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「日本人はチップを食べているのか?」とその米国人は言った by遠藤諭

2014年08月27日 19時00分更新

 シャープの電卓が50周年だそうな。'64年、世界初のオールトランジスタ・ダイオードによる電子式卓上計算機『CS-10A』が発売されて半世紀。その後、世界中に電卓を売りまくることになる日本だが、これにはひとつの商品ジャンルにおさまらない歴史的な意味がある。米国の半導体産業のお得意さんが“軍事”、“宇宙”、“コンピュータ”だったのに対して、日本は“電卓”、“家電”、“ゲーム機”など民生品の世界でしたからね。これが、省電力な“CMOS”(相補性金属酸化膜半導体)や液晶パネル、厚さ0.8ミリまでカシオと競った“実装技術”、太陽電池と、エレクトロニクス技術を育てることになったからだ。

電卓
↑シャープの電卓50周年記念『CS-10A』のミニチュア(中央)と桐箱(右)。私がはじめて買った『EL-8103』(左)は1974年製で単三乾電池5本(!)で駆動。いまでも動くのだが、sin30°(サイン30度)を求めるのに1秒、arcsin(0.5)(アークサイン0.5)を求めるのに1.7秒と、一瞬息をのんだ感じで答えが出るというある意味“人間味”のある製品です。写真奥はシャープの電子辞書『ポケット型電訳機 IQ-3000』。

 そんな日本の電卓の歴史を切り開いたCS-10Aではあるが、今回、シャープはそのミニチュアのプレゼントキャンペーンを行なった。いくらなんでも関係者が欲しいだけではないかと疑いたくなるマニアックな企画だが、その試作品が私のところに届いた(すいませんキャンペーン自体は8月29日に終了)。桐の箱から出てきた 約49(W)×51(D)×29(H)mm(10分の1スケール)のCS-10Aは、3Dプリンタで正確に再現・出力されたもので重さ78グラムにほどよい実在感がある。シャープの電卓といえば、個人的に、はじめて買ったのが同社の『EL-8103』という関数電卓だったというのもあって、ちょっぴり思うところもあり。

電卓
↑ミニチュアモデル(試作)の細部カット。こちらは試作のため、キャンペーンで当選した方にはもっと精巧なモデルが送られるとのことです。

 ところで、世界最初の電子式卓上計算機はなにか? というトリビアに対する答えは、英国ベル・パンチ社サムロック・コンプトメーターが'62年に発売した『ANITA Mk VII/VIII』となる。これは、真空管を含むオールエレクトロニクスという意味で、シャープの『コンペットCS-10A』は、オールトランジスタ・ダイオードによる製品ということになる。国立科学博物館産業技術史資料情報センターの山田昭彦さんによると、同時期にトランジスタ式の電卓は、米国のフリーデン『EC-130』とイタリアのIME『84rc』も作られているが、シャープ以外の2社については正確な発売日が不明。フリーデンは前年の'63年に公開しているので試作機ということでは早く、製品ではシャープが先ではないかとのこと。IMEが早い可能性もあるが、ウェブで調べると“最初のトランジスタ式電卓のひとつ”と書かれていたりする。

 しかし、シャープのCS-10Aは、最初に触れた日本が'80年代に世界のエレクトロニクスの覇権をにぎる道筋の上でとらえるべきものだ。アメリカ大陸に最初にたどりついたのはエレクソンだが、歴史的な意味ではコロンブスだというようなことだ。その歩みの中で私がいちばん好きでどうしても紹介したくなるのは、同社の電卓事業の立役者である佐々木正氏からお聞きしたエピソードだ。米国半導体メーカーからチップを買い付けまくった時代に、「日本人はチップを食べているのか?」と米国人に言われたそうだ。白いご飯の上に黒いゲジゲジ状のチップをかけてチョップスティックで食べている'70年万博の頃の日本人家庭の笑顔が思い浮かぶではないか。

●関連サイト

電卓50周年記念CS-10Aプレゼント

人間よりも計算時間のかかる電卓

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