日本マイクロソフトは10月23~24日の2日間、同社製品やサービスの最新情報を紹介するユーザーイベント『The Microsoft Conference 2014』を東京都内のホテルで開催している。8400人の来場者で大盛況の会場では、目新しい新発表こそなかったものの、現状のMicrosoftがどのような戦略を持ってユーザーと向き合い、現場のユーザーがどのように製品を活用しているのか、Microsoftとそのエコシステムの“いま”を理解することができた。
Windowsにしかできないこと
カンファレンス壇上に立った日本マイクロソフト代表執行役社長の樋口泰行氏は、まず米本社で新CEOとなったSatya Nadella(サティア・ナデラ)氏について紹介した。同氏がCEOに就任してすでに半年以上が経過しているが、業界外でも著名人の強烈なインパクトを持つ前任者たちから新CEO体制へと移行し、新しくなったMicrosoftを再び一般にも広くアピールする狙いがあるようだ。Microsoftは今年で創立39年となるが、なんとNadella氏はまだ3代目のCEO。Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏はいうまでもなく、前任者のSteve Ballmer氏もほぼ創業時からのメンバーであり、インド系移民として渡米してきてMicrosoftへと入社したNadella氏の代になって、初めてMicrosoftの世代交代が進んだといえるかもしれない。
↑日本マイクロソフト代表執行役社長の樋口泰行氏。 |
↑2014年2月に米Microsoft CEOに就任したSatya Nadella氏と、そのビジョンを紹介。現在Microsoftは同氏の指針の下、WindowsやPCだけにこだわらない企業へと変革しつつある。 |
だがNadella氏がCEOに就任した現在、Microsoftは「PCからスマートデバイス、さらにはクラウドとより小型デバイスへ」というトレンド変化の只中にあり、従来までのPCとWindows一辺倒だった社内体制を変革し、この新トレンドへと柔軟に対応していかなければならない段階にある。業績自体はビジネス需要の好調もあり比較的盤石なものの、スマートデバイスのシェアで大きく水をあけられているGoogleのAndroidやAppleのiOSといったライバルへの対抗策も重要だ。
今回キーノートで紹介されたのは、法人用途でのここ最近のWindowsタブレット需要の高まりだ。一時期、タブレット導入ではiPad採用が大きなテーマとなっていたが、ひとつのOSにOEM各社が各様のデバイスを開発してさまざまなニーズに応えるWindowsの特徴が、ここ最近の法人各社でのWindowsタブレット採用に変化を与えているようだ。例えば、普段の業務アプリケーションがそのまま動作したり、キーボードやマウスを組み合わせることで従来のデスクトップPCやノートPCへと変化するWindowsタブレットは、既存製品のリプレイスに都合がいい。また、4Kタブレットなど現状ではWindows版しかないソリューションもあり、「幅広いニーズに対応できるのはWindowsだけ」というメリットをアピールしてライバルへの反転攻勢に出ている印象がある。壇上で紹介された3Dプリンタの手軽な利用やOffice 365を組み合わせた業務支援も、こうした幅広いニーズをカバーするWindowsの強みといえる部分で、コンシューマー市場での苦戦とは対照的に、法人用途ではその強みを存分に発揮しているようだ。
↑増え続ける法人市場でのタブレット導入。この市場において最近ではWindows OSの存在感が強まっている。 |
↑三井住友銀行でのタブレット導入事例。これはパナソニックの4Kタブレットが使われている。 |
↑mPOSと呼ばれる、決済ターミナルにもなるタブレット。クレジットカードの磁気部分の読み取りのほか、NFCによるタップ&ペイにも対応。 |
↑パナソニックの4Kタブレットに映っているのは気象衛星ひまわりの精細画像で、実際にテレビ放送の現場などでも活用されているという。 |
↑3DプリンターをUSB接続して、モデリングデータを印刷するデモ。現在、このように簡単に3Dプリンターを接続して印刷できるプラットフォームはWindowsだけだという。デモでは時間がないので、3分間クッキングのようにあらかじめ印刷してあった完成品を紹介。 |
↑Windows搭載タブレット製品紹介では、今月米ロサンゼルスで開催されたAdobe MAXにおいてプレビューが行われた「VAIO Prototype」も登場。エヴァンジェリストの西脇資哲氏が樋口氏にVAIOを手渡すと、同氏は製品のスタイラス着脱ギミックに感心して「これがSurfaceにもあれば……」とコメント。 |
とはいえ、Microsoftは「Windows」だけの会社ではない。樋口氏はユーザーのニーズに応えてこそ意味がある点を強調し、今後はiOSでもAndroidでも、幅広いプラットフォームをカバーして、ユーザー需要を取り込んでいくことが重要だとしている。「MicrosoftがかつてこれほどまでにiPadを使って対外的にデモを行なったことがない」と前置きして紹介したのは、『Office for iPad』だ。iPad上で動作するOffice製品なのだが、Office 365サブスクリプションを経由してアクセスする製品のため、日本での一般展開にあたってはどうしても『Office 365 Solo』のようなサービスが必要だった。Soloはすでに提供が開始されているが、今後はOffice 365と他社製品を組み合わせたプロモーションも行なっていくことになるのかもしれない。
↑先日コンシューマー向け製品である『Solo』も発表された『Office 365』。遠隔地とビデオ会議しつつリモートでOfficeファイルの操作を行って資料を作成したり、iPadからも利用できたりと、生産性を向上させるツールとして非常に有用な点をアピール。 |
また、法人向けという切り口で大きなトピックなのが“Windows Server 2003のサービス終了”だ。今年4月にWindows XPの延長サポートが終了したが、その直前までメディアやパートナーを広く巻き込んだOS移行プロモーションで大騒ぎしたことが記憶に新しいだろう。Windows XPをベースとしているWindows Server 2003もまた、XPより1年少々ほど寿命が長く設定されているだけで、今後1年を経たずしてサポート提供が終了する。いまだ基幹システムとして利用している企業は多く、この計画的な移行が重要なテーマとなっている。イベント展示会場でも専門のコーナーが用意されており、関心を寄せる企業担当者の窓口となっている。
↑Windows XPをベースとしている『Windows Server 2003』も、サポート終了まで1年を切っている。この最新状況も報告。 |
未来はすぐそこに、注目の新技術
今回のカンファレンスの基調講演の模様はインターネットでライブ中継を行なっており、スマートフォンなど手持ちのスマートデバイスでも閲覧できるようになっていた。これを実現しているのがMicrosoftの『Azure Media Services』なのだが、このAzure Media Servicesの追加機能として、Microsoft Researchが開発した『Azure Media Indexer』が紹介された。
通常、“検索”を可能にする“インデックス化”処理は文書ファイルやWebページなどテキスト情報が対象となっている。最近はOCRやマッチング技術を組み合わせて画像ファイルのインデックス化を実現している例もあるが、Azure Media Indexerでは動画映像の音声情報を抜き出してインデックス化を行なう。これにより、Azure Media Indexerを通した動画映像は自動的にテキスト抽出が行なわれ、ライブ映像にほぼリアルタイムでキャプション(字幕)を付与することなども可能になる。さらに、このテキスト情報を機械翻訳にかければ、やはりほぼリアルタイムで翻訳キャプションの付与が可能になる。今回の基調講演では楽天CTOのJames Chen(ジェームズ・チェン)氏がゲストスピーカーとして登壇して英語によるプレゼンテーションを行なったのだが、このわずか十数分ほど前の講演映像がAzure Media Indexerを通して日本語訳されて再上映されるデモが紹介されている。
これの応用はさらに面白い。Skypeにこの技術を応用すると、異なる言語での会話をリアルタイム通訳するシステムが可能になる。壇上で紹介されたビデオでは、ドイツ語と英語を話す2人が、Skypeを通してそれぞれが理解できる言葉に翻訳されたキャプションと音声で遠隔地でのチャットを行ない、それがリアルタイムで実現されている様子が紹介された。もちろん、機械翻訳の限界というものはあるが、技術の進化が少し前まで実現しそうで実現できなかった世界を現実のものにしようとしている。
↑Azure Media Indexerを応用すれば、例えばSkypeに同時翻訳機能をつけて相手側に違う言語で会話内容を表示させたり、あるいは会話の音声そのものを別の言語にしてしまったりと、リアルタイムの機械通訳のようなものが可能になる。 |
このほか、注目の新製品としてWindows Phone 8.1ならびにWindows 10 Technical Previewの紹介が行なわれたが、すでに講演時間を30分近くオーバーするなどスケジュールが押していた関係か、簡単な紹介に留まっていた。ただ、Windows 10 Technical Previewに比べて、本来は日本で発売されておらず、その予定さえ立っていないWindows Phone 8.1について、パーソナルアシスタント“Cortana”やユーザーインターフェースの紹介が比較的丁寧に行なわれていたあたり、「日本マイクロソフトはWindows Phone 8.1を日本でなんとかローンチする方策を必死に練っている」のだと筆者は感じている。
↑Windows Phone 8.1で搭載された音声パーソナルアシスタント“Cortana”のデモ。日本未発売の製品デモを何度も行うあたり、おそらくは日本マイクロソフト的にはWindows Phoneの国内リリースの可能性をいろいろ模索しているようなのだが……。 |
↑音声入力が恥ずかしいという人には、キーボード入力でもCortanaの操作が可能。キーを直接タップしなくても、キーボード上の文字を順番になぞるだけで予測変換による文字入力が可能。例えば、ラルク・アン・シエルのようなキーワードの正確な綴りも、アポストロフィーやハイフン記号を入力せずとも予測変換で一発入力できるという。 |
現状でWindows 10に関する新情報は特に出ていないが、2015年初頭には同OSのコンシューマー向け施策が正式に発表されるほか、より詳細な開発者向け情報や関連製品の新情報が来年4~5月に米国で開催される開発者会議(BUILDとIgnite)で説明される予定で、気になる方はこのあたりのタイミングに注視してほしい。なお、ここでの新情報を日本での開発者向けにまとめた開発者イベント『de:code』が来年も5月末に東京で開催される予定なので、合わせてチェックしておこう。
↑時間の関係で紹介がかなり駆け足となってしまったが、10月1日に公開されたばかりの『Windows 10 Technical Preview』も紹介。新旧アプリケーションのウィンドウ表示での混在や新しいアプリ切り替え方式であるタスクビューなどがデモされている。 |
↑2015年には、こうしたそれぞれのニーズに対応するイベントが複数開催される予定で、ここでの最新情報を逐次チェックしておくといいだろう。 |
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