12月23日にはKDDIが初となるFirefox OS端末を発売し、12月25日にはVAIO株式会社がスマートフォンの投入を発表するなど、年の瀬になってもスマホ市場に大きなニュースが続いています。
NTTドコモがTizen発売を見送ったのとは対照的に、Firefox OSを“作る楽しみ”という新機軸で打ち出したのが、KDDIのおもしろいところです。一方でVAIOも、ソニーからPC事業を分離したと思ったらいつの間にかスマホを作っていた、という衝撃の展開となっています。
↑KDDI初となるFirefox OS採用端末『Fx0』。吉岡徳仁氏のデザインによるスケルトンボディが印象的。 |
ただ、これら2つの発表に筆者が共通して抱いた感想は、「2014年もWindows Phoneは出なかったな」というものです。
■KDDIのFirefox OSへの取り組みは継続的なものか
KDDIの田中孝司社長が強調するのが、子供の頃にラジオや模型を組み立てたように、スマホでも作る楽しみを提供したい、という部分です。
12月23日の発表イベントは、アプリを即興で開発するハッカソンを同時開催するなど、通常の新製品発表会とは異なるフォーマットとなりました。ステージ発表もくだけた雰囲気で、報道関係者向けというより、むしろFirefox OSのファンに向けて語りかけるイベントとなりました。
自身もプログラマーだったという田中社長による、自分で作って楽しめる端末を“商売抜きで”提供したかったという熱い思いが色濃く反映されているのが印象的です。
↑質疑応答や囲み取材でも、一貫して“商売抜き”、“作る楽しみを提供する”と訴えたKDDIの田中孝司社長。社長というより、“田中プロ”としての本音かもしれない。 |
たしかに、開発者が“遊べる”環境はほかにもあります。Androidはオープンソースとしても提供されており、カスタムしようと思えば可能です。HTML5やJavaScriptを活用したアプリは、ほとんどあらゆるプラットフォームが対応しつつあります。
しかしKDDIはFirefox OSの展開にあたって、開発ボード『Open Web Board』や開発環境の提供、ハッカソンの開催など、オープンな技術で遊べる場を提供していくという姿勢をとっています。その中で『Fx0』の発売は大きなマイルストーンではあるものの、プロジェクト全体に比べれば一部に過ぎないといえます。
↑製品発表と同時にハッカソンを開催、報道関係者席の前に一般参加のファン席を設けるなど、異例の“ファンミーティング”形式のイベントとなった。 |
ただ、長期的な視点でFirefox OSに感じる不安は、KDDIがどこまで継続的に取り組むつもりなのか、という点でしょう。イベントの質疑応答でも指摘されたように、KDDIは過去にWindows Phoneを発売したまま、後継機種を発売せず、エコシステムに参加していたパートナーや開発者を事実上見放したという経緯があるからです。
なお、現在でも日本マイクロソフトは社内端末としてIS12Tを使い続けているものの、Windows Phone OS 7.8のサポート期限は切れています。この点について同社では、「特別なセキュリティ体制を構築して運用しているため、まったく問題はない」(広報)として、2015年もIS12Tを継続利用する姿勢です。しかし関係者からは「IS12TはLTEに対応していない。いまどき3Gしか使えないのは不便」などの悲痛な声が上がっています。
■“ソニーモバイルのWindows Phone”はどこへ行った?
12月25日には、VAIO株式会社がスマートフォン市場への参入を発表しました。
一部の新聞報道では、“5インチのAndroid端末”との情報があります。この点についてVAIO株式会社では、最終的な仕様が決まっていないことを理由に、これらの報道を肯定も否定もしないとの立場を取っています(ちなみにVAIOの中の人は、ブランドとしてのVAIOと区別するため、会社名をバイオカブ[VAIO株]と呼んでいる)。
↑7月1日に設立されたVAIO株式会社、通称VAIO株。ソニーが保有するVAIO商標のライセンスを受けるなど関係は続いているが、ほぼ別会社となった。 |
VAIO株式会社は、PC事業をソニーから分離することで2014年7月に作られた別会社です。一方、スマートフォンやタブレットといったモバイル製品は、ソニーのモバイル部門であるソニーモバイルコミュニケーションズに残っています。
その後、ソニーモバイルは業績不振を受けて社長が交代、新社長の十時裕樹氏のもとで、2015年度中の構造改革を進めている最中で、具体的には、人員削減、展開地域やモデル数の縮小などが予定されています。
↑ソニーモバイルコミュニケーションズの新社長となった十時裕樹氏。人員削減などを伴う構造改革を断行するが、その後は新しいチャレンジをしたいとのビジョンを示した。 |
このようにソニーモバイルが苦しい状況で、なぜVAIOはスマートフォン市場に参入するのでしょうか。両社の資本関係は、ソニーがVAIO株に5%出資しているのみ。VAIO株としても、「ソニーとは別会社なので、自由競争と考えている。切磋琢磨していきたい」(VAIO広報)と、今後の競合もやむを得ないとの姿勢をとっています。
ところで、VAIOがスマートフォン発表と聞いて、真っ先に“OSはどうなるのか?”と考えた人も少なくないでしょう。VAIOはWindows PCのブランドだけに、Windowsプラットフォームのスマホを期待する人もいるはずです。
一方で、以前から根強い噂があったのが、ソニーモバイルのWindows Phoneです。以前には開発中とみられるWindows Phone端末がネット上に流出したこともあります。
ただ、こうしたプロトタイプは、どのメーカーも多かれ少なかれ作っているものです。この点についてソニーモバイルの責任者は、「Windows Phoneを含め、研究は続けているが、具体的な商品化の計画はない」と一貫して回答してきました。
さらに業績不振の追い打ちにより、当面の間は新しいプラットフォームに挑戦する余裕はないというのが、ソニーモバイルの実情といえます。もっとも同社では、切り詰めるだけではなく、構造改革を終えた後は新たな挑戦をしていくとのビジョンを示しています。
■2015年、Windowsのモバイル機は大きく変わる
日本でWindows Phoneはしばらく発売されていないものの、Windowsのモバイル製品という視点で見れば、その限りではありません。むしろ日本ではWindowsタブレットのシェアが海外に比べて高く、その売り上げは年明けも伸び続ける勢いです。
さらにその先には、2015年後半のWindows 10により、PCとモバイルの間の境界が取り払われる方向性が見えてきました。これによりWindows 10を搭載したスマホやタブレットが、SIMフリーなどで流通する可能性は十分にあります。
VAIOブランドのスマートフォンも、本格的な展開に際してはXperiaシリーズとの差異化が求められることは間違いありません。VAIO株が軌道に乗ってくるであろう2015年後半には、Windowsプラットフォームのスマホを切り札として投入する日が来るのではないかと、筆者は期待しています。
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