家計簿をつけようと思っても、データ入力がめんどうでついつい三日坊主になる人は多いもの。レシートを撮るだけで家計簿になる斬新なアプリを提供する宮田昌輝さんに起業の経緯をうかがいました。
株式会社BearTail 最高執行責任者
宮田昌輝
'91年神奈川県生まれ。'12年沼津工業高等専門学校電子制御工学科卒業後、筑波大学理工学群工学システム学類編入学。ユーザーの嗜好動向にフィットする物件情報をレコメンドする研究を行なう。'12年にBearTail(ベアテイル)に参画、地域特化の不動産ポータルや美容室のポータルサイトの立ち上げとM&Aを主導。'14年に筑波大学理工学群工学システム学類を卒業。現在株式会社BearTailの最高執行責任者(COO)として人力入力代行の無料家計簿アプリDr.Wallet事業の運営を行なう。
速水:現在、会社は何名でやられているんですか。
宮田:社員は7名です。アルバイトを入れると15人ほど、打ち込みのワーカーさんを含めると500人くらいになりますね。
速水:打ち込みのワーカーさんというのは?
宮田:私たちは『Dr.Wallet(ドクターウォレット)』という家計簿のアプリを開発しています。これはレシートをスマートフォンで写真を撮ると弊社にデータが送られてくるのですが、それを人力で打ち込んでいるんですよ。
速水:あれ、人力なんですか! いや、僕も実は使っているんですが。レシートを撮って送ると、早ければほんの1分もかからないでデータになって上がってくるんですよね。込み入ったものでも10分くらいでした。
宮田:あ、でも時間はタイミングによるんです。早いときはすごく早く返せるんですが、場合によってはもう少し時間がかかるときもあります。
速水:たしかに最初は人力とは思っていなかったんですけど、でもありえないよなとも思っていて。時間が多少かかるということと、もし完全にデータを解析するソフトがあるのなら逆にもっと早いんだろうし。でも解析だとこのクオリティーでは出てこないだろうなと思っていたら、やはり人力なんですね!
宮田:OCRと呼ばれる自動文字認識のエンジンもあるんですが、それだとどうしても精度があまりよくなくて、そこをどうにか解決したかったんですね。となると、やはり人間がやるのが最強なんじゃないかという話になって。それで人力での作業をエンジニアリングでサポートするという人とシステムのハイブリッドシステムになりました。
速水:じゃ、完全に全部人力でやりまっせってわけでもなくて半々なんですね。
宮田:そうですね。弊社のメンバーは全員エンジニアのバックグラウンドをもっているので、できる限りOCRなどの技術も取り入れていますし。あと、いままで打ち込んだ正解データから補完してみたりもしています。
速水:だけどレシートの本当に細かい項目まで全部読み取ってくれるんですよね。ジャンルにしても外食費なのか光熱費なのかまで分けてくれるし。それにしても人力でとは、コロンブスの卵だなあ。ちなみに、このサービスを始めたのはいつからですか。
宮田:昨年8月ごろですね。
速水:注目を集めはじめたのはもう少しあとですよね。
宮田:出資を受けたころ、昨年の12月くらいでしょうか。そのころから他社さんとも提携をしはじめたので、それで認知度が上がったかもしれません。
速水:使っている側からはどんな感想が寄せられていますか。
宮田:正確でいいと言われることが多いですね。また最近ではアップデートをしてからデザイン等に対しておほめの言葉をいただくことも増えましたね。
速水:では逆に、クレームは。
宮田:タイミングによって、すごく遅くなってしまうんですよ。
速水:ほう。僕のはたまたま早く返ってきたけど、もっと時間がかかることもあるんだ。
宮田:1日以内というのを目標にしていますが、それでも遅いという声がありますね。
速水:ワーカーさんを集めるのって最初は大変だったのでは?
