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富士通のフランス版“らくらくスマホ”の現状と未来を聞いてきた:MWC2014

2014年03月06日 16時00分更新

 富士通は、フランスの通信事業者『Orange』向けに、シニア層をターゲットとするスマホ『Stylistic S01』を2013年6月より発売している。これは、日本で2012年8月より発売している『らくらくスマートフォン F-12D』をベースとして、フランス向けにカスタマイズを施した製品で、基本的なコンセプトは日本のらくらくスマートフォンとほぼ同じとなっている。フランスでの発売から9ヵ月近くが経過しているが、現在どのような状況となっているのか、MWC会場で話を聞いてきた。

フランス版”らくらくスマホ”

↑仏キャリア“Orange”から発売中の『Stylstic S01』。

●フランスは日本と状況が似ている

 富士通が、NTTドコモの“らくらくホン”シリーズとして、日本でシニア向けの携帯端末を初めて発売したのは2001年。初代らくらくホンは、松下通信工業(当時、現Panasonic)が開発した『P601es』という端末だったが、富士通は第2世代となる『らくらくホンII F671i』から現在に至るまで、“らくらくホン”および“らくらくスマートフォン”シリーズの開発を担当している。F672iの登場から約13年が経過しているが、日本ではシリーズ累計2000万台を超える販売実績を誇る、非常に大きなブランドに成長している。

 そういった中で、らくらくスマートフォンを武器にフランスに乗り込んだ富士通。実は、富士通が海外市場で本格的に携帯端末を発売するのはこれが初めてだった。では、なぜ最初に選んだのがフランスだったのだろう。

 「日本では、年々高齢化が進んでおり、ターゲットとなるお客様が増えています。ヨーロッパも世界的に見ると比較的高齢化が進んでいるのですが、とくに突出して高いのがフランスです。つまり、市場の構造が最も日本に近かったので、フランスを選びました。」こう語るのは、富士通のユビキタスビジネス戦略本部、プロモーション統括部統括本部長の土井敬介氏だ。

フランス版”らくらくスマホ”

↑富士通の土井敬介氏。

 また、高齢化の状況が日本に近いというだけでなく、フランスでは高齢者でもパソコンでインターネットを利用する率がかなり高いのだという。そういった統計などから、フランスなら“らくらくスマートフォン”が受け入れやすいのではないか、と考えて参入したそうだ。ただ、実際に参入してみると、やはり課題が浮かび上がってきたという。

 スマホではデータ通信プランの契約が必要となるため、通話のみの携帯電話に比べると、どうしても月々の負担が増えてしまう。これまで、通話のみの携帯電話を使って満足していた人に、スマホにすることで増えるコストの価値をどのように理解してもらうか、この点が課題になっているというのだ。

 ただ、同じ問題は日本でも直面してきたことだという。“らくらくスマートフォン”の日本発売以降にも、同様の課題で苦心した経緯があったのだ。日本では“らくらくスマートフォン”発売時にはすでに“らくらく”というブランドが浸透し、どういった性格の製品なのか、ひと目でわかるようになっていたのに対し、フランスではブランドイメージが一切なくゼロからのスタートという大きな違いもあるが、それでも日本で先行して投入し、課題が見えていたこともあって、いざフランスで発売した場合でも、日本と違うという印象はほとんど受けなかったそうだ。

 では、発売以降どの程度の売れ行きとなっているのか気になるが、「正直に言って、数はそんなに出ていない」(土井氏)とのこと。ただ、この点については、当初から織り込み済みだという。昨年6月に売り出した時には、比較的富裕層の高齢者が多い地域に絞って販売を開始したそうだ。これは、高齢者ユーザーが多くいるのはわかっているので、じっくり市場をつくっていこうと、Orange側とも相談して決めたことだった。

 今でこそ、日本でらくらくホンシリーズは大きなブランドとなっているが、日本でも初めて製品を出した当初は、全く売れなかったという。ただ、徐々にその魅力が浸透していくとともに出荷台数が増え、大きなブランドへと成長した。それと同じように、目先の数にとらわれず、フランスでも時間をかけてじっくり取り組み、成長させようとしているとのことだ。

