フランク三浦(Amazonで4104円) |
天才時計師ブレゲの再来とも称されるフランク・ミュラー。ブランドとしては高級時計の代名詞とも言える存在だが、日本にも彼のような名前の天才時計師はいる。
その名もずばり“フランク三浦”だ。
フランク・ミュラー、フランク・ミュラ、フランク……はいどうも。
フランク三浦はご承知のとおりパロディーブランドだ。価格は4000円台。そこそこ安めで、Amazonあたりでポチッとできる。「完全非防水」の但し書きも堂々とした正真正銘のオリジナル。その思いきりは保証書を見ればよくわかる。
どこを読んでもひどい保証書 |
「裏ブタやベルトの傷などは当たり前のように付いております」「ありとあらゆる水気や空気中の水分にすら耐えられません」「一日の遅れや進みが大きい場合は電波時計を参考に毎日時刻合わせしてください」(電波時計いるんかい)
前代未聞のひどさと裏腹に人気は抜群だ。スポーツ選手や芸能人を中心に絶大な人気を誇り、替え唄の達人・嘉門達夫さんもファンの1人。なんと勝手にテーマソングを作るほど。フランクみう~ら♪ はいご一緒に。水に浸かるとすぐに壊れます~~♪
そんなフランク三浦の正体は謎めいて、いや怪しすぎてよくわからない。そこで編集部はPC/IT誌のはずの本誌でわざわざ腕時計特集を組み、特集を名目としてフランク三浦に突撃取材を試みたのであった。
時計はどうして作られたのか、品質は実際どうなのか。なんでこんなに人気なのか。ここまで書いておきながら知りたい人がいるのかわからないが、少なくとも編集部は本気で話を聞きに行ったのである。
●フランク三浦、衝撃に耐えられないよ
──天才時計師フランク三浦さんですか?
そやで。大阪出身やけど、東京にもちょくちょく来とんねん。せやけど渋谷はさすがに西成と全然ちゃうなあ※。
※大阪市西成区は今宮駅から北加賀谷駅までにかけてのエリア。旧遊郭街の飛田新地にも接している。どういう場所かは大阪に住んでいる友達に聞いてみよう。
──開発のきっかけを教えてください。
2010年やったかな。それまではまともいうか、セレクトショップに並んでるような50~60万円くらいするオリジナル時計をOEMでコツコツつくっとってん。そやけど2008年にサブプライムのアレで業界がグダグダになってしもた。そこで業界にいっちょ爪あと残したろかい、言うことで作ったんや。
──大ヒットさせようと思ってました?
売ろうとか、儲けようとかは一切考えへんかったな。企画中ずーっとわろてたわ。
──実際どれくらい売れてるんですか?
ようわからん。でも単価は安いから儲けは大したことないがな。最近はドン・キホーテさんなりアマゾンさんから直接注文が来るわ。ヨドバシさんでもコーナー作ってくれてる。あとはラーメン屋さんから焼き肉屋さん、リサイクルショップからソフトオンデマンド系列のAVショップにも入ったし。みんなノリええわあ。
──販路も多いですけど、種類もめっちゃ多いですよね。
うん、70~80種類作ってるよ。別注も入れれば200種類くらい作ってる。高校時代の先輩、プロ野球選手多いねんけど、「俺のコラボモデル作ってくれよ」って言われて「分かりました」とかやってる。元ヤクルトスワローズの宮本慎也は高校(PL学園)の同級生でな。ワシも野球部やってんけど、先輩に頼まれたらノーって言われへんねん。
めちゃくちゃ種類は多い。レディースもある |
──ものづくりへのこだわりは?
基本あれへん。
──ないですか。
笑いとれたらええねん。買うたやつらめっちゃ笑てくれてるやん。それでええやん。人間工学にも基づいてないし※、ツイッターでも「買え」しか言うてへんしな。
──買ってくれた人には?
「もっと買え」言うてるで。ツイッター基本クズキャラに徹してるからええねん。
──3ヵ月保証はしてますよね。
まあちゃんとしてるところはちゃんとするがな。ネットで買って、箱開けたら壊れてるってのは保証したるで。
──そりゃそうでしょう。
言うても一応時計としては日本製のムーブメント使ってるしな、作ってる工場も普段は高級時計ブランドが使ってるところやからな。そやけど基本的には2cmからの落下で壊れても保証せえへんで。もう1本買うたらよろしやん。
※フランク・ミュラーの時計はケース形状が三次元状に丸いフォルムを描く。ただ見た目が優美なだけではなく、人間工学に基づいた設計思想となっている。
●フランク三浦、肉山モデルも売れてるよ
──よく売れたモデルはなんですか?
「肉山モデル」。
──肉山って誰ですか?
吉祥寺の焼き肉屋のおっちゃん。
──何なんですかそれ。
時計に「肉」って書いてあるの。6時間で300本売れて、累計1200本超えてる。
──すごいじゃないですか。
「肉レイジーアワーズ」とか言って※。
──ダジャレじゃないですか。
目つけたアマゾンさんがランキング1位計画を立ててるからね。肉山人気すぎるから最終的には宗教法人作るかもしれへん。「教祖肉山の登場です!」言うて。ワシ、幸せになるグッズつくる担当すんねん。
──大丈夫なのかなあ……。
実は光山英明いうて上宮高校野球部のキャプテンでな、甲子園もいってるわ。仲ええねん。あとは鹿児島とか四国のバージョンを商工会とかから注文もろたけど、あれもバーンと売れた。
──クラウドファンディングのMakuakeでやってるやつですか?
その前にもやってたんや。ご当地の魅力を入れたフランク三浦。これがビジネスにならんかな~というので47都道府県の腕時計作ってん。中にはアマゾンで秒殺でなくなったのもあったで。うどん県とかな。
※フランク・ミュラーに、1~12時までの印がランダムに配置され、針がジャンプしながら動く『クレイジーアワーズ』という人気モデルがある。『ジャンピングアワー』とも。
●フランク三浦、別注がヒットの秘訣だよ
──でもよくヒットしましたよね。
センスと勇気のあるバイヤーさんのおかげやなあ。それまではまじめな時計を作ってたから「何ふざけてんねん!」言われるか思ってたわ。そしたら意外なことに、セレクトショップのオーナーとか、銀座の博品館とかが食いついてくれたのが最初やねん。
──博品館さん! いいとこ行きましたね。
ほんとに。そしたら銀座でお金持ちのおっちゃんが20~30本ガッサー持っていくようになって、クラブで流行った。あとは大阪の新地とか梅田とかな。
──芸能関係も愛好家が多いそうですが。
あんまり名前出せへんけどな。某巨大アイドルユニットの××××とか、あとは原宿で人気の××××ね。世界の×××さんとか、あと×××××に××××、大きいところでは××××さんね。あと、びっくりするところでは××××××。
──1つも書けないなあ……野球選手もファンが多いですよね。
プロ野球選手は知り合い多いからなあ。みんなにあげたら喜んでくれて。そしたら着用写真、ツイッターとかブログにバンバン上げてくれて。
──別注を作りまくったわけですか。
別注っていうか、あっちから「なあ、俺のフランク三浦作ってくれへん?」って言ってきてくれたんや。でも宣伝とかは一切してないよ。しかも別注つくったらお金もろてるからね、ちゃんと。あとはさっきみたいな企業もどんどん別注モデルつくってるね。ラーメン屋さんとか焼き肉屋さんとか。有名なところだと、串かつだるまさんとか。
──串かつ屋さん有名なんですか。
そうよ。(某有名タレント)さんが着けてテレビ出てくれはったりして。
──すごいじゃないですか。
まあ時計は電池切れで止まったのん着けてはったけどね。
──ダメじゃないですか。
動くのは買ってから2年くらいやからね。電池変えるくらいやったら新しいの買え! っていつも言うてるし。
●フランク三浦、ほんとに時計師なんだよ
──これからはどうするんですか?
世界戦略考えてるよ。
──フランク三浦で世界展開するんですか?
そやで。「完全非防水」みたいに「日本製“ではありません”」と書いて、シンガポールに流通させるって計画があって。
──シンガポールに販路あるんですか?
なんや初対面のおっさんに「ルートはある」って力説されてん。
──今さらですけど某所から苦情とか来ないんですか?
6年やってるけど言われたことないよ。まじめな話、ふだん時計つけへん人たちがフランク三浦きっかけで高級時計に興味持ってくれたらうれしいなあと思って作ってる。まじめな高級機械式時計は大好きやし、高級ブランドのデザイナーは尊敬してるよ。
──根はまじめな方なんですね。
ワシ、実はトゥールビヨン※搭載モデルの製造・販売まで手がけたこともあるんやで。違うブランドやけどな。トゥールビヨンいうのは構造上の複雑さというより、いかにバランスを保って、1つ1つのパーツの加工精度を上げるかで良し悪しが決まる思うねん。超高級時計なんてゼロコンマ数ミリのパーツがピッカピカに磨かれて、そらまあ美しいもんやで。そういや肉山のおっさんに頼まれてほんまもんのトゥールビヨンの時計もつくったわ、去年やったかな。あれもかっこええで。
──本当に時計師じゃないですか!
当たり前や! バーゼルフェアー※で独立時計師と一緒にメシ食ったこともあるわ。フランス語で何言うてるかほとんどわからんかったけど、大阪弁で乗り切ったで。
──それは知りませんけど……。
※トゥールビヨンはブレゲが作った時計の複雑機構。手がどの位置にあっても動きが狂わないよう、時計内部に独立した回転体構造を取り入れている。
※バーゼルフェアーは毎年春にスイス・ジュネーブで開催される国際時計見本市。一般入場者もふくめると10万人以上がつめかけ、大手・中小各社の動向に注目が集まる国際的な晴れ舞台。
●フランク三浦、カフェやるかもね
でな、話かわるけど、いまライセンシービジネス考えてんねん。
──ライセンスって「フランク三浦」の?
シールを発行する形でね。これとか。ノベルティーやけどね。
「他力本願」「漁夫の利」お守り |
──お守りですか。ご利益あるんですか。
いや~ご利益あるか知らんけど。なければ自力でご利益持ってこいっていう。
──「他力本願」って書いてるのに。
これ評判いいけどつば九郎(東京ヤクルトスワローズのマスコットキャラクター)のしっぽにデカいお守りつけて走らせたら怒られたらしいわ。球団が「プロ野球のマスコットが他力本願ってどういうことや!」って。
──そら怒りますよ。
でも当時の選手全員爆笑してたらしいで。
──こっちはスマホケースですか?
某球団の投手が頼んでもないのにテレビや新聞でえらい宣伝してくれるからな、スマホケース作って送りつけたった。
スマホケース。背番号30といったら…… |
カレーライスの臭いがするのは仕様とのこと |
──また野球つながりですか。
よこしまな思いも込めたけどな。こっちも評判いいよ。あと試作段階やけど「フランク三浦ゴルフシリーズ」ね。全国にゴルフ場を持ってるオーナーから頼まれて、キャリーバッグとヘッドカバーなりを作ってるわ。スポーツメーカーON.YO.NEの社長も知り合いやし、フランク三浦のゴルフ用ポロシャツ作って、全国のチェリーゴルフで展開すんねん。ココ太字で書いといてな。
──普通に権利屋じゃないですか。
フランク三浦財団つくってるからな。カフェとかやるかもしれへんで。オープンテラスでフランク三浦カフェや。
──大丈夫なのかなあ……。
しらんがな! あ、じゃそろそろ次の商談あるんでね。あからさまな宣伝たっぷり頼むで。「これ読んだらすぐ10本買え!」言うといてや。ほな。
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すいません、フランク三浦もいいけど、意外とまじめに腕時計特集やってる4月28日発売の「週刊アスキー」もよろしくお願いします……。本屋さんで買ってちょ。
写真:編集部、高橋 智
■関連サイト
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フランク三浦ご当地時計総選挙!! Makuake
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