チーズ!チーズ!チーズトーストやっっっばい! てろ~んとしたチーズの味、サクッと噛んで口いっぱいにトーストの香り、これ毎朝食べたら最高に幸せになれる自信がある。あと自分史上最高に太れる自信もある!
落ち着こう。27日にバルミューダが発表したスチームトースター『BALMUDA The Toaster』で焼いたチーズトーストである。価格は2万4732円、6月中旬出荷予定。二子玉川TSUTAYA家電、同社直販サイトなどで先行販売予定だ。
BALMUDA The Toaster(2万4732円) |
トースターに2万円超えとか高すぎじゃね? と思った方、高いには理由がある。あ、バルミューダなのね、何かあるのねと思った方、よくご存知で。
バルミューダといえば『GreenFan』。3万円超えの高級扇風機だが大ヒットした。デザインも美しく、技術も本気のこだわりがある。羽のなめらかな形状や支柱の素材、そしてモーターなどは「理想の風」を作るためゼロから研究した。
そんなバルミューダが作ったのであるからトースターも技術のかたまり。今回採用したのはスチームと温度制御であった。
上から5ccの水をたらしこむ |
チーズトーストモードにセット |
あとは4分待つだけで…… |
ほどよい焦げめがついてジョイアス! |
●「カリッ、もちっ、じゅわっ」である
The Toasterの命題は、そのへんで買ってきたパンのトーストを焼きたてのパンの味に近づけること。同社の寺尾玄代表によれば、おいしい焼きものには原則がある。
「周りにきちんと焼きあがった薄い膜がついていて、中にしっとりした油脂成分が残っていること」
なのである。
つまるところ「カリッ、もちっ、じゅわっ」である。トーストもステーキも焼き魚もおなじ原理だが、おいしい食感を実現するには「油脂と水分を内側から逃さずかつ外側を適切な温度でカリッと焼きあげる」テクニックが必要だ。
そこでスチームと温度管理である。
トースターの上から小さじ1杯(5cc)の水をそそぐと、ボイラーに水がまわり、蒸気が発生。庫内はたちまちスチームサウナ状態になる。水分は気体より早く熱されるため、パンの表面が軽く焼け、パンの内側から水分が逃げなくなる。
庫内のしくみ |
ここからが本番、焼きあげである。
上下についたヒーターをそれぞれつけたり消したりすることで、はじめにパンの風味をよみがえらせるという60度まで上昇させる。つぎに表面をきつね色にカリッとさせる160度、最後に焦げ目がつくギリギリの220度まで上昇させる。
温度を管理しているのは「普通のトースターとは比べものにならない、半端ないスペックのマイコン」(同社)。どうヒーターを設定すれば最高にうまいトーストが焼けるのか、実験で焼いて食べたトーストの枚数は5000枚に及んだという。
スチームトーストは業務用にはあったが、家庭用トースターとしては初めてではないかと同社はいう。高くてもせいぜい1万円台、思いきり2万円を超える機能性トースターをつくろうというメーカーがなかったということではないか。
パンの種類を選んで加熱する |
時間のインジケーターはほの光る |
●参考にしたのは「魔女の宅急便」
スチームと温度管理のしくみによって、トースト、チーズトースト、フランスパン、クロワッサンという4種類のパンを理想的な状態に焼きあげるモードを搭載。もちろん通常どおり300/600/1300wの焼きあげもできる。冷凍パンもサクふわという。
寺尾代表いちばんのお気に入りはチーズトーストだ。
「油脂成分をとじこめたまま焼くので最高のチーズトーストができる。クロワッサンは、普通あっというまに上だけが焦げる。従来のトースターは上下が運転しっぱなしだが、われわれのは完璧な温度制御をするので焦げる温度帯にしない。外がサクッとしていて中がしっとり。焼き上げ直後のクロワッサンを再現する」
寺尾代表の話は本当にうまそうで、聞いてるだけでお腹がすいてくる。せっかくなのでもっと引用したいのだがまたそれは後ほど。
チーズトーストを激推しする寺尾玄代表 |
デザインに定評があるバルミューダ、モノとしてのこだわりもある。ヒントになったのはジブリ映画『魔女の宅急便』に出てくる、かまどだ。
「ニシンのパイをつくって孫に届けてくれと頼むおばあちゃん。家の壁に扉がついていて、薪のかまどになっている。それを使ってパイを焼く、あのテイスト。少しヨーロピアンでクラシックで重みがある。それがおいしいものが出てくる場所としてふさわしいんじゃないかということからたどりついた」
もともとはバルミューダらしくモダンな方向に振ることも考えたが、今回はあえて“モダン・クラッシック”な造形を選んだ。試作段階で今までどおりのデザインをしてみたが「なんかプリンターみたいになっちゃって」(同社)。
引いたとき重みある扉は本格感があり、せりだしてくるトーストへのわくわく感をいやおうなしに高めてくれる。というかたまらなく旨そうに見えるのだ。操作部のデザインはムダなくひきしまって、いやみがない。
