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JAL SKY Wi-Fiなど機内ネットサービスを推進する米Gogo幹部インタビュー

 日本航空(JAL)は今年7月より『JAL SKY Wi-Fi』の名称で国内線向けのWiFiによる機内インターネット接続サービスを提供開始する。これは国内線新シート導入とサービス刷新である“JAL SKY NEXT”に合わせた施策のひとつで、すでに国際線向けに提供が開始されているインターネット接続サービスを国内線にも持ち込んだものだ。今回、このJALの国内線向けサービスで機材とシステムを提供している米Gogo社の幹部にインタビューする機会を得たので、その詳細について聞いてみた。

■JAL SKY Wi-Fiとは?

JAL SKY Wi-Fi Gogo

↑国内線新シート、サービスを導入した“JAL SKY NEXT”の発表会で、Gogoの機内インターネット接続サービス“JAL Sky Wi-Fi”を発表。

 まず最初に、カンタンにJAL SKY Wi-Fiについて紹介しておく。これは、JALの国内線向け機内インターネット接続サービスの名称で、その特徴としては地上で電子メール送受信やSNSのチェック、Webサイトの巡回を行なうのと同じ感覚で、飛行中の機内においてもインターネット接続が行なえるサービスだ。きっと誰しもが1度は「日本上空1万メートルなう」のようにFacebookやTwitterで投稿してみたいと考えたことがあるかもしれないが、それがカンタンにサービスとして利用できるものだ。

JAL SKY Wi-Fi Gogo

↑インターネット接続も可能なので、SNSのチェックやメール送受信も行なえる。

 なお料金だが、30分だけ利用できる30分パスが400円、1フライト間有効なフライトパスが500円~となっている。フライトパスの金額は路線やフライト時間によって変化する。1時間程度の短い路線では500円、2時間近い路線では1000円以上と毎回設定が変更されていると考えておけばいいだろう。JAL Mileage Bank(JMB)のダイヤモンドやサファイアといった上級会員、JGCプレミア会員向けには、無料でサービスが利用できるクーポン券を提供する特典もある。詳細は5月以降の発表となっている。

JAL SKY Wi-Fi Gogo

↑料金は30分400円か、1フライト間有効なフライトパスの500円~の2種類。フライトパスの料金は接続デバイス(パソコンかスマホか)や路線の距離によって異なる。

JAL SKY Wi-Fi Gogo

↑JGCプレミア会員やJMBダイヤモンド、サファイア会員は無料でサービスが利用できる特典あり。またJMBのマイルをサービス利用クーポンに交換することも可能。

 そしてもうひとつの特徴は、機内で提供される無料の動画サービス(VOD)だ。従来、シート背面にある小さなディスプレーの機内エンターテイメントシステムでコンテンツを観ていたものが、今後は手持ちのスマホやタブレット、パソコンで楽しめるようになる。コンテンツ自体は無料で提供されるため、別途料金を支払う必要はないうえ、前述のフライトパス等を購入する必要もない。

JAL SKY Wi-Fi Gogo

↑スマホやタブレットといったスマートデバイスさえもっていれば、無料で観られる豊富な機内コンテンツのストリーミングが楽しめる。

 JALによれば、国内線という短い区間で楽しむことを念頭に「映画のように長いものではなく、30分間など短い時間で楽しめるコンテンツを集中して集めた」と説明している。オンデマンドで手持ちのデバイスを使っていつでもコンテンツを楽しめるわけで、これは従来の機内エンターテイメントにはあまり見られない仕組みだ。

■世界展開を進めるGogo

 さて、こうした機内インターネットとVODを提供しているのが米Gogo社だ。Gogoの設立は1991年と比較的古く、もともとは社名でもあったATG(ATG4)と呼ばれる『Air To Ground』のサービスを提供している会社だった。つまり、地上に設置したアンテナと空中を飛ぶ飛行機の間で高速通信を行ない、飛行中の機内においても地上との業務通信を可能にするものだ。

 現在、このATGシステムは“Gogo”の名称で機内インターネット接続サービスとして一般搭乗者にも開放されており、短いフライトで2~3ドル程度、長距離フライトでも15ドル程度で利用可能になっている。米国ではハワイとアラスカを除く48州がすべてカバー範囲となっており、ほとんどの米国内線および一部のカナダ行き路線においてサービスが利用できる。デルタ航空ではすべての米国内線でこのATGによるGogoのインターネット接続サービスが利用でき、それ以外のアメリカン航空やユナイテッド航空をはじめ、多くの航空会社の国内線で利用可能だ。

 今回、JAL SKY Wi-Fi発表に合わせて米Gogoの国際セールス担当SVPのNiels Steenstrup氏と、同社アカウントマネージャでJAL担当のJohn Hopkins氏に、Gogoの概況と今後の展開について話をうかがってみた。

JAL SKY Wi-Fi Gogo
JAL SKY Wi-Fi Gogo

↑(左)米Gogo SVP International SalesのNiels Steenstrup氏。(右)米Gogo International Airline Account ManagerのJohn Hopkins氏。同氏は日本に滞在してJALとの交渉窓口になっている。

――Gogoの概要を教えてください。

Steenstrup氏:Gogoは米シカゴを拠点に800人の従業員を抱える上場企業だ。昨年2013年夏にNASDAQへの上場を果たし、ここでの資金を基に国際展開が可能になった。これまでは“ATG”でもわかるように、米国内線の米航空会社がおもなユーザーだった。だが現在、衛星通信に対応すべく機材のアップグレードを続けており、米国外においてもサービス提供が可能になった。JALは米国外の航空会社としてはわれわれにとって初の顧客だ。JALは衛星通信によるインターネット接続のほか、“Gogo Vision”というVODの機内エンターテイメントシステムも採用しており、旅行者は手持ちのスマートデバイスでコンテンツを楽しむことができる。

――なぜスマートデバイスなのか? 従来の機内エンターテイメントシステムとの連携は?

Steenstrup氏:(図を示して)現在われわれが持っているGogoサービスの利用に関するデータだ。搭乗者のおよそ4人にひとりがGogoのサービスに接続している。そしてデバイス比率はスマホ、タブレット、パソコンでほぼ等分している。JALの場合、現在は国内線でシート背面に設置するタイプの機内エンターテイメントをもっておらず、わざわざ高いコストをかけて機材を導入するよりは、個々の搭乗者がもつデバイスをサービスに接続してもらうほうがいい。日本でのデータは持ち合わせていないが、米国ではWiFiに接続可能なデバイスはひとりあたり2.3台もっているという話がある。私自身のケースでも3台だ。Gogo Visionのアイデアがこうした状況にマッチしていると理解いただけるだろう。なお、Gogo Visionはデルタ航空やアメリカン航空など、JAL以外の既存の(すでにシート背面に機内エンターテイメントを内蔵した)機材であっても利用できる。すでに全世界で900以上のGogo Vision対応のフライトが就航している。

JAL SKY Wi-Fi Gogo

↑これは米国でのデータだが、Gogoの導入された機材はすでに2000機以上が稼働しており、利用率もフライトあたり4人中ひとりが利用しているという。

JAL SKY Wi-Fi Gogo

↑現在発表されているGogo導入の航空会社。いちばん左が北米各地に設置された地上アンテナを利用するタイプの航空会社で、真ん中がKuバンドによる衛星通信の機内インターネット接続サービスを提供する会社。いちばん右がGogoの機材を利用して機内エンターテイメントサービスを提供している会社の一覧。

――Gogoの一般利用者と航空会社との間の立ち位置は?

Steenstrup氏:Gogoのサービスはネットワーク運営から(政府関連等で)必要な承認プロセスまで請け負い、航空会社にマーケティング支援を提供することだ。つまり前面に出るのは航空会社ということになる。一方で、われわれのユニークなサービスのひとつとして、オンラインチャットによるテクニカルサポートがある。これはGogoのポータルサイト(初回接続時にリダイレクトされるGogoサービスのトップページ)から利用可能で、航空会社の客室乗務員では必ずしも対応できない接続や料金支払いなど、サービス関連のサポートを(航空会社ではなく)われわれが直接顧客に提供するものだ。日本についても、日本語でのサポートをGogoが提供する。また、一連のサービスメニューやポータルはカスタマイズが可能になっており、これを航空会社が適切に利用できるよう支援すべく、John Hopkinsがアカウントマネージャとして日本に常駐している。

JAL SKY Wi-Fi Gogo

↑タブレットで“JAL Sky Wi-Fi”に接続したときのデフォルトの表示画面。接続オプションや機内エンターテイメントで提供されているコンテンツが表示されている。画面上部には現在のフライト状況や目的地の天気情報が表示されており、インターネット接続料金を払わずともサービスを利用できる。

――サービスの帯域幅はどの程度か?

Steenstrup氏:通信速度については、さまざまなファクターがあるのでひと言でいうのは難しい。ただし、一般的なオフィスで電子メールやWebブラウジングを行なうのと同程度の体験を得られるとしておく。われわれは通信にフェアなアクセスポリシーをもっており、特定ユーザーが帯域を占有することがないよう注意を払っている。たとえばHuluのようなストリーミングサービスは利用できないが、Gogo Visionのような形式で機内サーバ上にストックされたコンテンツをストリーミング配信で見ていただくほうが、こうしたケースでは有効だ。これなら主回線に影響を与えない。

――Gogo VisionのVODには料金は発生しないのか? そのほかのアプリケーション制限などはあるのか?

Steenstrup氏:ケース・バイ・ケースだが、今回のJALのケースでいえば無料だ。アプリケーション制限でいえば、Skypeはビデオチャットだけでなく、音声通話も利用できず、テキストチャットを利用してもらうことになる。これは帯域上の制限というよりも、米国において商用フライト内での音声通話に関する制限による部分が大きい。その意味ではLineやiMessageなどのチャットクライアントは問題なく利用できる。またVPNも利用できるので、ビジネス用途でも効力を発揮するだろう。

JAL SKY Wi-Fi Gogo

↑機内エンターテイメントで提供されるコンテンツの例。フライト時間が1~2時間未満のケースが多いため、映画やテレビドラマのような大容量なコンテンツではなく“短く手軽に楽しめる”を念頭にコンテンツを集めているようだ。

Hopkins氏:そのほかの付加サービスとしては、Gogoポータル右上の部分で“Flight Tracker”による現在地情報や到着予測時間、現地の天気を表示しており、インターネット接続関係なく必要な情報を参照できるようになっている。また、『るるぶ』との提携で到着地のオンライン観光情報を参照できるようにもなっており、観光ガイドとしての役割ももっている。

JAL SKY Wi-Fi Gogo

↑フライトステータスをチェックしたところ。現在位置をリアルタイムで確認できる。

JAL SKY Wi-Fi Gogo

↑観光情報として『るるぶ』との提携で最新の現地情報をチェックできるようになっている。

――今回、なