マイクロソフトが主催する学生向けのIT・プログラミングコンテスト『Imagine Cup2015』の日本大会が、4月11日、羽田空港のTIAT SKY HALLで開催された。
Imagine Cup(イマジン カップ)は、ビル・ゲイツの発案で2003年にスタートし、今年で12回目。昨年は全世界から1万6892人の応募者が集まるなど、学生向けのIT・プログラミングコンテストとしては世界最大規模のイベントだ。
参加国数は190ヵ国と、ほぼ全世界の国と地域から学生が参加している。 |
最新の Windows、Windows Phone、Internet Explorerのいずれかで動作するソフトウェア、もしくはソフトウェア+ハードウェアであること。また、ソフトウェアをホスティングする場合は Microsoft Azure を利用すること、を作品の規定とし、“ゲーム部門”、“イノベーション部門”、“ワールドシチズンシップ部門”の3つの部門で作品を募集。応募作品のなかから、部門ごとに3チームが一次審査を突破し、日本大会本戦へと出場する。
コンペティションは、10分間のプレゼンテーションと5分間の審査員からの質疑応答で審査される。これは世界大会での規定と同じで、プレゼンテーションの時間が規定された10分を過ぎると強制的に終了となってしまう。つまり、作品の質だけでなく、プレゼン能力も審査の対象となっているのだ。
審査員はマイクロソフトの担当だけでなく、IT企業のトップや大学教授など実際に最新のIT・プログラミングに携わっている人ばかり。 |
質疑応答では、作品やプレゼンの内容に少しでも穴があれば厳しい指摘が飛ぶ。 |
【ゲーム部門】
ゲーム部門は、インタラクティブな遊びの体験を与えるゲームコンテンツが対象。ゲームとしての魅力、遊びたいか、遊ばせたいかというポイントが重要となる。日本ではWindows Phoneの普及率が低いため、3チームともWindowsのタブレットを使ったゲームを開発していた。
●『Fleeting Light』
絆/水野沙織、クレメンス・ベルガー、角威希、新宮悠輔 (トライデントコンピュータ専門学校)
トライデントコンピューター専門学校のチーム絆の作品『Fleeting Light』は、一台のタブレットをふたりが向かい合わせでもって、同時にプレイするゲーム。同じ端末を同時に操作することで、よりお互いの親密度が増して、絆を深めることができるというのがポイントとなっている。
ディスプレーを2分割にし、それぞれにソフトウェアコントローラーを配置。二人が同時に同じゲームをプレーできる。 |
両プレーヤーのキャラクターをリンクさせることで、ゲームをクリアーしていく。 |
●『PicGather』
Creative House/山田真充、杉本圭次朗、細浦稚菜、大友毬衣 (バンタンゲームアカデミー)
バンタンゲームアカデミーのチームCreative Houseは、葉っぱや雲、オリジナルのキャラクターを配置して、ゲーム内の木を大きく育てるという、子どもの知育にスポットを当てたゲームを開発。葉っぱと雲、キャラクターはそれぞれ、オリジナルのデザインで作成可能。塗り絵感覚でゲームが楽しめる。
年齢や言語にとらわれず、誰でも楽しめるゲームを目指して製作。 |
子どもの好きな塗り絵でキャラクターが作れるのがポイント。 |
●『TWIDIVER』
RTableProject/小野将裕、牧山拓斗、水嶋悟史、福士達哉 (HAL大阪)
HAL大阪のチームRTableProjectは、最大8人まで同時に楽しめるアクションゲームを開発。Unityを使い、通信時のゲームデータをZIPで圧縮することで、ネットワークへの負荷を軽くし、8人が同時にプレーしてもラグなどが起きずに、スムーズに遊べるように工夫が成されている。
本格的な3Dアクションゲームが複数人で遊べる。 |
ゲームエンジンはUnity、キャラクターなどのデザインはアセットを使わずオリジナルで製作しているとのこと。 |
【ワールドシチズンシップ部門】
ワールドシチズンシップ部門の作品は、病気や自然災害、人権、貧困、情報へのアクセス、男女の平等といった社会問題をITで解決するアプリ、サービスを対象。そのため、作品の完成度だけでなく、その作品の意義や実際に解決できるのかどうかといった点が重要な審査ポイントとなっている。
