週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Xアイコン
  • RSSフィード

暖かみのあるLED電球“Siphon”はどう生まれた?クラウドファンディングで大成功を収めた逆転のモノづくり

■画期的なデザインのLED電球が生まれた背景は?
 2014年10月、クラウドファンディングサイト“Makuake”に画期的なデザインのLED電球『Siphon(サイフォン)』が登場し話題をさらった。昔ながらの白熱電球がもつガラスやフィラメントの美しさを再現したこの製品は、インテリアにこだわりをもつ人々などから支持を集め、最終的に目標額の9倍以上となる資金を獲得。開発プロジェクトを立ち上げた戸谷大地氏に、着想のきっかけや開発の裏側などを訊いた。

 週刊アスキー3/24号 No1020(3月10日発売)掲載のベンチャー、スタートアップ企業に話を聞く対談連載“インサイド・スタートアップ”、第19回は白熱電球のような暖かみのある雰囲気をもつLED電球を開発した株式会社ビートソニックの生産技術部の戸谷大地係長に、週刊アスキー伊藤有編集長代理が直撃。

Siphon

↑Siphon『LDF30 エジソン(5400円)』と絶妙にマッチするランプスタンドは、Makuakeで追加リターンとして6000円に設定されて即完売。アイアン作家の比留間光雄氏による手づくりの逸品だ。

■とがった製品を自分でつくることになったらクラウドファンディングでやりたいと思っていた

伊藤 ビートソニックさんのサイトを拝見して驚きました。照明器具のメーカーなのかと思っていたら、カーエレクトロニクスの会社なんですね。

戸谷 創業はカーオーディオがきっかけで、最近ではカーナビなどの周辺アクセサリーもつくっています。今でもカーエレクトロニクスの割合が95%以上を占めています。ただ、市場規模が小さくなっていることもあって別の事業も始めようという流れがあり、約3年前にLED照明事業を始めました。

伊藤 LED照明はカーオーディオなどとはまったく畑が違うように思いますが、参入にあたってのハードルが高かったのではないですか?

戸谷 パーツの購入や共同での製品開発など、海外のサプライヤーとはずっと付き合いがありましたので、大きな障壁はなかったですね。

伊藤 『Siphon(サイフォン)』をクラウドファンディングの“Makuake”に出すと決めたのは、どういう理由からですか?

戸谷 クラウドファンディングには、数年前から興味があって注目していました。キックスターターなど米国のサービスに出てくる製品を眺めたりして、なんらかのとがった製品を自分でもつくることになったら、クラウドファンディングでやりたいなと思っていたんですね。それで、Siphonの開発を始めたときに「ああ、この製品はクラウドファンディングでやるべきだろうな」と感じたんです。

伊藤 どういった点で?

戸谷 ひとつは、照明業界内での地位を築く近道だと考えたからです。我々は照明業界でブランド力や販売力があるほうではなかったのですが、クラウドファンディングで成功すれば、メディアに取り上げられたりして知名度を一気に上げられます。もうひとつは資金面ですね。LED照明事業はなかなか採算が取れない状況だったので、製品づくりのイニシャルコストを回収できるというのは、社内での説得材料としてよかった。

伊藤 なるほど。重要ですね。

戸谷 実はSiphonはコンセプトは新しくても、技術的な目新しさはないので、開発から販売、ブランド構築までをできるだけ短期間で進めたかったんです。そうすれば、我々のあとに同じコンセプトの製品を別のメーカーがつくったとしても、「ああ、Siphonと似たような製品だね」という雰囲気が生まれるじゃないですか。

伊藤 わかります。スピード勝負で、最初のブランドになるのは大事ですね。開発に着手したのはいつごろですか?

戸谷 2014年の3月ごろですね。そのあと10月にMakuakeでプロジェクトを開始し、製品の出荷を今年の1月末から2月中旬にかけて行ないました。

伊藤 すごいスピード! プロジェクト開始から3ヵ月で出荷というのはなかなかないです。では、募集開始の時点でかなりつくりこめていたんですね。

戸谷 はい。プロトタイプはできあがっていて、詰めの部分は残っていましたが、出荷の時期はイメージできていました。加えて、Siphonは台湾のメーカーと組んで開発したのですが、あらかじめ現地の工場を視察できていたりして、量産体制についての不安を払拭できていたのも大きかったです。

伊藤 なるほど。

戸谷 最終的に約6000個も売れたので、発送作業は本当に大変でした。3人だけの社内プロジェクトですから、圧倒的に人手が足りないんです(笑)。

Siphon

↑LEDとはいえ、色の調整機構やBLEでの電源オンオフといったハイテクとは真逆の電球でも、集めた支援金1441万円。これ冷静に見るとかなり凄い。

■Siphonは放熱性をあえて切り捨てた代わりに思い切ってデザイン性を突き詰めた製品

伊藤 果てしない作業でしょうね(笑)。ところで、Siphonのキャッチコピーは“ダサいLEDは終わりにしよう”というものですが、すごくストレートで強烈なインパクトを与えますよね。それで、製品を見るとその言葉に納得できる美しさです。技術的には目新しくないとのことでしたが、LEDの発光部分をフィラメント状にするのは難しくないのですか?

戸谷 フィラメント状の発光部分を使った製品は、数年前から海外の展示会などで見かけることがあったんです。ただ、どれもコンセプトが中途半端で、せっかく発光部分はフィラメント状なのに、電球部分の外見は従来のLED電球と同じという製品ばかりでした。

伊藤 フィラメント状の発光部分のユニークさを生かしきれていない。Siphonの場合はそうではなく、白熱電球のような外見にしていますね。

戸谷 普通のLED電球には必ずある放熱板を取っ払ってしまって、昔ながらの白熱電球のガラスを採用しています。

伊藤 フィラメント状のLEDと白熱電球の外見という組み合わせは、ほかのメーカーでも思いつくような気もしますが、これまでにそういう製品が出なかったのはなぜなんでしょう?

戸谷 LED電球の特徴のひとつは“長寿命”ということですよね。その性能を得るためには、放熱板のような仕組みが必要になります。加えて、明るさを上げようと思ったら、さらに放熱性を確保する必要があるんです。Siphonは放熱性をあえて切り捨てました。その代わり、デザイン性を突き詰めた製品なんですね。

伊藤 一般的なLED電球の寿命は約3万時間ですが、Siphonはどれくらいなんですか?

戸谷 約1万5000時間です。半分になってしまうんですが、それでも使いたいと思わせるデザインでつくれば、きっと行けるだろうと。我々は大手のメーカーではないので、思い切った仕様で勝負しないといけないわけですから。

Siphon

↑LED素子を線状に並べることで、白熱電球のフィラメントのような形状を再現。レトロな雰囲気を醸し出す。デザインを重視し、放熱板なども利用しない。

伊藤 たしかに。大手のメーカーだと、長寿命や省エネ性能など、LEDの優位点を大々的にアピールしていることもあって、なかなかそれを犠牲にする判断には踏み切れないでしょうね。想定しているのはどういう設置シーンでしょう?

戸谷 デザインを最優先した製品ですから、光の広がりは普通のLED電球より弱いんですね。ですので、しっかり照らすというよりは、補助照明としての位置づけを考えています。設置場所としては、レストランやカフェなどの飲食店、雑貨ショップなどを想定しています。

伊藤 オシャレな飲食店なんかだと、いまだに白熱電球をインテリア的に使っていますね。それをSiphonに置き換えてもらおうと考えたと。

戸谷 まさにそのとおりです。着想のきっかけも飲食店の補助照明でした。今後、白熱電球は世の中から消えていくんだから、白熱電球の雰囲気を再現したLED電球をつくれば、売れるんじゃないかと思ったんですね。

伊藤 着想はできたとして、その先、本当につくれるのかという技術的な裏付けは必要になりますよね。その部分はどう克服していったのですか?

戸谷 台湾のメーカーの担当者にアイデアのスケッチを見せて「これ、実現できるかな?」と相談しました。そうしたら「やれるよ、たぶん」という答えが返ってきたんですよ。

伊藤 ほう、ずいぶん簡単ですね(笑)。懸念の放熱性については何と?

