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necomimiやneurocamを生み出したneurowearプロジェクトとは?

2015年02月09日 06時30分更新

 みなさん、おはようございます。 アプリマーケティング研究所、週アスPLUS出張所です。iPhonePLUSから引っ越してきました。よろしくお願いいたします。この連載では、気になったアプリ関連のニュースや出来事を紹介していきたいと思います。今回は、neurowearプロジェクトの神谷俊隆さん(電通サイエンスジャム)、加賀谷友典さん(フリーランス)、なかのかなさん(電通)に話を聞いてきました。

アプリマーケ研究所

■necomimiについて

Q:電通サイエンスジャムについて教えていただけますか。(2013年8月設立)

神谷:もともとは電通で「脳波で何ができるか」というプロジェクトを、慶應大学の満倉准教授と一緒に進めていました。そのプロジェクトを会社として独立させたのが電通サイエンスジャムです。

Q:脳波で動くネコミミ型コミュニケーションツール「necomimi」が話題になっていましたが、necomimiはどのようにできたんでしょうか?(2011年4月発表)

加賀谷:「コミュニケーションの未来を考える」というミッションにあたって、リサーチをしていたところ、シリコンバレーにあるニューロスカイ社が開発していた「脳波のセンサーが安い」という情報に行き当たったんです。

それで「脳波センサーをつかって、何か話題になりそうなものがつくれないか」と考えて出来たのがnecomimiです。

なかの:仕組みとしては、脳波から「集中」と「リラックス」の2つを、0〜100のパラメータで算出して、その数値にもとづいてネコミミを動かすという仕組みになっています。

Q:発表時のリアクションはどうでしたか?

加賀谷:necomimiを発表したのは、「スマイルバザール」という吉本興行のイベントだったのですが、子どもからおじさんまで「なんだこれ!?」っていう想像以上にいいリアクションをしてくれましたね。

実は日本より海外メディアの引きが強くて、発表の2日後くらいにはロイターが取材にきてくれました。

そこから、1週間後にはウォール・ストリート・ジャーナル、ニューヨーク・タイムズ、WIREDなどの海外メディアにバーッと広がっていきました。

Q:その後の、海外からの引きはどうでしたか?

加賀谷:すごかったです。まず、YouTubeのアクセスが異常な勢いで伸びていって、世界中から英語でものすごい量のメールが届きました。

その後も、「TIME」(米国の雑誌)の「Best inventions of 2011」に選んでいただいたり、商品化の話もいくつかいただきましたね。

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現在「necomimi」はニューロスカイ社で商品化され、Amazoなどから購入可。

Q:海外で取り上げられたときって「また日本人が変なことやってるぞ!」だったのか、それとも「テクノロジー的にすごい」という感じだったのか、どちらでしたでしょうか?

なかの:両方でしたね。necomimiは、ある意味「世界から期待されてる日本像」であったとも思いますし、純粋にテクノロジーとしても興味をもたれるものでした。

加賀谷:ちなみに、日本と海外のメディアで違いを感じたところとしては、日本のメディアは、necomimiを芸能人につけさせたりとか、バラエティー的な話がとても多かった。

一方、海外メディアは「なぜ、これをつくったのか?」というコンセプトや背景に踏み込むような取材が多かったですね。

あとは「将来この技術が応用されると、こういうことが可能になるのでは」という考察もよく見かけました。

■neurocamについて

Q:自分の興味のあるものだけ撮れるカメラ「neurocam」もおもしろいですが、これはどのように生まれたんでしょうか?

なかの:満倉先生が研究されていたアルゴリズムに、脳波から「好き度」や「興味」を推定する指標があって、これでおもしろいことが出来ないかなと考えていたんです。

最初は「好き度」を使って、好きなものが視界にはいるとほっぺに赤いライトが投射されて、勝手に撮影されてしまうカメラをつくろうとしたんです(笑)。

でも「好き度」っていうのは、目で見てから脳が反応するまでに若干の時間差があって、目で見た瞬間にカメラが反応しなかったんですね。

それで、瞬時に反応する「興味」の指標と合わせて、「気になったもの」を見た瞬間に自動でシャッターがおりる仕組みをつくりました、それが「neurocam」です。

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Q:どんな時に使われることを想定してつくったのでしょう?

なかの:カメラをつけて歩くだけで、その日の「良いシーン」をハイライト的に集められるようにしたかったんです。

私もそうですけど「悪いことばかり思い出しちゃう人」っているじゃないですか。なので「実はいい1日だったんだ」と、良いことだけ強制的に思い返せるようにしたかった。

Q:以前に「脳波計をつけて動物園の映像を見ると、好きな動物の写真が勝手にとれる」というカメラを体験したことがある。そしたら、大嫌いな「鳥の写真」ばかりとれたんです。これって「脳波的には、好きと嫌いが似ている」ってことなんでしょうか?

加賀谷:人間の脳活動ってまだまだ未知数なんですよね。「好き」の定義もむずかしくて、「鳥が好きな人」と「鳥が嫌いな人」で、脳の反応してる部位が一緒だったりする。

ものすごいたくさんの人の脳波データをためていけば、「好き」と「嫌い」の判別も可能になってくるとは思います。ただ現状は「たくさんの人から脳波を集める」というのが難しい。

Q:具体的には、どの辺がネックになってくるのでしょうか?

加賀谷:頭に穴をあけないで、たくさんの人から脳波を集めるって、現状だとけっこう難しいんですよね。

頭蓋骨の外から脳波を測定する方法を「非侵襲型(ひ・しんしゅうがた)」とよぶのですが、これは大きな専用の機械が必要な上に、測定精度も高くないんですね。

なので、例えばウエアラブルデバイスで脳波が測定できたりするのって、まだまだ超えなきゃいけない壁があると。

一方で、頭蓋骨に穴を開けてセンサーを入れる方法を「侵襲型」とよぶのですが、こちらは精度が高く測定できて「脳波でカーソルを動かす」ということもできるようになっている。

■次世代のキュレーションについて

Q:キュレーションアプリやAmazonのレコメンドなど「顕在化した興味」は測れるようになってきていますが、「実はお前これ好きだろ」みたいな潜在的なレコメンドっていまいちだと感じます。そこは脳波の技術が発達してくると進歩してくるんでしょうか?

神谷:これもさっきの話と一緒で「脳波計を装着するコストがかかる」っていうのがハードルなんですよね。

うちで開発している「mico」っていう音楽のレコメンドシステムでも、はじめに40人に100曲の音楽を聴かせて、その曲を聴いたときの脳波を測定して、全部タグ付けしていったんですね。

つまり、まずデータベースをつくってしまって「どのパターンに脳波の動きが近いか?」を検索して、音楽のレコメンドをぶつけるという方法でやっている。

その最初のデータの母数をとるのが大変なんですよね。逆にそこを解決できれば、脳波のビッグデータ解析で、いろんな分野でのレコメンドが成立するようになると思う。

加賀谷:ちょっと脱線しますが、先日、映画プロデューサーのハン清水さんに聞いた話なんですが、「人間の顔の筋肉」って深層心理があらわれる場所なんだそうです。

ハン清水さんはGoogleで瞑想を教えている人でもあるのですが、トレーニングすることで「顔の筋肉の動き」をみて、その人の深層心理を感じ取ることができて、FBIの心理分析官にもつかわれているらしい。

それが言いたかったこととしては、カメラの性能がもっと向上して、顔写真から筋肉の動きをトラッキングできれば、「人間の感情の把握」がロボットでも可能になるんじゃないかという話なんです。

それがビッグデータとして溜まっていくと、いろんなものに「感情のメタデータ」がくっつくようになって、自分にフィットした情報が生成されるのではないかなと。

例えば、「検索」っていまはキーワードがベースになっていますけど、次世代の検索やレコメンドは、そういうフェーズに進んでいく気がします。

そうなってくると、Amazonで「似てるモノ」がレコメンドされるんじゃなくて、一見「なんで、これなんだろう?」って思うような「不思議な出会い」が、テクノロジーで提供される時代になるかもしれないですよね。

Q:電通サイエンスジャムさんでは、色々とおもしろい研究をされていますが、仮に「お金と人を好きに使って良い」としたら、どんなことをやりたいですか?

加賀谷:僕は「人間の能力の拡張」が出来るのかを、試してみたいんですよね。

例えば「夢」ってみんな見ますよね?「夢」のイメージをつくる能力が脳の中にあるはずなんだけど、起きているときはオフになって封印されているわけです。

ほかにも、知覚の拡張でいうと「フォトグラフィックメモリー」っていって、写真や本を見ただけで、スクリーンショットのように記憶に残すことができる人がいます。

そういう「超人的な能力」は、実はだれの脳の中にでも眠っているんじゃないかと。それを拡張して使えるようにならないのか、ということは追求してみたいですね。

Q:最後に告知などあればお願いします。

なかの:最近「mononome(モノノメ)」というプロジェクトを発表しました。

今回は、脳波ではなくて「モノとヒト」とのコミュニケーションです。家の中のモノがほんとの家族みたいになるといいなと考えました。

例えば「ほっとくと、さみしがるイス」や「キャンディを取りすぎると『NO』って言ってくれるキャンディージャー」などの、試作品をつくっています。

将来的にはイスが「ねえ、働きすぎだよ?」って心配してくれたり、気をつかってコーヒーサーバーと通信して、コーヒーを一杯いれてくれたりするとおもしろいですね。

現在、パートナーや提携して事業化してくれるような会社さんを募集していますので、もしご興味ありましたらご連絡ください。

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動きに反応して表情が変わったりする。なお、プログラミングで条件なども設定できる。

取材協力:電通サイエンスジャム

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