米国を中心に盛り上がりを見せているグーグルのChrome OS搭載のノートPC『Chromebook』。2011年に最初のモデルが発売された時点では正直なところパッとしない印象を受けたものの、2013年末には出荷台数を大きく伸ばしていることが明らかになり、一気に注目度が上がったのは記憶に新しいところです。
↑CES2014で東芝が発表したChromebook。米国ではすでに299ドル(約3万円)で発売済み。 |
そろそろ日本での発売も期待されるChromebookについて、最近の動向を改めて振り返っておきましょう。
■米国で盛り上がるChromebook人気
Chromebookについての注目度が上がったのは、2013年末のこと。米国の調査会社NPDによって、2013年1月から11月までに米国で出荷されたノートブックのうち、21%のシェアをChromebookが獲得していたことが明らかになりました。PCやタブレットの合計に対しても、9.6%のシェアとなり、MacBookの1.8%やAndroidタブレットの8.7%をも上回る結果が話題となったのです。2013年に世界で出荷された3億1455万台のPCのうち、Chromebookは250万台と、全体の1%に満たないとの報道(IDC調査)もあり、まだまだ世界的な存在感は大きくないものの、確実に出荷台数を伸ばしていることがうかがえます。
その結果、CES2014においてもChromebookは主要な話題のひとつとなりました。
CES2014直前の2013年12月には、デルが教育市場向けの『Dell Chromebook 11』を、さらにHPが11インチと14インチの『HP Chromebook 11』、『HP Chromebook 14』を発表。特にChromebook 14は、T-Mobile USが米国で提供する月間200MBまでの無料LTE通信の対象端末として話題になりました。さらに東芝はCES2014で初のChromebook製品『Toshiba Chromebook』を発表し、ブースに実機を多数展示。こちらもメインターゲットは教育市場で、米国では2月より299ドルという低価格で販売されています。
↑CES2014の東芝ブースに多数展示されたChromebook。 |
世界最大のPCメーカーとして知られるレノボは、1月末にWindowsとChrome OS両対応のThinkPadシリーズとして『ThinkPad 11e』を教育市場向けに発表。ChromebookモデルはWindowsモデルより100ドル安い、349ドル(約3万6000円)に設定されています。
↑ThinkPadシリーズのChromebook『ThinkPad 11e』。米国のK-12(幼稚園から高校まで)市場向けという位置付け。 |
3月3日にはサムスンが第2世代モデルとなる『Samsung Chromebook』を発表。13インチモデルは399ドル台でフルHDのディスプレイを搭載するなど、徐々にハイスペック化が進んでいます。
■リアル店舗でもオンラインでもChromebookは売れている?
このように新機種が続々と登場しているChromebookですが、事実、米国ではよく売れているようで、Best BuyやFry'sなどの家電量販店ではChromebookが専用コーナーに陳列されている場面をよく見かけます。グーグルのロゴ入りシャツを着た販売員が常駐していることもありました。
↑米国のFry'sやBest BuyではChromebook専用のコーナーがつくられている。 |
米Amazon.comのランキングでも、低価格WindowsノートやMacBook Airを抑え、Chromebookが上位を独占しています。この傾向は、2013年の年末商戦期からずっと続いており、東芝のChromebookも6位と健闘していることが分かります。
↑Amazon.comのノートPCランキングでもChromebookが上位を占めている状態。 |
一方、MWC2014で訪れたヨーロッパでは、Chromebookを見かけることはありませんでした。日本においても、家電量販店などではまだ1機種も発売されていません。
これに対して気になるのがWindowsの動向です。マイクロソフトは昨年末より米国においてグーグルに対するネガティブキャンペーンを強化しています。その一環として、Chromebookが“本物のノートPCではない”ことを印象付ける、米国の人気テレビ番組を模した動画を公開しています。
↑マイクロソフトによるChromebookのネガティブキャンペーン。Officeも動作しないノートなんて本物のノートPCではないと主張するが……。
マイクロソフトの主張によれば、Chromebookは典型的な“安かろう悪かろう”のデバイスということになります。実際、WindowsのノートPCにWebブラウザーとしてのGoogle Chromeをインストールすれば、Chromebookと同等の機能を利用できてしまいます。さらにWindowsノートなら、Microsoft Officeや豊富なWindowsアプリケーション、周辺機器などをフルに活用できることは明らかです。
ただし、米国のPC市場は必ずしも“高価なWindowsノートと、安価なChromebook”という対立構造にはなっておりません。むしろ家電量販店では、200~300ドル台のChromebookの横で、同程度の価格のWindowsノートが売られているのです。
↑Chromebookと同程度の価格(約2万5000円~4万円)のWindowsノートも販売中。 |
たとえばASUSのWindows 8 Pro搭載ノート『X502CA』は、15.6インチのHD液晶にCeleron CPU、320GBのHDDを搭載するなど、Chromebookと似通ったスペックのノートPCです。さらにその価格も264ドル(約2万7300円)と、Chromebookに十分対抗できる価格です。300ドル台(約3万円台)までいけば、より多くのWindowsノートの選択肢があります。
このような状況で、常識的に考えれば、Windowsノートのほうが圧倒的に売れていいはずです。それでもChromebookを選ぶ人が増えているというのが、興味深いところなのです。
■Chromebookは日本に投入されるか?
日本でChromebookはまだ発売されていません。2014年1月末にはGoogle Playに日本エイサーの『Acer C720 Chromebook』が誤って掲載され、発売への期待が高まったこともありました。
さらに3月に入ってからは、東芝がChromebookを日本で発売するとの報道が注目を集めました。これに対して東芝は「現時点では、報道内容のような事実はない」との回答にとどまっています(2014年3月12日現在)。
↑結果的には誤情報であったものの、Chromebook日本発売の期待は高まったといえるだろう。 |
日本向け製品でまず重要となる日本語対応については、海外向けの製品を見る限り、ほぼ問題ないと考えて良さそうです。マイナス要素としては、日本市場で当たり前となっているMicrosoft Officeのプリインストールがないことや、Webブラウザー市場でInternet Explorerのシェアが高いことに伴う、Chrome自体の知名度の低さが考えられます。
↑海外向けのChromebookでも、日本語フォントや日本語入力には対応済み。 |
その一方で、日本の家電量販店でノートPCを購入しようとすると、10万円前後のモデルが中心となり、敷居が高いのも事実です。ネットブックやWindows XP機からの置き換え用として、キーボード付きの安価なインターネット端末の需要は、意外なほどあるのではないでしょうか。
また、Chromebookによって低価格のノートPCが増えれば、Windows PCにも値下げ圧力が働きます。2月にはマイクロソフトが低価格端末向けにWindowsのライセンス価格を引き下げるというBloombergの報道(関連記事)が話題となりました。価格競争が激しくなることで、Windows PCが欲しい人にとってもメリットは生まれてくるはずです。
気になるのは、米国において十分に安いWindowsノートが存在するにも関わらず、Chromebookが売り上げを伸ばしているという現状です。Windows陣営にとっては、“Windows PCならではの価値”とは何なのか、改めて訴求ポイントを見直すことが求められるでしょう。
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