宮田:それは苦労しました。でも在宅でできる仕事がなかなかないという実情もあるので。そういう意味では、弊社は子育てをしているお母さんがたとの相性がいいようです。みなさん、子どもが寝ているときに働きたいんだけど、子どもが寝るタイミングってわからないので。
速水:フレキシブルに働けるから、おたがいにメリットがある。やはり女性、主婦が多いですか。
宮田:多いです。あとは中国人、ベトナム人、日本にいない日本人のかた、たとえばフランス在住の日本人のかたとか、時間や、地理的な要因で仕事ができなかったかたにもお仕事をしていただけています。
日本のレシートデータ化のインフラになりたい思いもある
宮田:今後はユーザーをいかにして増やそうかというのがいちばんの課題です。
速水:いまのユーザー数は。
宮田:ダウンロードで30万ぐらいになりますね。また、弊社では『Dr.Wallet ビジネス』という法人版のサービスもやっています。とにかく会計処理のレシート処理ってめんどうじゃないですか。ビジネス版ではその場でレシートをパシャパシャ撮ったらエクスポートする機能を売りにしています。
速水:エクスポートですか?
宮田:エクセルデータにし、その会計ソフトに読みこめるという、サービスも展開しています。
速水:そのへんは、やはり自社の強みみたいなものがわかったことで、そこを特化している状態になってきているんですね。
宮田:そうですね。ある意味、レシートデータ化のインフラになりたいなという思いはあります。
速水:この分野にはまだまだやることがありそうですね。いや、考えれば考えるほどすごくいいところに目をつけましたよねえ。
宮田:ありがとうございます。
速水:しかし、それにしてもレシートの情報を、ホント恥ずかしいくらいにまで細かく拾ってくれるんですよね。
宮田:ハハハ。
速水:この間は食べた餃子の種類まで詳しく書かれていましたから。だけど自分が食べた餃子の値段をクラウド上で誰かに見られているのかと思うと(笑)。
宮田:あ、個人情報を心配されているかたが多いので、レシートも1枚全部まとめて見せないようにしているんですよ。まずは分割してしまうので。
速水:え?
宮田:ひとりは最初の焼餃子の部分しか見えなくてほかのメニューはまた別の人が入力します。
速水:ええ? そうなんだ? それはすごいですね。
宮田:やっぱりサービスを運営していく中で、個人情報が心配だという声がよくきかれるんですよね。そしてサービスを始めてみるとレシートによっては1枚でもかなりの個人情報が含まれていることがわかってきたのです。サービスの成長と合わせてプライバシーに強いシステムを開発していき、いまではワーカーさんには焼餃子を買った人が日本にいる、ということくらいの情報しかわからないレベルです。
速水:ではほかに、たとえばレシート情報を解析することから派生するビジネスみたいなものも考えられていたりもする。
宮田:そうですね。でも、購買情報から入るとわりとなんでもできるのかなと思ってる部分もあるんですよ。それこそ、就職情報誌を買ったらこの人は仕事を探しているんじゃないかとか。そう思うとレシートってライフログ的なものに思えてきますね。
速水:なるほど。レシートとは、ライフログなのか。しかもこれ、最強かもしれないですねえ。
宮田:はい。だって先月のあの日に自分がどこにいたか覚えていなくても、この家計簿を見るとわかるんですから。
速水:ああ。そういえば、僕もやましいときはレシートは全部捨てますからね(笑)。
今回の聞き手
速水健朗(はやみずけんろう)
'73年11月9日生まれ、石川県出身。編集者・ライター。著書に『ラーメ ンと愛国』(講談社刊)、『自分探しが止まらない』(ソフトバンク刊)ほか。
http://www.hayamiz.jp/
■関連サイト
レシートを撮るだけの全自動家計簿アプリ!「Dr.Wallet」
週刊アスキーで全部読めます!
7月7日発売の週刊アスキー8/12増刊号(No.987)では、宮田昌輝さんを直撃したインタビューをすべて掲載。「Dr.Wallet」が出来上がるまでの苦労やレシートの面白さなどを聞いています。
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