは、ロボット用の命令としてサーボ対応ですね。それに伴って音痴じゃない音が出せるようになります。

――ハードウェア的なバージョンアップはいかがでしょう?

福野 一度基板を変えようと思ってまして、基板を少し大きくします。するといろんな工作がしやすくなり、拡張基板も挿しやすい形になる予定です。

――機能的にというか部品的には変わらないということですか

福野 はい。あ、クリスタルの追加はするつもりです。今、テレビにつなぐと、テレビによっては画面がゆれたりすることがあるので、クリスタルが入っていると安定するんです。値段は据え置きなはずです。

――もっと先の話で、たとえばIchigoJam2.0の構想などはあったりしますか?

福野 2.0ですか……うーん、実はそこそこやったらもういいかなと思ってまして、というのもあくまで入門機としての位置づけなので、機能を付け足して複雑になっちゃうのは不本意なんです。いつまでも、子供の手にちょうどいい、そんなパソコンにしたいなと思っています。そこから先は子供たち自身で発展していったらいいんじゃないかと。

IchigoJam福野さんインタビュー
↑常にグーグルグラスを装着して生活していらっしゃるという福野さん。はずすと不便なんだとか。


――福野さんの会社であるjig.jpについても教えていただけますか?

福野 jig.jpはモバイル用のソフトウェアを作る会社です。設立時はガラケー用のアプリ『jigブラウザ』とかを作っていました。今はスマホ用のサービスが中心で、オープンデータプラットフォームという自治体のオープンデータ化を助けるサービスですとか、グーグルグラスのようにこれから登場するであろうウェアラブルなどの研究もしています。スマホアプリでは『otamart(オタマート)』というオタク専用のグッズを扱うCtoCのフリマアプリが代表作です。

――jig.jpとIchigojamの関係は?

福野 IchigoJamは、jig.jpの製品です。もともとは個人でやってたんですけど、それが会社プロダクトに昇格した例です。

――最後に何かありましたら

福野 今、外で遊んでいる子を見ると、ブランコを囲んで3DSをやってるんです。僕らが子供のころって、家でファミコンやっていると外に追い出されて、いろんな子供の中で自分たちでゲームを考えるというのが当時の遊び方でした。最近は作られたゲームをするしかないっていう状態になっていますよね。ゲームは自分で作って遊ぶともっと楽しいということを多くの子供たちに知ってもらいたいなと思っています。

――どうもありがとうございました。


●関連サイト

こどもパソコンIchigoJam
Jig.jp
 

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