スペイン・バルセロナで開催されたMobile World Congress 2015が終わった後も、筆者は欧州に滞在しています。
3月9日には、ラトビアのリガでアップルの発表を、3月12日にはエストニアのタリンからフィンランドのヘルシンキへ渡るフェリーの中で、VAIO Phoneの発表をウォッチしていました。
↑ドイツでの取材が残っているため、まだ帰国できていない。バルト海を渡るフェリーの中でVAIO Phoneの発表を見守ることに。 |
どちらも、すぐにでも帰国して取材したいほどの大型発表となりましたが、少し離れた場所から見ることで、いつもとは違う角度で見ることができたと感じています。
■本当に出てしまった“ウワサのMacBook”
アップルのライブ配信で新しいMacBookが登場したとき、筆者は「あれが本当に出るのか!」と驚きました。
以前に出回った“リーク”画像は、随所のディテールに本物っぽさはあったものの、さすがに斬新すぎるデザインのため、誰かが考えたコンセプトである可能性も否定できないと考えていました。
↑アップルは、後半になるまでUSB Type-Cポートを見せないという”確信犯”的な映像を披露。数十秒間、やきもきした人も多いのではないだろうか。 |
発表後に振り返ってみれば、この“事前情報”があったことで、USB Type-CやCore Mの使い勝手に想像をめぐらすなど、ある程度は心の準備ができていたともいえます。
■ユーザーの期待を超えてしまった新MacBook
ファンレスでのCore Mの性能や、USB Type-Cなど、新しいMacBookの不安要素を挙げていけばキリがありません。新しいMacBookは、多くのMacBook Airユーザーの”期待を超えた製品”だからです。
MacBook Airは、数世代に渡って共通のデザインを採用し、ほとんど完成されたデバイスです。不満があるとすれば、Retina化が遅れていたディスプレーくらいでしょう。
しかしアップルは、ディスプレーをRetina化するだけでは飽きたらず、MacBook Airの設計からやり直します。USB Type-Cの採用により、ほかのポートを一掃したことで、キーボードをぎりぎりまで配置。キーボードやトラックパッドといった定評のあるインターフェイスまで作り直してしまいました。
↑評価の高いキーボードやトラックパッドを、さらに作り直すというチャレンジにも感嘆せざるを得ない。 |
特にUSB Type-Cを1ポートのみ搭載するという仕様は、他PCメーカーでは類を見ないものです。もし、ユーザーの声に耳を傾ければ、USBポートを増やしてほしいとか、11インチモデルにもSDカードスロットを付けてほしい、といった要望が出てきたことでしょう。
しかし新しいMacBookには、ユーザーを啓蒙するかのような哲学を感じます。これを使いこなすとすれば、USBメモリーをクラウドで代用するとか、SDカードの中身をWiFiで転送するといった、新たなやり方を学ぶ必要があるかもしれません。
多くのユーザーはこうした努力を嫌います。ただ、その労力をかけるに値する製品のためならば、ハードルは大きく下がることになります。
ここまで革新的な製品が出てしまったことで、他のノートPCメーカーは難しい判断を迫られるでしょう。新たなUSB Type-Cというトレンドを追うのか、それとも逆張りで従来型のインターフェイスを充実させる方向で対抗するのか。6月に台湾で開催されるコンピューター関連総合見本市COMPUTEXの内容に、注目したいところです。
■ユーザーが期待していたものとは違ったVAIO Phone
この新しいMacBookの盛り上がりを帳消しにするほど注目を集めたのが、『VAIO Phone』です。
事前予想では、“ODM製でミドルレンジスペックのAndroid端末”とみられていたため、こちらも基本スペックについては、想定の範囲内だったといえます。
↑先行公開されたパッケージの”外箱”に比べて、VAIO Phoneの中身は期待に届かなかった。 |
また、ODM製のデバイスにロゴを貼り付けるという行為が、「VAIOらしくない」との声もあります。しかしVAIOシリーズのPCは、VAIO Duoなどのハイエンド機種を除いて、ODMを活用してきました。自社生産ではないという意味では、アップルのiPhoneも同様です。
では、なにがそれほどまでにユーザーの反発を呼んだのか。それは、これまでのVAIOが打ち出してきたメッセージとVAIO Phoneの実態が、あまりにかけ離れていたという点でしょう。
↑スペックは想定内だが、せめてもう少し外装に凝っていれば、反応は違ったかもしれない。 |
なぜVAIOは、こうまでしてスマホに進出しなければならなかったのでしょうか。
ソニーからの分離後、スマホやタブレットはソニーモバイルが、Windows PC製品はVAIOが手がけるという形で、うまく共存共栄を図っていくものと思われていました。
しかしソニーモバイルは、Xperia Z4 Tabletに専用キーボードを組み合わせることで、カジュアルなPC代替案を提案し、VAIOが実現するはずだった未来を先取りしつつあります。
↑どこにでも持ち歩けるタブレットを、ノートPCのようにも使える。VAIOの守備範囲に足を踏み入れている点は興味深い。 |
大企業の後ろ盾があったソニー時代とは違い、今後のVAIOは自らの力でブランドを維持し、生き残っていく必要があります。中小企業となったいま、思い通りの新製品を披露できず、いちばん悔しい思いをしているのはVAIO株式会社の中の人なのかもしれません。
裏を返せば、日本中から期待されている“VAIO”シリーズだからこそ、次こそは『VAIO Z Phone』とでも呼ぶべき、際立った端末の登場を期待したいところです。
山口健太さんのオフィシャルサイト
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