●フォーラムなどクチコミの力で盛り上げる

 日本でらくらくホンシリーズが広く認知されたのは、高齢者に使いやすいことが浸透したからだが、その原動力となったの“クチコミ”だ。最初に買ったユーザーが、まわりの人に勧めるというように、クチコミで徐々に浸透していった。そして、フランスでも同様の効果を期待しているという。

 そして、その効果を高めるために用意されているのがフォーラム機能だ。日本で“らくらくコミュニティ”(外部サイト)と呼ばれるもので、フランス版にも同等のフォーラム機能が用意されている。このフォーラム機能は、基本的にはユーザー間の交流を高めるためのものだが、それを通して認知度を高めるという意味合いもあるという。そして、このフォーラムの存在は、フランスでもかなり高い評価を得ているそうだ。

フランス版”らくらくスマホ”

↑日本で運用されている“らくらくコミュニティー”。

 また、今回MWCの開催に合わせ、日本とフランスのフォーラム間での交流イベントも開催された。あらかじめ日本とフランスのユーザーにらくらくスマートフォンで撮影した写真を応募してもらい、プロカメラマンなどが審査した日仏10作品ずつをMWC会場の富士通ブースで展示し、来場者に審査してもらおうという、写真コンテストイベントだ。このイベントも日仏双方で盛り上がっているそうだ。

フランス版”らくらくスマホ”

↑ブース内の投票エリアの様子。素人が撮ったとは思えない、味わいぶかい写真が選ばれていた。

 そして、今後はユーザー間での交流だけでなく、家族とのコミュニケーションを切り口としたサービスの強化も行なう予定という。たとえば、家族との連絡をらくらくコミュニティを利用して行えるようにするというようなサービスだそうだ。シニア層は、若年層に比べると見ず知らずのユーザーと交流する割合が少ないため、家族とのコミュニケーションを切り口として、よりフォーラムを活用してもらえるようにしたいという。

 さらに、日本とフランスのユーザーが、直接コミュニケーションできるような仕組みの構築も考えているそうで、今回の富士通ブースでは、そういったシーンを想定したサービスのデモも行なわれていた。日本とフランスでフォーラムに投稿した内容が、自動翻訳エンジンによって相手の言語に自動翻訳され表示されるというものだ。言語の違いを気にせず、他の国のユーザーとコミュニケーションが取れるようになり、交流の場が大きく広がることになる。ブースでの展示は、実際に稼働しているものではなく、デモ的なものではあったが、以前からやりたいと思っていたことだそうで、実現に向けて夢を持って取り組んでいるとのことだ。

フランス版”らくらくスマホ”
フランス版”らくらくスマホ”

↑会場で入力した英文が、日本での表示を想定した端末画面(右写真、右側)に翻訳されて表示される様子。

 土井氏は、「端末の価格を1円でも安くして、1台でも多く売るという方法もありますが、我々はそうではなくて、サービスの部分も考え、ハードとセットとしてオペレーターに提案し、採用してもらいたいと思っています。ですので、サービスについては今後もどんどん強化していきます。」と語っていたが、こういった部分も、長年らくらくシリーズを手がけてきた経験が、大きく役立っているのだろう。

 海外の端末メーカーも、ここ数年シニア層をターゲットとした製品への取り組みを強化している。ただその多くが、まだ既存端末をベースに、UIを買えただけのものが多い。しかし富士通には、過去の日本での経験から、UIだけにとどまらないノウハウが数多く蓄積されている。確かに時間はかかるかもしれないが、それを武器に腰を据えて取り組んでいけば、世界の市場でも“らくらく”と言えば富士通、というイメージが定着するはず。今回の話を聞いて、そういった印象を強く受けた。

●関連サイト
富士通

 なお、富士通はMWCの同ブースにて、未来のスマホやデバイスの方向性を示す技術展示を実施。詳細は好評発売中の『週刊アスキー3/18号 No.970』の緊急特集『MWC2014 現地速報』に掲載中です。ぜひこちらもチェック!

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