●『CHILDHOOD』
CHAMPIGNON/西田惇、高鳥光、佐藤綱祐 (筑波大学)
筑波大学のチームCHAMPIGNONは、子どもの視点と触覚を大人でも体感できる作品を開発。腰の部分にカメラを装着し、そのカメラが写しだした映像をHMD(ヘッドマウントディスプレー)のOculus Riftで再生。さらに、腰の部分のカメラは、頭の動きとリンクして動くため、子どもの視点がリアルに再現できる。
残念ながらチームの3名は大会当日にフランスで開催されている学会へ参加していたため、Skypeでフランスから音声を会場に送ってプレゼンを行ない、デモンストレーションはゼミの後輩が担当していた。
子どもの目線の高さを、HMDを使って体験。 |
子どもの手の大きさで、実際にモノを持つためのグローブ。各パーツは3Dプリンターで制作している。 |
●『HackforPlay』
HackforPlay/寺本大輝、谷口諒 (石川工業高等専門学校)
石川工業高等専門学校のチームは、子どもたちがプログラミングをもっとわかりやすく、身近に感じることができるゲーム『HackforPlay』を開発。ゲームを攻略するためにはキャラクターを操作するだけではなく、キャラクターのパラメーターなどそのゲーム場面のソースコードを書き換えることでクリアーできるようになる。
また、ゲーム自体のカスタマイズもコードを書き換えることで対応。作成したゲームはサーバー上にアップして、ほかのユーザーに遊んでもらえるシステムになっている。
ソースコードを直接いじることで、プログラムの基本が学べる。 |
子どもたちに遊んでもらい、フィードバックを受けて改良を重ねているとのこと。 |
●『jThird』
Web3D Makers/松田光秀 (新宿山吹高校)、河崎純真 (慶應義塾大学)、清水快 (慶應義塾大学)、酒井崇至 (東京大学)
大学生と高校生の混合チームWeb3D Makersは、ライブラリーから必要なコードをクリックで追加していくだけで、手軽に3Dコンテンツが制作できるプラットフォーム『jThird』を開発。完成した3Dコンテンツは、Webブラウザー上でそのまま公開可能。さらにOculus Riftなどでも再生して楽しめるという。
こちらもプログラムを身近に体験できるようにすることを目的に開発。 |
プレゼンではライブコーディングを披露し、数分で3Dコンテンツを完成させた。 |
【イノベーション部門】
イノベーション部門は、既成概念や常識を打ち砕くサービス、テクノロジーの新しい使い方を提案するアプリ、最先端のテクノロジーを駆使したアプリを対象とした部門でソフトウェアだけでなく、ハードウェアと組み合わせたチームも多い。アイディアや作品の完成度とともに、ビジネスモデルとして成立しているかという点も審査項目となっている。
●『すくえあ (SCREEN feels AIR.)』
すくえあ/山﨑啓太、金子高大、瀧下祥、東山幸弘 (香川高等専門学校)
今大会でもっとも大がかりなシステムを持ち込んでプレゼンを行なったのが、香川高等専門学校のチームすくえあで、風を可視化してインターフェースとして使用するシステムだ。
スクリーンにスプレーや団扇などで風を送り込むと、その風量や風力に反応してディスプレー上のグラフィックがリアルに変化。デモンストレーションでは、ディスプレーに映し出されたのれんが現実のように揺らいだり、射的をイメージした画面に空気砲で風を当てて景品を倒したりといったゲームが披露された。
プレゼンでは空気砲を使ったゲームを審査員が実際にプレー。ゲーム意外にもデジタルサイネージなど利用シーンがいろいろと考えられる。 |
スクリーンは網戸になっており、風を通すようになっている。そのさきに磁石のついたフィルムが80枚セットされ、このフィルムの動きを磁力センサー感知するしくみ。 |
●【P.M.Karaoke】
/島影瑞希、矢倉章恵、栗原亨穂、小山紗希 (鳥羽商船高等専門学校)
鳥羽商船のMOOMANは、9チームのなかで唯一の女性だけのチーム。開発した作品は、カラオケボックスの壁面にプロジェクションマッピングで背景やステージを投影できるシステムを開発。
単なる背景の描画だけにとどまらず、Kinectを使って人の動きを検知して、それに会わせて背景を動かしたり、星などのアイコンを登場させるといったエフェクト機能が利用できる。
『女々しくて』を熱唱しながら作品をアピール。 |
背景の変更などはWindows Phoneのアプリから行なえる。 |
●【Robograph】
Robograph/石丸翔也 (大阪府立大学)、村田温美 (同志社大学)、中川峰志 (立命館大学)、松本崚 (立命館大学)
関西の大学生の合同チームRobographは、最近の自撮りブームを取り入れた、自立型の自動撮影ロボットを開発。タイヤ付きの三脚にセットしたWindows Phoneのカメラが人物の位置を検知し、自走して最適な構図に移動してくれるので、自分で構図を考えなくても常にベストな構図で撮影できるとのこと。
複数人の顔が認識できるほか、中央、右、左と3パターンの構図がセットできる。 |
三脚の下部にタイヤを装備。移動の制御にはArduinoを使用している。 |
全チームのプレゼンテーションが終了したのち、各部門の優秀賞が発表された。受賞チームは下記のとおり。
【ゲーム部門】Fleeting Light |
ひとつのタブレットを2人で同時に使うという斬新なゲームデザインが評価。 |
【ワールドシチズンシップ部門】CHILDHOOD |
視点や感覚を子どもと入れ替えるアイディアと、ハードウェアの作り込みがポイントとなった。 |
【イノベーション部門】すくえあ (SCREEN feels AIR.) |
風をインターフェースとして使うという新しさに審査員は注目。 |
アメリカのシアトルで7月27日に開催されるImagine Cup本大会。日本から出場できるのは、部門優勝した3チームのなかから、たった1チームのみ。本大会出場チームを決めるべく、最終審査としての質疑応答が、日本マイクロソフトの執行役 デベロッパー エクスペリエンス&エバンジェリズム統括本部長伊藤かつら氏と、同 エマージングテクノロジー推進部 部長 兼 Microsoft Ventures Tokyo 代表砂金 信一郎氏により行なわれた。
この審査形式は、昨年のImagine Cup本大会での最終審査と同じ方法。極力本大会と同じ形式を採用することで、日本から優勝チームを出していきたいという日本マイクロソフトの強い思いが感じられる。
各部門で優秀賞を受賞した全チームが登壇し、最終審査の質疑応答が行なわれた。メンガーがフランスの筑波大チームはSkypeで参加。 |
最優秀チームを発表する大会代表の日本マイクロソフト伊藤氏。 |
最終審査の結果、Imagine Cup2015日本大会の最優秀チームは香川高等専門学校のチームすくえあに決定。賞状や副賞とあわせて、これまで本大会に出場した歴代のチームが受け継いできた日の丸を手渡された。
最優秀チームに選ばれたのは香川高専のチームすくえあ。歴代日本大会優勝チームの名前が書き込まれた日の丸を受け継いだ、 |
最終審査員での伊藤氏は、最優秀チームの選出について「どの作品も非常にレベルが高く、大差はなかった。すくえあは作品のおもしろさもあるが、のびしろに期待したい。彼らにデザイナーやプランナーなど専門家からアドバイスを加えれば、もっと素晴らしいプレゼンができると思う」と語っていた。
実際、筆者もImagineCupを取材して今回が5回目の取材となるが、どのチームも作品のレベルやプレゼンの完成度などは、今までの中でもトップクラス。1チームしか選出できないのが残念に思えるほどだった。
風を使ったデバイスという、ほかにはないアイディアが会場内に集まったメディア関係者などでにも高評価だった。 |
最終戦となる本大会まで、チームすくえあは、作品の完成度をアップさせるとともに、日本マイクロソフトのバックアップのもと、英語でのプレゼンや質疑応答などの特訓を受けることとになる。受賞コメントでは「本大会でも優勝してみせます」と高々と宣言していたので、今後の成長と本大会での健闘を期待したい!
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