出てくるのを待っているチーズトースト |
●五感で「良い日」を作るのが家電の役割
そもそも今回最大のテーマであり疑問である「なぜバルミューダが調理家電?」への答えがデザインにも秘められている。大事にしたのは機能より、五感だ。
やや長いが、寺尾代表の言葉を引く。
「『GreenFan』のような空調家電を作りながら、重要だと思っていたことがある。家電なので性能や機能で比べられることが多いが、それよりはるかに気持ち良さ、心地良さ、美しさのほうが大事なんじゃないかと。数字にあらわせないのに、感じられる。それは五感を使うからだ。五感を通じて人々の体験をよくするのが『電気を使う道具』の役割なんじゃないか。そこで思い至ったのが“食べる”という五感すべてを使う行為だ。食事は、目で見て、耳で聞き、鼻でかぎ、食器で口に運び、舌で味わう。五感のすべてを使う“食べる”というフィールドで良い体験を表現できないかと」
バルミューダは他にも調理家電を開発中だ |
寺尾代表はかねてから「道具としての家電」という話をよくしていた。
家電の歴史はまだ百年ほどであり、はさみや鉛筆のような日用品と比べても道具としての完成度はまだまだ上げる余地がある。なのにメーカーは“商品”をつくろうとするばかりで、道具としての家電を作ってこなかったのではないか。
デザイン先行でも技術発想でもない。デザインと機能が高い次元で結びつき、手に入れると満足感を得られ、人生をよくしてくれるもの。それこそ家電であるはずだ。
そんな熱い思いを持って製品開発をしてきたバルミューダが、あえて空調のノウハウを使わずに勝負をしたのがThe Toasterだ。今年はキッチンシリーズとしてほかの製品もどんどん出していく予定だという。
会場のムービーより。プロトタイプかな |
手探りで開発してきた様子が見える |
めっちゃ長くなって失礼、ここまで読んでくれた方どうもありがとう。これでもかなり削ったのである。書きたいことはまだまだ山積みだ。ここまでわたしを夢中にさせた寺尾代表は絶対に食いしんぼうだと思う。
会場の端々で聞こえたのは「寺尾玄代表はスティーブ・ジョブズだ」という褒め言葉だ。故人と比べるのは失礼だろと思ったが、理想と理念だけでこれだけ人を動かせる力を思うと、そんな言葉が出てくるのもふしぎではない。
最後に寺尾代表がThe Toasterを作ることになった最大のきっかけである若かりし日のエピソードを紹介したい。これまためちゃ長いのだが、これを聞くと心の底からうまいパンが食べたくなる、最高のプレゼンテーションであった。
さかのぼること1991年。17歳のころ、高校をやめて地中海沿岸をまわる放浪の旅に出たことがある。ヘミングウェイが好きで、闘牛の町であるスペイン南部アンダルシアのロンダに行きたかった。
マラガでバスターミナルを探し、4~5時間かけて山道をあがり、バスの停留所にたどりついた。そこから30分から1時間ほどかけ、町の中心まで歩いた。
疲れ果てて、すごく腹が減っていた。が、そんなことよりもさびしかった。
17歳。無鉄砲だった。スペイン語がしゃべれないままスペインに来ていた。ひとりぼっちで、誰も頼る人がいなくて、スペイン語がしゃべれなくて……ただ、ここから始まる放浪の旅には、どきどき、わくわくしていた。いろんな思いで胸がいっぱいになっていた。
そんなとき、町の片隅でいい匂いがしてきた。
焼きたてパンを出したばっかりだった。「何ペセタ?」としゃべれないスペイン語で聞き、ちっちゃな田舎のパンをわけてもらった。
食べた瞬間、どっと涙が出てきた。
期待、不安、疲労、緊張、それが涙とともに流れでてきた。普通、パンは食べたらなくなると思うかもしれないが、本当はなくなってない。ちいさなパンのエネルギーは自分の中に移っている。
食物をからだに入れると元気が出る。
当たり前のことかもしれないが、ひとつの焼き立てのパンを食べて、それをそのとき心から感じた。食べたのは小さな田舎風のパンだが、当たり前のことだが、それがすごくありがたい、心強いんだ、力強いんだなと。
ひるがえって今日、毎朝のようにパンを食べている。もちろんあんな感動を毎朝してたらまずい。涙が涸れはててしまうし、会社に行けなくなる。
ただ、毎朝のパンがすごく美味しかったら朝食が楽しくなる。朝食がすごく楽しければ、そうでない日に比べ、それだけですごくいい日になる。届けたいのは良い一日の基点だ。それが届けられなければ、バルミューダの製品ではない。
●関連サイト
バルミューダ
お詫びと訂正:初出時、寺尾玄代表を寺田玄代表と誤って表記していました。お詫びして訂正します。本当に失礼しました、ごめんなさい!(28日)
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