生誕32周年を前にますます盛り上がるMSXにまつわるさまざまなウワサ話に迫るこのコーナー、今回もスクープ3連発いってみましょう。
■スクープ! NECのMSX試作機を発見!?
江東区のとある高層マンションの一室から、「見たことのないMSXと思われるパソコンを発見した」との一報が編集部に入りました。発見者はMSXプリミティブ研究所の所員を名乗っており、「仲の悪い友人宅で見つけた」とのこと。あまり気乗りしませんでしたが「今すぐ来い」とムリムリ取材を求めてきたため、仕方なく現物の確認に向かいました。正直に言うと「スクープ!」とか「歴史的発見!」とかそういう邪(よこしま)な気持ちがあったことは否定できませんが。
「大きな声を出さないで」と言いながら出迎えた通報者は、どうやら持ち主に内緒で連絡をしてきたようです。「今、持ち主ちょっと留守だから早く見て」って、おいおい家の中に勝手に入るわけには……。「大丈夫、ここはこのマンションの集会室だから。許可とってあるから」。どうやら集会室を利用して数人でレトロPCコレクションの整理でもしていた様子。
さっそく見せてもらうと、そのマシンの表面上にはどこにも「MSX」の文字はありません。もっとも海外の機種などに「MSX」の文字が無いものなどもあるため、それだけでMSXで無いとは言い切れません。側面にはMSXの象徴たる「カートリッジスロット」が1個だけではありますが存在しています。東芝の機種などには1スロットの機種も多数存在しますし必ずしもスロットは2個である必要はありません。
↑側面にはMSXの象徴たる「スロット」が見え、反対側の側面には「ジョイスティック端子」がある。背面にはRF端子やプリンター端子があり、「リセット」ボタンの辺りには「当時の悲劇の数々」に起因する浮遊霊が見える。手さぐりで間違えて押しちゃうんだろうなぁ。 |
入出力関係を見ると、D-sub9ピンのアタリ仕様っぽい、いわゆる普通の「ジョイスティック端子」があり、家庭用テレビにも接続できるようRF映像出力もあります。これも「ホームコンピューター」をうたうMSXならではの仕様と言えます。そして何となく全体に漂うチープ感はまさにMSX。微妙に打ちにくそうな小さなボタンが並ぶキーボードのデザインもカシオのアレを彷彿とさせる気がします。しかし何と言っても驚愕すべきは「NEC」の3文字です。NECはMSXを出していないことになっていますが、実はMSX規格賛同メーカーでした。正式に販売しないまでも「MSXの試作機」を作っていたとしてもまったく不思議ではありません。
内部を確認するとCPUは「Z80」。おお、まさに。サウンドチップはPSG「AY-3-8910」、なんかそれっぽいぞ。よしVDPは?「M5C6847P-1」???知ら―――ん! 世界的に使われていた「TMS9918」だけに、互換チップがいろいろあったのかも知れません。
そこへ、「じゃんけんポン!カセットぽん!♪」という歌声と共に持ち主が帰ってきました。ああ、やばい早くフタしないと。とにかく写真だけでも撮って後でMSXアソシエーションに鑑定してもらわないと!
↑謎NECマシン前面写真。MSXアソシエーションからのコメント「これのどこが、新発見のMSXなんですか? 銘版にある機種名、老眼で見えないんですか?」 |
■MSXはだか祭レポート
パソコンコミュニティも歴史が長くなってくると、いろいろ不思議な方向に発展したりするのですが、
30年以上という無駄に長い歴史を誇るMSX界にも「奇祭」と呼ばれるイベントがあったりします。
今回、潜入レポートを敢行するのがこの『MSXはだか祭り』であります。会場は多摩区民館の一室を借りてとのこと。まさかMSXユーザー達が全裸になってゲームに興じているとかじゃないだろうな……。と、恐れおののきつつも会場に着くとそこはなんと「和室」、そして「ミナカン」という謎の文字列。和室でむくつけき中年男たちがMSXを囲みながら「みんなで完全全裸まつり」の略称なのか? 想像しただけでも恐ろしい光景です。尻込みしそうになる気持ちを押さえて、室内に侵入するとそこには!
