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Windows情報局ななふぉ出張所

ソフトバンクが提唱する“汎用ロボットで1億人”構想に見る未来

2014年07月23日 17時00分更新

 ソフトバンクの法人顧客向けイベント『SoftBank World 2014』で、7月15日に孫正義社長が基調講演を行ないました。ここで聴衆の度肝を抜いたのが、汎用ロボットの導入により製造業人口を1億人相当にまで高める、という構想です。

ソフトバンクが提唱する“汎用ロボットで1億人”構想は実現可能?
↑SoftBank World 2014の基調講演に登壇した孫正義社長。Pepper(写真右)のデモも行った。
ソフトバンクが提唱する“汎用ロボットで1億人”構想は実現可能?
↑製造業の労働力を1億人相当に高めるという壮大な構想を発表。会場を驚かせた。

 日本では現在、少子高齢化や人口減少が他の先進国を上回る勢いで進行しており、社会問題となっています。これに対して“少子化対策”や“移民の受け入れ”といった既存の対策とは異なる、第3の選択肢を提示する形にもなっているのがおもしろいところです。

 果たしてこのアイデアはどれくらい現実的なものなのでしょうか。

■人間に匹敵する汎用ロボット3000万台を24時間稼働

 基調講演では、人間と同等の生産性を備えた汎用ロボットを3000万台導入し、24時間稼働させることで9000万人相当の労働力となり、1000万人の人間と合わせて、1億人相当になると孫社長は語っています。実際、これは社長自身も「99%の人には無茶と思われるかもしれないが、1%の人に届けば良い話」と前置きするほど、壮大な構想といえます。

ソフトバンクが提唱する“汎用ロボットで1億人”構想は実現可能?
↑人間と同等の生産性を備えた汎用ロボットを3000万台導入すれば、24時間労働により9000万人分に相当するという。

 すでに製造業の現場ではFA(ファクトリーオートメーション)として知られる自動化が普及しており、多数の産業用ロボットが活躍していますが、それらの多くは特定の作業に特化したロボットです。

 孫社長が提唱するのは、状況に応じて作業できる“汎用ロボット”の導入です。

 基調講演ではロボット構想のプレゼンテーション中にPepperのデモが披露されたため、“3000万台のPepper”を想像した人もいるかもしれませんが、Pepperが人間と同じような労働に従事できるかといえば、疑問が残るところです。Pepperが備える学習能力は、あくまで学習用のプログラムが想定する範囲内での学習であると考えられ、人間の作業を見よう見まねで覚えるといった意味での学習機能を実現することは、現代の技術では困難だからです。

ソフトバンクが提唱する“汎用ロボットで1億人”構想は実現可能?
↑Pepperが人間のように働くことはまだまだ難しい。

■マクロのように動作を覚えさせられる『バクスター』

 現実的に導入される汎用ロボットは、もう少し地味なものになるでしょう。

 たとえばロボット掃除機『ルンバ』の開発者がつくった汎用ロボット、『バクスター』(Rethink Robotics社)のようなものです。バクスターがどのようなロボットかは、Rethink Robotics社のYouTubeページで動画を見ることができます。


↑バクスターによる箱詰め作業のデモ。


↑一般的なコーヒーメーカーを使ってコーヒーを入れるデモ。

 バクスターは、一定の動作を記憶させることで、単純作業を繰り返し行なえるロボットで、制御のために専門の技術者によるプログラミングが不要となる点が特徴です。Excelで操作をマクロとして記録し、繰り返し実行させるようなイメージです。

 専用に設計された産業用ロボットなら同じ作業をもっと高速に実行できることを考えると、まだまだバクスターの動きは遅く、動作には不安を覚えるところもありますが、その代わりにバクスターは、状況に応じた新たな動きを“覚える”ことができます。箱詰めする商品が変わったり、紙コップの大きさが変わったとしても、バクスターなら柔軟に対応できるでしょう。

■技術革新に伴う課題も汎用ロボットで解決

 ただ、このような大規模な技術革新には、必ず懸念が付きまといます。汎用ロボットを大量導入することで、これまで製造業に従事していた人が職を失ったり、賃金が下がる可能性が出てくることです。それらは購買力の低下につながり、ロボットが生産した商品を買える人が少なくなれば、需要自体が減っていくことになります。

ソフトバンクが提唱する“汎用ロボットで1億人”構想は実現可能?
↑安価な汎用ロボットが普及すれば、日本人も職を失ってしまうのでは……?

 18世紀後半に始まった産業革命では、機械化によって仕事を奪われることを危惧した人々が機械を打ち壊すラッダイト運動を展開しました。現代でも、ITの普及に対して不安を覚える人々によるネオ・ラッダイト運動が存在しています。

 しかし、技術革新は完全に正しい方向に進んでいる、と筆者は考えています。実際に筆者がプログラマーとして働いていたIT業界では、生産性を大幅に改善する代わりに、“多数の人間の職を奪う可能性のある製品”を作ることも少なくありませんでした。たしかに短期的には、失業や賃金の切り下げといった問題は避けられませんし、そこは社会保障でしっかりカバーされるべき部分ですが、長期的にみれば、単純作業から解放され、人間はより創造的で人間にしかできない仕事に就くことになるでしょう。

ソフトバンクが提唱する“汎用ロボットで1億人”構想は実現可能?
↑単純作業をロボットに任せることで、人間はより創造的な仕事に従事できる。

 たとえば、機械化は労働を単純化するという側面があります。工場におけるライン作業は、チャールズ・チャップリンが映画『モダン・タイムス』で描いたように、同じ作業を一日中繰り返す単調なものになりがちです。現代でも、米国や英国においてAmazon.comの物流センターが問題として取り上げられる機会が増えています。

 この点についても、人間に近い柔軟性で単純作業をになう汎用ロボットの普及により、解決していくものと期待できます。倉庫内を走り回って商品を集めてくる作業を汎用ロボットに任せることで、人間はロボットに新しい動きを教えたり、ロボットの性能を改善する仕事に専念することができるでしょう。

■ロボットを導入するのは日本だけではない

 汎用ロボットの導入により恩恵を受けるのは、日本だけではありません。すでに産業用ロボットの需要は、中国が最大の市場になっている、との調査もあります。iPhoneの生産で知られるFoxconnのように、数十万人規模の労働者を抱える企業ならば、ロボットの導入に最も積極的になるはずですし、すでに同社は100万台規模のロボットの導入を計画しているとしています。

ソフトバンクが提唱する“汎用ロボットで1億人”構想は実現可能?
↑日本だけがロボットを導入するとは考えにくい。実際には他国もロボットを導入するのでは?

 そのため、日本では労働力を補うロボットの導入も進めつつも、やはり日本ならではの付加価値を高めていく必要があるものと筆者は考えています。

山口健太さんのオフィシャルサイト
ななふぉ

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