MSXの登場は1983年ですが、ソニーはMSXスタート時からのメンバーです。最初の機種は価格5万4800円、RAM16KBの『HB-55』。他社のMSXとの差別化のために、内蔵ソフトとして『スケジュール管理』、『住所録』、『伝言メモ機能』などが簡単に立ち上げられるようになっており、性能的、価格設定的にはMSXの中でも入門機に位置づけられていました。“コンピューター”という、それまでお茶の間には存在していなかった未来的で新しい家庭用電気製品に、無根拠に何でもできそうな気がして少年少女たちはワクワクドキドキ憧れたわけですが、実際にはゲームで遊んだり、ゲームを作ったりする以外にはこれといって“生活の役には立たない” 存在でした。それでも“ニューメディア”としてコンピューターを何とか家庭に導入させるべく、ソニーの取った戦略は“デザイン”でした。今回はそんなソニーのMSXへの取り組みを紹介しつつ、後半は銀座にGOってな感じで。
↑アスキーはMSXの言いだしっぺとして、MSXカタログ的な書籍をリリース。もちろんソニーの機種も大々的に掲載していました。写真左は『HB-55』の後継機『HB-75』で6万9800円。RAMの容量が4倍になり、それにともなって内蔵ソフトもちょっと強化されました。右は『HB-101』で4万6800円。だが単なる廉価機種ではありませんぞ。 |
最初の機種、『HB-55』は赤基調とシルバー基調の2種類のカラーバリエーションを用意し“マイコン”の“カタい”イメージを少しでも払拭して“新しい家電”を印象付けていました。ソニーは続いて2つの方向で機種を追加していきます。基本機能の強化を図った『HB-75』は、最初の機種からわずか5ヵ月後の登場でした。もう一方は“デザイン”に力点を置いた『HB-101』です。MSXは老兵には言わずと知れた“統一規格”のコンピューターです。つまりどこの会社のMSXでも、まあだいたい同じわけです。1946年の創業以来、ソニーは“人のやらないことをやる”というチャレンジ精神で既成概念を打ち破ってきました。そんなソニーのDNAがMSXに出した回答こそが『HB-101』なのです。後でもう少し詳しく見ていきます。
↑左はセパレート機『HB-701FD』。いわゆる高級MSX1で、まだ夢の外部記憶装置だったフロッピーディスクドライブを内蔵し、スーパーインポーズ機能、AVコントロール機能など盛りだくさん。色々できそうではありましたが、実際には実用的にはまだまだでした。右ページ上の『ワイヤレスジョイスティックJS-75』は先進的なコンセプトでデザインもカッコいいが、それだけにお高い。『PlayStation Vita TV』より高い。 |
↑ソニーはMSXソフトウェアの流通に対しても積極的に展開していました。ROMだけでなく最初期の頃からフロッピーディスクでもソフトを供給していたのはさすがです。右ページ下右端の『スーパーゲームコレクション』のようにゲームを3本パッケージしたお買い得ソフトでフロッピーの普及にも貢献していました。ってあれ?アイコンがROMになっている! 30年以上経ってからの誤植発見かよ。とほほ。 |
HB-101に話題を戻しましょう。ソニーのMSXは、最初の機種から『HIT
BIT(ヒットビット)』という愛称が付けられていました。もちろん“人々”に届くコンピューター製品になるように願いを込められていたわけです。コンピューターが大学などの専門機関に鎮座する遠い存在から“家電”になれるようにと付けられた名前なのです。ちなみに“BIT(ビット)”はいうまでもなく8ビットとか16ビットとか記憶容量などにも使われる単位のことです。今ではギガとかテラとか何それおいしいのって感じで、もう隔世の感があります。
HB-101の赤は鮮烈な印象の赤で、実にカッコいい。でも実はカラバリで用意されていた黒もツヤツヤでカッコ良かったし、アイボリーもなかなか。HB-101のデザイナー宮下身氏は「それまでの“硬派なソニー”の印象を脱却し“新たなソニー”のイメージづくり」を狙ったと言う。また、鮮やかなボディーカラーは、「塗装前提のデザインが多かった当時において、ゲーム機やホビーらしさのイメージから光沢(艶)で表現」。そして「製品自体の光沢の美しさを引き出すべく曲線を多用した」とのこと。さらに「まったく生活感の無かったキーボード(QWERTY)から受けるとっつきにくさを払拭するため、本体の流線型の形の中に埋め込むことで全く別の道具のように見えるようにした」のです。
