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Windows情報局ななふぉ出張所

マイクロソフトが目指す、新しい“Windowsファースト”の世界

2014年06月04日 17時00分更新

 日本マイクロソフトは開発者向けのカンファレンス『de:code』を5月29日、30日の2日間に渡って開催しました。2日間で参加費用10万円超という有料イベントにも関わらず、会場となったホテルを開発者が埋め尽くしたのが印象的でした。また、このイベントで東芝の8インチタブレットと、ノキアのWindows Phone 8端末が配布されたことは、すでにレポートした通りです。

マイクロソフトは“Windowsファースト”をあきらめたのか?
↑de:codeでは、WindowsとOfficeを中心に、モバイルやクラウドへ、さらに縦横に拡大していく同社の最新ビジョンを示した。

■開発者は未来をつくる、ならばWindowsストアアプリの未来は明るいだろうか?

 このイベントのサブタイトルは、“Developers build the Future”(開発者が未来をつくる)というキャッチフレーズです。これは米マイクロソフトの前CEO、スティーブ・バルマー氏が強調してきた”developer, developer, developer”のフレーズと同じく、開発者を優遇するというポリシーを継続することを印象付けています。

マイクロソフトは“Windowsファースト”をあきらめたのか?
↑de:codeは今年からリニューアルした開発者イベント。その最初の企画段階から、”Developers build the Future”というメッセージは決まっていたという。

 実際、マイクロソフトのWindowsエコシステムは、膨大な数の開発者なくしてここまで成長することはなかったでしょう。Windowsプラットフォームには、クライアントからサーバーまで、ほぼあらゆる種類のアプリやツール、ドライバー類が揃っています。“MacやLinuxだけができること”は確実にあるものの、一方で“Windowsだけができること”はそれ以上にあるといえます。

 このようにマイクロソフトは開発者を優遇してきた上に、VIsual Studioを始めとする開発環境は、多くのプラットフォームの中で最も使いやすいツールであると評判が高いのも事実です。しかしここまで開発者を優遇し、素晴らしい開発環境を提供しているにも関わらず、Windowsストアは停滞しており、残念ながら魅力的なアプリが続々と登場する状況には至っておりません。この大きなギャップに対し、マイクロソフトはどのような対策を考えているのか。これが筆者の基本的な関心です。

 このようなギャップはあちこちに発生しています。PCの世界とは逆に、モバイルの世界では“iOSやAndroidだけができること”は確実に増えています。イベント会場ではTwitterのハッシュタグが告知され、現場から多くのツイートが投稿されているにも関わらず、マイクロソフトのWindows Phoneは“電波を発してはいけない”状況が続いているのです。

■新言語『Swift』で新たな開発者を呼び込むiOS

 これに対してモバイルの世界では、マイクロソフト以外の勢力が着々と成長してきました。たとえばこれまでに世界がはっきり変化したと筆者が感じたのは、iPhoneアプリの開発が盛り上がったときです。

 iPhoneアプリは、プログラミング言語としては当時マイナーだった“Objective C”を使う必要がありました。さらに開発環境であるXcodeを動かすにはMacが必要であり、Windows PCを使う一般的な開発者にとって、あまりにも敷居が高いものでした。少なくとも、“Windows上のスクリプト言語でアプリ開発ができる”などの、何らかのクロスプラットフォーム対応をしない限り、iPhoneアプリは成功しないだろうと筆者は考えていました。

 その結果は、皆さんがご存じの通りです。プロの開発者どころか、それまでプログラミングをやったこともない人が大挙してObjective Cの書籍とMacを購入し、こぞってアプリをつくり始めたのです。その全員が成功したわけではありませんが、皆さんの知り合いでも“アプリで小銭を稼いだ”経験を持つ人がいるのではないでしょうか。

 さらにアップルは6月2日(現地時間)のWWDC 2014で、新プログラミング言語『Swift』を発表しました。Swiftはまだ言語仕様の概要しか一般公開されていないものの、スクリプト言語のように軽量な文法と、ネイティブコードへのコンパイルによる高速さを両立させた強力な言語となっています。

マイクロソフトは“Windowsファースト”をあきらめたのか?
↑WWDCで発表された新言語Swift。iOSのアプリ開発において最大の障壁だったプログラミングやデバッグの煩雑さを大きく改善する可能性がある、おもしろい取り組みだ。

 注目は、流行を採り入れた“全部入り”の言語仕様もさることながら、メモリ管理が自動という点も興味深いところです。これが従来のiOS向けのObjective Cでは利用できなかったガベージコレクタだとすれば、メモリ解放時の負荷について不安は残るものの、iOSアプリの開発やデバッグはかなり楽になるものと考えられます。

 この新言語により、新しい開発者は低い学習コストで参入できるようになり、Objective Cのめんどうくささを嫌って去っていった開発者が戻ってくる可能性も感じられます。

■クラウドファーストの先にある“Windowsファースト”戦略

 たしかにde:codeのプレゼンテーションは内容的にも海外イベントをよくまとめており、みっちり練習したことから生まれる“余裕”も見え隠れした、ハイレベルなものでした。既存のWindows開発者にとって、居心地の良い空間が用意されていたといえます。しかしそこに新しい開発者がどんどん流入してくるような期待感があったかというと、疑問が残るところです。

マイクロソフトは“Windowsファースト”をあきらめたのか?
↑会場では大きく盛り上がったLumiaの配布。日本発売への道筋が見えてきた証との見方もある反面、「なぜもっと早く実現できなかったのか」との声も多い。

 それでも、マイクロソフトは状況の変化に対して、柔軟に対応しつつあります。基調講演で樋口社長は「これまではWindowsがイチバンだったが」と振り返りましたが、iPadが普及している現状を認め、iPad用のOfficeをリリースしたこともそのうちのひとつです。さらにWindowsのライセンスを画面サイズやデバイスの価格帯に応じて無料化するなど、一見して“Windowsファースト”をあきらめたかのような施策を、次々と打ち出しています。

 その代わりとなるのが、“クラウドファースト”というキーワードです。マイクロソフトの傘下となったNokiaがAndroidベースのOSを採用したことで話題となった『Nokia X』のように、今後はWindows以外のOSを使っているユーザーを、積極的にマイクロソフトのクラウドへと誘導していくという施策です。

 もしユーザーデータの大半がクラウドに存在するようになれば、デスクトップアプリよりもWebアプリのようが使いやすいと感じるはずです。デスクトップアプリが不要になれば、ChromeOSのようにWebブラウザーさえあれば良いことになり、OSの違いは関係なくなります。

 ただ、それだけでWindowsが不要になるのかといえば、事実はその逆だと筆者は考えています。たとえばAndroidの強さの一端は、グーグルの検索やGmail、Googleカレンダーといったサービスが統合されていて使いやすい、という点にあります。今後、クラウドの重要性が増すほどに、クラウドサービスが使いやすいOSに人気が集まるはずです。

 そこで、まずはiOSやAndroid上にマイクロソフトのクラウドをしっかり対応させ、グーグルなどのクラウドサービスを利用しているユーザーに移行を促します。そしてマイクロソフトのクラウドに依存するユーザーが増えれば、それらが使いやすく統合されているWindowsやWindows Phoneに、自然と注目が集まるようになるでしょう。

 これがクラウドファーストの向こうに見えてくる、新しい“Winodwsファースト”の世界です。

山口健太さんのオフィシャルサイト
ななふぉ

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