マイクロソフトの“Skype”は、商標として認められない――。そんな判決が欧州の裁判所によって下されたとの報道が話題になっています。
最近ではSkyDriveの名前をOneDriveに改名せざるを得なかったマイクロソフトが、再びSkyグループに屈することになるのか。そして同社は、今後もSkypeという名前を使い続けることができるのでしょうか。
■Skypeの名称とロゴマークは“Sky”を連想させる?
Skyグループはロンドンに本社を置き、欧州全体に衛星放送やインターネットの番組配信を提供しています。2014年11月に“BSkyB”から名前を変えたものの、マイクロソフトと“SkyDrive”の名称について過去に争った会社です。
欧州Skyグループ。SkyDriveに続き、Skypeについても”Sky”グループとの混同を指摘、マイクロソフトに勝利する形となった。 |
SkyDriveは英国においてSkyグループが提供するサービスと混同される可能性が認められ、マイクロソフト側が名称を変えることで決着。英国だけでなく、グローバルにおいてOneDriveという名前にリニューアルしたのは記憶に新しいところです。
さらに今回、欧州連合司法裁判所(一般裁判所)は、SkypeもまたSkyグループと混同する可能性があるとの判決を下しています。
Skype側は、「Skypeの“y”の発音は、Skyの“y”より短い」などの反論を試みてきたものの、裁判所はこれを却下。Skypeに含まれる“Sky”が、一般英単語のSkyを連想させることは明らかであると認めています。
また、雲をモチーフとした形状のSkypeのロゴマークも、争点になっています。このロゴがSkypeの独自性を表すものではなく、“Sky”(空)を連想させることもまた、Skypeにとって不利に働いているようです。
お馴染みSkypeのロゴマーク。青と白のカラーリング、雲のモチーフから、“空”を連想させるものだと裁判所は判断を下した。 |
■Skypeブランドを使い続けるリスク
SkyDriveの場合とは異なり、この判決はマイクロソフトに対してSkypeの名称変更を要求していません。欧州における登録商標(欧州共同体商標)としては認められないものの、今後もマイクロソフトはSkypeという名前を使用できるものと考えられます。
ただ、商標ではないという点は大きな不安要素といえます。商標ではないことを理由に、Skypeという名前のVoIPサービスを新たに開始するチャレンジャーな会社が現れないとも限りません。
あるいは英BBCは、Skyグループがマイクロソフトに対してライセンス料の支払いを求めるといった動きに出ることも、理論上はあると指摘しています。
こうしたリスクを排除するために、Skypeという名前を変えるという選択肢はあるのでしょうか。マイクロソフトは2011年に、85億ドルという高額でSkypeを買収した経緯があります。グローバルにおいて高い認知度を誇るブランドを、そう簡単に手放すとは考えられません。
さらに見逃せない動きとして、マイクロソフトはSkypeブランドをコンシューマー向けにとどまらず、ビジネス分野にも拡大することを狙っています。
■企業向けの“Lync”は“Skype for Business”に改名
2014年、マイクロソフトはこれまで企業向けのユニファイド・コミュニケーション製品と知られてきた“Lync”を、“Skype for Business”という名前に変えることをグローバルで発表。2015年4月には、日本国内でも順次切り替えていくことを発表したばかりです。
Skype for Businessの製品担当者である、日本マイクロソフト Officeビジネス本部の小国幸司氏。Lyncより優れるSkypeのブランド力を国内にも展開していくことを語った。 |
単なる名称変更だけでなく、最大1万人という大規模会議への対応や開発者向けAPIの提供など、機能強化も並行して進めるという。 |
Lyncは企業内におけるチャットやIP電話、テレビ電話などの機能を備えています。ExcelやOutlookなどOffice製品との連携も特徴のひとつで、文書の作成者にチャットで話しかけるといった使い方ができます。
ブランドをSkype for Businessに変更するとはいっても、ソフトウェア自体はLyncのものをそのまま受け継いでいます。Lync用のアプリやヘッドセットなどの周辺機器をそのまま流用できるなど、運用面で大きな変化はありません。
Skype for Business(右)はLyncをベースとしつつも、アプリのUIをコンシューマー向けのSkype(左)に近づけるなど、ブランドの統合を図っている。 |
気になるのは、すでに業界で一定の認知度があったLyncという名前を、なぜ変える必要があったのかという点です。マイクロソフトはその理由について、全世界で3億ユーザー規模を誇るSkypeのブランド力を最大限に活かすためと説明しています。
知名度の高いSkypeブランドは、マイクロソフトが推進する“テレワーク”のような新しいワークスタイルの普及を狙う上でも、有用と考えられます。しかし欧州における判決は、こうした同社の思惑に大きなブレーキをかける可能性があります。
■広く普及したSkypeブランドは存続させるべきか
今後の対策として、Skypeのロゴマークを変え、できる限り“Sky”要素を減らしていくという方向性が、まずは考えられます。一方で、どうせブランドを変えるなら、OneDriveのようにSkyグループの影響を完全に排除できる名前に移行するという考え方もあるでしょう。
いずれにしても、世界中に存在するSkypeのユーザー基盤や、日夜交わされる膨大な量のコミュニケーションは、Skypeというブランドに関係なく存続していくはずです。しかしスウェーデンにあるSkypeの開発拠点まで取材に行ったこともある筆者として、名前が変わってしまうのはちょっと寂しいところ。なんとかSkypeブランドを存続できる方向性を模索してほしいものです。
山口健太さんのオフィシャルサイト
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