↑それまでの“仕事の道具”のイメージが強かったパソコンとは全く違うビビッドな赤色とフォルムのHB-101。 |
本機の手前の部分は取っ手になっていて、実際にキャリングできます。まあ、あっちこっち持ち歩いた人はほとんどいないと思いますが。でも設置したらそれきりではなく、僕らといっしょに“キャリングできる”ということにちょっとワクワクしたわけです。
このカッコいい赤は後の『MY FIRST SONY』シリーズなどにも使われていきます。機器に初めて触れる子供たちが使って楽しくなるデザインで、しかし決して単なるTOY(玩具)ではないもの、そんな思いが込められています。HB-101と同じく取っ手が“持ち運びできる”という、活用する場面をさまざまに変えられる可能性を想像させることによって“楽しさ”を表現しているのでしょう。その製品を使っているさまざまな場面を想像させることで、自分の新しい物語を思い浮かべることができるのです。
↑My First Sonyは、子供向けのAV製品のシリーズ。やはりビビッドな色使いと曲線が多用された子供に親しみやすいデザイン。しかし、おもちゃではなく“本物”のAV製品だった。 |
取っ手が単なる見た目だけのデザインに終わらないように、HB-101は電源ケーブルをスマートに収納できるようになっています。このあたり、デザインにさらなる説得力を持たせるこだわりを感じます。ちなみにHB-101には『HITBIT』の愛称の他に『mezzo(メッツォー)』というイカす響きの副題(?)も付いていました。直訳すれば「適度に~」となります。これもまたコンピューターが特殊なものでなくなって、日常を楽しく彩る新しい家庭電化製品になれるよう願いが込められていたのではないでしょうか。
↑電源ケーブルは裏に収納可能。本気で持ち運びさせるつもりだったようです。 |
さて、かつて持っていた人はもちろん、初めて見た人も実物を見てみたくなってきたのではないでしょうか(笑)。
そんなあなたに贈るイベント『Sony Design: MAKING MODERN~原型づくりへの挑戦~』が銀座ソニービル8階にて開催中です(6月14日まで)。入場は無料ですし、夜19時までやっていますのでお近くをお通りの際はぜひMSXの晴れ舞台を見てやってください。会場に入ると正面ど真ん中にあります!
↑イベントは、デザインから見たソニー製品の歴史ともなっている。『ウォークマン』から『PS4』まで約30点。その中にわれらが『HB-101』も選ばれている。 |
これはもう、MSXが主役に違いありません。MSXアソシエーション的には「いいイベント」と認定いたしました。そして、のちのノートパソコン『VAIO』やロボットの『AIBO』、そして最新の『PS4』などへと綿々と続くソニーのDNAをぜひとも感じ取って頂きたい。
おみやげにはちょっと高価だけど、こんなアートな本もありますよ。もちろんHB-101も超美しく掲載されておりました。
Sony Design : MAKING MODERN(英語)ハードカバー
●関連サイト
Sony Design: MAKING MODERN~原型づくりへの挑戦~
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久しぶりだよ、ツイートおたよりコーナー
ごくま@mtchacさん
RF端子って言葉、すごい久しぶりに見た。
――そうそう、それこそが裏テーマだったりします。断絶の壁が厚くなってくると技術や文化の継承が簡単じゃなくなるのよ。用語の説明も二重三重に重なってきたりして。
m_seko@m_sekoさん
週アスPLUSのMSX愛はどこからきているのか…。
――まあ、言いだしっぺの責任というやつですな。
キュイズ@kyuizuさん
エミュレータじゃダメなんだよ 僕もお店で触れたい
――そう、そんなMSX本体原理主義の方って少なくないみたいですよ。
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