なんだ普通に服着ているじゃないですか。っていうか長机をいくつか出して十数人のユーザーがゴロゴロとしているだけです。イベントなのにゴロゴロという辺りで既に普通ではありませんが、まあそれはそれとして「裸」の方はどうなったのよ。
↑和室でゴロゴロしているMSXユーザー達。みんなちょっと不自然だぞ。 |
「ああ、はだか祭ね……、んじゃ、そろそろ始めますか」と、皆さんゴソゴソと紙袋から何かを取り出しはじめました。これは……、基板? 基板を見ながら、うっとりする者、興奮する者、急に騒がしくなってきました。
「ん~、やっぱりこの時期のMSXは集積具合が適当に美しい」
「MSXエンジンとか1チップMSXとか邪道だよ。やっぱりMSXはManyチップじゃないとね」
「このパターンの引き回しがノイズ対策的にも芸術的で、ここで裏に行って……」
「カシオのPV-7は片層だから立体交差が一切できないひと筆書き。ホントにスゴイよ」
「最近のマザボは積層が多すぎて見ててわからんしつまらん」
ああ、裸って、そういう……「ガワ」をひんむいて基板だけにした的な……。
「背中に敷いて寝ると、ツボを的確に押すコンデンサの計算しつくされた奇跡的配置が……」
「やっぱMSX1か2の初期の頃のが一番イイよね(何が??)」
「脱げば脱ぐほど性能があがる超闘肌なMSXが欲しいな」
……もはや常人には理解不能な愛でり方です。ひとしきり基板を眺めまわしたあと、突然一人の男が基板を掲げて立ち上がり大きな声を上げた。
「ここでMSXはだかクイズ~、さてこれは何でしょう!」
それにこたえて、すぐさま声があがります。
「う~む、このサイズと形状は、そしてこの音源チップはまさに、MSX-AUDIO!」
「ピンポンピンポン!」
「このチップ配置から漂う試作臭とプリミティブ感、まさに三菱のML-8000だ!」
「ピンポンピンポンピンポン」
「これはコナミ臭ムンムンだが、通常のSCCではないな。コナミの新世サイザーですね」
「これは簡単だね!」
……彼らには簡単なのか。と小さくつぶやくと、となりにいたMSXユーザーがささやいた。「いやいや、こんなの全然マニアックな方じゃないですよ。手のひらに感じる「重さ」だけからどんなMSXアイテムなのか当てる「MSX目方でドン!」とか、「カセットテープのデータ音」を聞いただけでゲーム名を当てる「MSXドレミファドン!」とか凄い大会はまだまだたくさんありますから。「へ~」。MSXの知りたくもない奥深さを垣間見て、力なく相槌を打つだけで精一杯のリポーターでした。
さてここで読者の皆さんにも「MSXはだか検定」に挑戦していただきましょう。
↑はだかMSX検定、第一問(初級):これは本体の裸写真です。本体名を当ててください。ヒント1、左の電源部にSONYの文字があります。ヒント2、あまり集積されていませんが、少し小型化が進んでいます。ヒント3、ちょっと有名な「薬品」と同じ型番。 答:SONYのHITBIT HB−101 |
↑はだかMSX検定、第二問(初級):これは何? ヒント1、普通のゲームカートリッジよりちょっと縦に大きい。ヒント2、ボタン電池がある。ヒント3、音源チップがある。 答:FMパナアミューズメントカートリッジ(FM−PACでも正解) |
■今度こそついに発表! 新MSXPLAYer&MSX3
「狼少年はついに誰からも信用されなくなりましたとさ、めでたしめでたし」 編集部内のバイト君に、デスクはたしなめるように言いました。「ちっともめでたくありませんよ。読者は新MSXの情報をずっと新宿南口の首長恐竜よりも首を長くして待っているんです」。しかし、あれからだいぶ経つのにMSXAからは何の続報も入りません。
「とにかく新情報を聞き出せ!」デスクに無理難題を言われバイト君は困り果てたあげく、秘策を思いつきました。
「この人が教えてくれます」 バイト君が胸を張ってデスクを連れ込んだのは怪しげな「占いの館」。そこには普通のイメージよりもずっと若い感じの女性が1人、顔を濃い紺色の布で覆って椅子に座っていました。狭い室内は良いニオイのする「香」の煙がゆるく漂い、西洋と東洋の宗教を3つ4つ混ぜて5で割ったようなデザインのアイコンと不気味な装飾がほどこされていました。
「この方は、死者ではなく今この世に生きている人の魂を呼び出せるんです」と改めて胸を張るバイト君。
「誰を呼ぶのじゃ?」
想像よりも可愛いロリ声です。思わず軽く萌えてしまうデスク。だが気を取り直して……。
「MSXアソシエーションの誰かと、できれば西さんをお願いします」
「よかろう……」
二つ返事に驚きつつも「できるのか、ホントに???」と思うデスク。
「むにゃ、むにゃ……。けけ、けけけ……」
う! これは、去年取材した自称MSXAの中の人の中の人の声だ。デスクは思い切っていきなり畳み掛けてみた。
「MSX3はどうなっているんですか?」
「1チップよりも先に、manyチップかもしれない。いずれにせよまず先にMSXPLAYerだよ」
と、そのとき。
「ちゃう! MSX3(トライ)が先!」
おおおおおお、突然に西さんの大声が響き渡る!
「無理ですよ。まずエミュで色々と検証しないと」
「必要ない! あのな、エミュとかつまらないだろ? 新しい事しないと人生つまらないぞ」
「できるか、できないか、求められているか、いないか。そもそも自分が本気で欲しいと思うかとかちゃんと考えないと」
「そうやって、『考えてますぅ』、『検証していますぅ』って言っている間に、年とって死んじゃうんだよ、あいつみたいに」
「生きてますよ。それにMSXPLAYerは既にWindows10への対応も進んで、音声再生のバグも解決し、各種検証作業の段階に入っています」
おお凄い、早くもWindows10に対応してるんだ! 喜びと驚きでデスクは混乱し、もはや女性霊媒師を疑う事さえ忘れてしまった。
↑これぞ本邦初公開のWindows10対応版MSXPLAYerだ。ちゃんと動いている! ホントだぞ。霊媒師の娘が開発者として見せてくれたんだから。 |
「あ~つまらん。MSX3は本体を複数組み合わせてスパコン並みになる。そんな夢の環境を提供する。そんだけ。僕は帰る」そう言って西さんはしゃべらなくなってしまった。
「えと、通信は……」
何と、別の声だ。これは中の人3号? いや4号か。
「インターネット通信は、MSX側には搭載せず、WindowsやAndroid側に委ね、MSXで作ったものをシームレスに簡単にやり取りできるようにします。動画キャプチャー機能やカメラとも連動します」
「他に新機能は?」
「スキンまわりは大幅に機能が強化されますが詳しくはまだ言えません。ただ1チップMSXもそうですが、長く使えるようにします」
「あのなぁ、CE機の新機種の件(夢キャス2の事か?)の時、ビルに僕は言ったろ。オフィス全部入れて、キーボードオプションにして、マウス標準にして、いつもの(既存ゲーム機の)サイズで、専用ブラウザでネットにいつも繋がって、あととにかく全部盛りで新機種には驚きがたくさん必要だって。MSXも同じ!」
突然また、西さん乱入。
「だから、それ市場に求められてなかったでしょ。MSXは更にマニア向けで小さいニーズだけれど、まずは最大公約数的に求められているものを最小限実装するってあの時決めたじゃないですか。急ぐ必要はありませんよ。競争相手いないし」
「つまらん。言う事を聞かん連中やなぁ。まあいいわ。暇じゃないし、決まったら教えて~、さいなら。MSX3の試作機ちゃんと作れよ~(だんだん小声に)」
↑降霊中の様子をデジカメに念写してもらった。確かにこんな映像が、ぼや~っと目に映っていたんです。写っているのは、西さん的な男性と、秘密の書類的な何か。霊媒師によるとMSXのロードマップらしいが……。 |
「……」
デスクは少々あっけにとられていた。
「えーと、気を取り直して結局、turboR以上の規格を搭載するんですか?」
「今のところ、新規格を搭載する予定はないです。10年みんなで考えてもMSXの拡張の方向性はまとまらない。代わりに新しい動作モードを用意して、自分でCPUとビデオと音源周りを簡単に少し強化できるようにし、自作ゲームと組み合わせて公開可能にする。いわば『俺仕様MSX』の実行環境と作品をワンファイル化して発表できるようにすることで、各クリエイターが望む新MSX環境を提案可能にするわけです」
「いつ頃発表予定ですか?」
「いつも遅れ遅れで申し訳ないです。クローズなβテスト配信は夏の終わり頃までに。正式発表は年末が目標でしょうか」
「どこから、どういった形で、になりますか?」
「……く、くる苦しい。くーるーしーいー! ……カクッ」
「え? いま口で『カクッ』って言いませんでしたか?」
「……本日は、ご来店いただきありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」
なんだか、スーパーの閉店アナウンスみたいだと思いつつ、ぼうっとしたまま「館」を後にした2人だった。
「ついでにあの霊媒師の先生の霊に聞いてみたんですが……」とバイト君。「超有名新興宗教の教祖様の作った通信教材で教えて免許皆伝したそうです。凄いなあ。」
……やっぱりMSXアソシエーションに直接聞こうと思うデスクでした。
(2015年4月1日 ネタです)
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