WWDC2014基調講演は近年稀に見る展開だった。
基調講演終了後、脊髄反射的に「製品については何も言及しなかったな」と落胆はしたのは事実ではあるけれど、その次の瞬間に“Write the code. Change the world.”という今年のキャッチコピーの意味が腑に落ちた。最初から、徹頭徹尾、開発者向けのアップデートと情報公開に徹したイベントとして計画されていたということだ。
基調講演冒頭でティム・クックCEOが語ったところによれば、全参加者のうち、70%が初参加。厳正なる抽選の結果そうなったセンはなくはないものの、過半数を超えるあたりは初参加者にそれなりの重み付けをして当選させたような気がする。
除幕されたバナー。こちらもiOS8の新機能である、タスク切り替え画面の新UIやボイスメール機能になっている。 |
基調講演後に除幕された会場入り口のバナー。HealthはiMessageなどを含むiOS8の新機能を示す画面が写っている。 |
数千人の来場者からの声援に応えるティム・クックCEO。 |
クレイグ・フェデリギ上級副社長。ソフトウェアエンジニアリング担当。 |
異例といえば、登壇したアップル幹部の顔ぶれも異例だ。
OSの話に終始したせいもあるけれど、ティム・クックCEOが話題の切り替えに司会役として登場する意外、ほぼ全編がクレイグ・フェデリギ氏劇場。デモはさすがにいくつかを他の社員に任せていたものの、それすら一部は自分でやってしまう。まるでスーパーマンのようだった。
近年登壇回数の多かったフィル・シラー氏は、ついに箸休めのジョーク写真にも出て来なかった。
※正確には、連絡先のスクリーンショットに名前だけ登場
既報のとおり、iOS8とOS X Yosemiteは開発者向けベータ版を即日配布し、今秋に正式版登場の予定。すなわち、iPhone6になるであろう次期端末は、今秋登場ということになる。
個々のOSの新機能については、リアルタイム更新された『WWDC2014まとめ』をご覧いただくとして、ここでは俯瞰的にアップルが基調講演で明かした国内のユーザーにとって大事なポイントをまとめて伝えていきたい。
■社外IMEのサポート=より賢い日本語IMEに期待
日本語圏のユーザーにとって非常に大きな変更点の1つは間違いなくこれだ。
長らく、文字入力にはサードパーティーが参入できなかったが、iOS8では正式に非純正のIMEが利用可能になる。
基調講演でこの変更が公表された際、日本からのデベロッパー/プレスと、それ以外の参加者との反応がまったく違ったことは現状を反映していて面白い。日本語変換はニュアンスや使い勝手の難しい言語なので、もう少し賢くしたいと思っている人が多いということ。
この手のアプリでは付き物の、キーロガー対策をどうしているのか、実際にどこまで深いレベルの開発が可能なのかはNDA契約の藪の中だから、現時点ではわからない。
日本語IMEといえばジャストシステムのATOKだ。ジャストシステムに確認したところでは、発表されたばかりのため「現時点では調査中」としながらも「前向きに開発情報の詳細を調査していきたい」と語っている。
■iOSとOSXの緊密な連携=水平移動型のアプリ体験
もし実現すれば理想的、でも体験するまでどうなるかがよくわからないのがこのアプリ連携。“水平移動型のアプリ体験”は、色々な形で言及されている。たとえば、
・iCloud Driveで、Windows8含むどのデバイスからでも、最新のドキュメントが読み書きできること、
・iPhoneにかかってきた電話をMacで受けたり、Macで書き掛けのメールをiPhoneでフィニッシュして送信。また、“Handoff”機能でMacのSafariで途中まで見たページを、自動的にiOSデバイスでも表示も
・“iCloud Photo Library”機能で、あらゆる手持ちのiOSデバイス間で写真ライブラリの同期が可能。写真の加工結果まで含め即時反映。
それぞれ、iOS8公式ページでは別々の項としてまとめられている。
けれども、その根っこに共通しているのは、次々にデバイスを移動しながら、自然に目的の作業を続行できることにある。重要なのは、人がコンピューターに合わせて連携を工夫する必要がなく、自然に起動すれば、自然に読み込まれるというイメージ。
iCloud Driveはいわゆるクラウドストレージに容量/価格帯をブツけてきた格好だが、OSの機能に入るのはやはり有利だ。開発者がアプリの設計段階から動作要件に組み込めるので、より自然でシームレスなアプリ連携ができるハズ。たとえば、iOS版のOfficeアプリを起動した瞬間に、直前にMac版Officeで作業していたファイルを自動読み込みする、といったようなことだ。