戸谷 「寿命が短くなるけど、大丈夫じゃない?」と。そこから出発して、基板のことなどをクリアーにしていった感じですね。

伊藤 お聞きしていると、戸谷さんの発想は技術者的ではないところがおもしろいんですね。技術者の場合、性能を犠牲にしてもいいという発想にはなかなかならないんじゃないですか。

戸谷 あると思いますね。僕はもともとモノづくり側ではなくマーケティング側の人間なので、“ニーズがあるか、ないか”の観点でしか考えないようなところはありますね。

Siphon

↑本体のデザイン同様、シンプルでカッコよさを感じれるパッケージデザイン。従来のLED電球のように、明るさや高寿命などを言葉で訴求していない。

伊藤 なるほど。ガラスの製造も台湾のメーカーなんですか?

戸谷 ガラスは上海近郊の工場でつくってもらっています。そこは台湾のメーカーから紹介されたんですが、以前は、世界中の白熱電球のガラスのほとんどをつくっていたとも言われているところなんですよ。

伊藤 へえ、そんな場所があるんですね。初めて知りました。

戸谷 ところが、最近は白熱電球の生産量がどんどん減っていますよね。それにともなって、街そのものもすたれてしまっている状況だったので、僕らが視察に行って今回の話を持ちかけたら、その工場の人たちがものすごくよろこんでくれて。

伊藤 おお、いい話!

戸谷 「LED電球でもガラスを使えるんだな。ぜひつくりたい」と言ってくれました。そのとき視察した工場の設備もよくて、ガラスの質も高かったのが決め手になりました。

■Siphonの販売方法については自社サイトとアマゾンを利用した直販を予定

伊藤 Siphonの販売方法については、どういうかたちを考えていますか?

戸谷 基本的に、自社サイトとアマゾンを利用した直販を考えています。

伊藤 そうなんですか。量販店でも扱いたいという申し出がありそうですけど。

戸谷 そういうお話もありますが、Siphonは原価が高くて一般的な家電の流通には乗りにくい製品なんですね。たとえば『エジソン』というモデルは5400円で販売しているのですが、代理店と量販店の利益を乗せていくと8000円くらいになってしまいます。電球にその価格は、いくらなんでもあり得ないですよね。

伊藤 たしかに。たとえオンリーワンの製品でも、ちょっとためらってしまいますね。

戸谷 モバイルバッテリーのcheeroさんのようなモデルで、販売はアマゾンだけにするという考えもあります。ユーザーの決済へのハードルの低さを考えると、それがベストのような気がしてますね。

伊藤 なるほど。では、今後のお話をお聞きしましょう。生産のほうは順調なんですか?

戸谷 はい。おそらく3月末から出荷を始められると思います。

伊藤 Siphonには4モデルがありますが、製品のラインアップを増やす予定は?

戸谷 当初は4モデルでしたが、追加でユーザーから要望の多かった新モデルの“シャンデリア”に最適な小さめの電球を増やすことになりました。さらに外側のガラス部分の形状を変えれば、いくらでもモデルは増やせるんです。それと、LEDの光を今よりも白っぽくすることなんかも可能です。でも、それがユーザーに求められているかというと疑問ですよね。当分は現状の5モデルのラインアップで行くと思います。

Siphon

↑5モデルの予約販売を受付中。左から『LDF32 ボール125』(7020円、4月10日発売予定)、『LDF31 ボール95』(6264円、3月31日発売予定)、『LDF30 エジソン』(5400円、3月31日発売予定)、『LDF29 オリジナル』(4104円、4月10日発売予定)、『シャンデリア』(価格未定、4月下旬発売予定)。

Siphon

株式会社ビートソニック
生産技術部 係長
戸谷大地
 1982年生まれ。早稲田大学理工学部を卒業後、20代前半はITベンチャーで新規事業の起ち上げを担当。2009年にビートソニックに入社し、2014年3月に『Siphon(サイフォン)』の開発に着手。

■関連サイト
ビートソニック
Only1(Siphon販売サイト)

週刊アスキー
Amazonで購入は表紙をクリック
週刊アスキー
Kindle版はこちらをクリック

週刊アスキーはNewsstandでも配信中!

Newsstand 電子雑誌をダウンロード

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります