Mozilla Japanは4月19日、日本でも年度内に投入が予定される『Firefox OS』の開発者会議を開催した。このイベントに合わせ、米Mozillaからアプリやマーケットプレイスを担当するVP(Vice President)のリック・ファント氏が来日。端末投入から約1年が経ったFirefox OSの現状を、アプリの観点から語った。ここでは、週刊アスキー5/13-20合併号No.978(4月28日発売)の特集『Chrome OS完全攻略』に掲載したインタビューの完全版をお届けする。
↑インタビューに答える、Mozilla CorporationのVP、リック・ファント氏。 |
――Firefox OSのマーケットプレイスには、現在どの程度のアプリが存在するのでしょうか。また、無料と有料の比率も教えてください。
ファント氏:何千のアプリケーションがあり、そのうち数百が有料で配信されています。ただし、Firefox OSデバイス向けのアプリで、マーケットプレイスの中にあるものはそれほど多くないとも言えます。
――それは、つまり、マーケットプレイスを介さず、直接ウェブ上で配信されているアプリが多いということでしょうか。
ファント氏:その通りです。我々は開発者に選択肢を与えています。開発者が選ぶのであればマーケットプレイスを通してもいいですし、そのためには我々がスポンサーになったり、宣伝をしたりすることもあります。逆に、直接ユーザーにアプローチしたいのであれば、それもできます。これは、(ほかのモバイルOSのような)シングルコントロールポイントだったことからの、大きな変化です。
――一方で、マーケットプレイスを必ずしも通さないでいいとなると、セキュリティーの心配があります。
ファント氏:ダークサイドもあります。とても気をつけなければいけないのは、(HTML5で端末にパッケージとしてインストールしないアプリは)アプリそのものが変わってしまうこともあるからです。そのためには、ウェブベースでのセキュリティーを完璧にしなければならないですし、アプリがどの機能にアクセスするかはユーザーがコントロールできることが重要になります。
――アプリがアクセスできる権限を明示しても、ユーザーがその意味を理解しない可能性もあります。特にFirefox OSは新興国のユーザーにおいて、はじめてのインターネットデバイスになることを目指している以上、その点は重要だと思います。
ファント氏:これも、その通りです。スタンダードがなにかを知らないのであれば、教育しなければなりません。モバイルがはじめてのインターネットデバイスという場合は、特に重要です。そのため、Firefox OSは、デフォルトでクローズされた状態になっています。これがどういう意味かというと、アプリが権限を必要とする段階でそれがユーザーに示されるということです。
――それはつまり、電話帳にアクセスする必要があったときは、個別にパーミッションを必要とするということですか。Androidアプリのように、インストール時に一括で権限を取得するような挙動はしないという理解で正しいでしょうか。
ファント氏:はい。たとえば、電話帳にアプリからアクセスするとき、アプリはAPIを呼びに行き、ユーザーにはその許可をするかどうかが聞かれます。そこにはリンクもあり、「この機能についてもっと知りたい」というときはクリックすると、何を意味しているのかを詳しく知ることもできます。
――開発者会議では、ブラジルにFirefox OSを投入するにあたって、人気の高いフットボール関連のアプリをMozillaが音頭を取って充実させたとうかがいました。ほかの国でも、同様の取り組みはあったのでしょうか。
ファント氏:私は知らなかったのですが、たとえばポーランドではデートアプリ(出会い系アプリのようなもの)が、とても一般的です。Firefox OSでもそれを始めて、とても人気が出ています。また、コロンビアでは、モバイルウェブアプリを作ったことがない開発者が、レストランやタクシーを見つけるアプリを開発するのを支援しました。
↑グローバルで人気の高いアプリだけでなく、地域ごとのニーズに合わせたアプリもFirefox OS用にそろうよう、活動を行なっている。 |
――そういう取り組みについては、日本でも期待できるのでしょうか。
ファント氏:もちろんですし、すでに取り組みは始まっています。今日開催されたイベントもその一環ですし、ローカルな開発者をできるだけ支援していきたいと思っています。そのためには、テクニカルサポートのドキュメントや、サンプルアプリを英語はもちろん、日本語で提供することも重要になってきます。
――Firefox OSのマーケットには、すでにキャリア課金が導入されているというお話もありました。Androidではキャリア課金によって売り上げが伸びたという事例もありますが、Firefox OSではいかがでしょうか。
ファント氏:キャリア課金はすでに9ヵ国で始まっています。そして、そのコンバージョンレートは、クレジットカードでの支払いの3倍高いというデータもあります。たとえば、ポーランドやブラジルではデフォルトでキャリア課金を導入していて、開発者がそれを使うかどうかを決めることができます。ただし、我々はビジネスモデルに要件をつけているわけではありません。キャリア課金が使いたくなければ、ほかのやり方で支払うこともできるようにしています。それは、我々がオープンなウェブを信じているからです。キャリア課金はオプションとして提供していますが、それはビジネスとしていい条件を得てほしためであって、必須条件として強制しているわけではないということです。
↑キャリア課金にも対応している。ほかのプラットフォームと同様、キャリア課金はユーザーの利用率も高くなる傾向にある。 |
――HTML5を使ったFirefox OSならではの、特徴的なアプリというのは何かあるのでしょうか。
ファント氏:現状はゲームにかなりを重点を置いていますし、グローバルなSNSも対応しています。(ネイティブアプリとの差があるというより)HTML5のアプリと、ネイティブアプリのギャップを埋める努力をしているところです。
――ほかのプラットフォームに見劣りしないアプリも重要ですが、HTML5の特徴を生かした、ネイティブにはできないようなアプリもFirefox OSの独自性を出すのに必要だと思います。
ファント氏:今、その方向で努力をしています。HTML5の能力をできるだけ使ってほしいと、開発者に話をしています。また、HTML5であれば開発が速くでき、費用も安いのが特徴です。Androidのネイティブアプリと比べると、コストは1/3という報道もあります。そうやって作ったアプリが、マルチプラットフォームで動くのもFirefox OSならではです。
――とは言え、デバイスにも広がりが出てきているなかで、フラグメンテーション(分断化)の問題は起きないのでしょうか。
ファント氏:そういう問題は起きないと思っています。すべてのウェブはすべての端末で動くからです。たとえば、Yahoo!はInternet ExplorerでもChromeでもSafariでも使えますよね?デバイスも問わず、PCでもタブレットでもスマートフォンでも見ることができます。それは、ウェブとして開発されているからです。また、W3Cという標準化団体で、Firefox OSのAPIやパッケージを標準化する作業を行なっています。つまり、Firefox OSかAndroidかにかかわらず、ウェブアプリとして両方で動くことを検討しているわけです。我々はウェブがPCの世界で実現したことを、モバイルで実現したいと考えています。
――Firefox OSには、端末にインストールする“パッケージ”と、ウェブ上でそのまま動かす“ホスティッド”という2つのタイプのアプリがあるとうかがいました。現状、両者の比率はどうなっているのでしょうか。
ファント氏:一般的に、アプリの中身が頻繁に変わるものは“ホスティッド”、ずっと内容が同じであり続けるものは“パッケージ”が使われる傾向にあります。今現在、人気があるのは“ホスティッド”で、全体の90%程度がこちらになっています。これからオフラインで動くものも、より求められるようになると思います。そうなると、“パッケージ”も今後は20%ぐらいには上がっていくのではないでしょうか。ただし、主流はやはり“ホスティッド”で、それこそがウェブのパワーだと思っています。
↑アプリはインストール型の“パッケージ”と、オンラインでそのまま動作させる“ホスティッド”の2種類に分かれる。 |
――つまり、Firefox OSの強みでもあるということでしょうか。
ファント氏:Firefox OSのというより、HTML5の強みですね。それは、開発者にとっても、ユーザーにとってもそうです。アップデートのたびにいちいちダウンロードしてインストールをしてとやらなくてもいいですし、ユーザーフレンドリーな環境とも言えるでしょう。
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