一方でiCloudに関する気がかりは、日本国内ではあまり評価の高くないアップルのクラウドストレージがDropboxなどと比べてどの程度のパフォーマンスが出るのか。これ次第で、大化けするか、思ったほどの成果が出ないのかが変わる。
なお、基調講演の中では、写真/動画用途としては、5GB無料、20GBが$0.99/月、200GBは$3.99/月という価格テーブルが公表された。Dropboxと比較すると、200GBで約1/5も安価な計算になるものの、これがiCloud Drive全般に適用されるのかは現時点ではわからない。
■iOS8ではアプリ間連携の自由度が大幅に高まる
iOS8では、新たにExtensibilityという拡張機能で、アプリ間の相互連携をサポートする。この仕組みを使うと、カメラロールから外部アプリを呼び出して写真加工をするといったようなことが可能になる。また、同様にアプリ的な機能を持つウィジェットをNotification Centerに組み込めるようになるなど、iOS自体の機能向上につながっていく新しい機能だ。
■iOS8世代の子どもは、欲しいアプリをiPhoneでおねだりする
開発者向けということで、いかに売上げに寄与するか、といった視点の提案も複数ある。“アプリのセット販売”というAppStoreの新機能もその1つだ。
そうしたなかでファミリーシェアリングの機能の1つである“子ども向けの購買パーミッション”機能が面白い。
端的に言うと、親に”このアプリが欲しいよ!”とおねだりする機能だ。子どもからお願いが来てるのに、親側の画面の選択肢が「Not Now/Review」というカタすぎる名称なのが逆に笑いを誘う。ちょっとした親子コミュニケーションになりそうな雰囲気もあって、その点でも面白い。また、これまでは消費者ではなかった子どもの需要を、アプリ購入へうまく誘導できる機能だとも思う。
ちなみにファミリーシェアリングでは、同一のクレジットカードで購入した、最大6人までの家族とiTunes楽曲やiBooksコンテンツなどを共有することもできる。
■Health、指紋認証『Touch ID』、HomeKitで”プラットホーム化”を加速させるiOS8
形はまだ見えない大きなことで言えば、最後のこの3つは、今後のiPhoneを考える上で大事な機能になってくる。どれも、iOSデバイスをプラットホーム化するための仕組みという点で注目。
燃焼カロリーの推移と、睡眠時間推移。装着するデバイスはそれぞれ別だったとしても、こうしたデータは一元管理できたほうが見やすいという例。 |
ヘルスに機能統合されたイメージ。血圧、体重、活動量、摂取カロリーがアプリを切り替えることなく一画面で確認できる。 |
まず『ヘルス』について。アメリカの家電量販店では、『Wearable Technology』などの名前で活動量計売り場ができているような、人気ジャンルになっている。いままでは別々のアプリで管理しなければいけなかったログを、“Health Kit”の仕組みを使うことで、iOSの側で一元管理できるようになる。
Touch IDの使用前/使用後でのユーザーのパスコード設定率の比較。以前は約半数だったのが、Touch ID利用者では83%にもなっている。
Touch IDはこれまで、iPhoneのパスコードとiTunesアカウントの認証時に使えるのみだった。それが、iPhone5s発売から約9ヵ月を経て、一般の開発者にも提供された形。iPhone5s発売と同時に解放しなかったのは、この認証の仕組みの安全性の検証などをしていたからじゃないだろうか。サードパーティーに解放される意味はとても大きく、iOSではまだ実現されていない“指紋認証での電子決済”をサードパーティーの決済系アプリが先に実装してくるかもしれない。
最後に“HomeKit”。iPhoneから無線LED電球の照度を変えたり、無線キーロックを開錠したり、エアコンの温度を変えたりといったスマートホーム的な操作をiPhoneに組み込むフレームワーク。iPhoneで操作するのみならず、複数のデバイスをSiriで操作することができる。
●関連リンク
WWDC2014基調講演アーカイブ
iOS8 Preview公式ページ
OS X Yosemite Preview公式ページ
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります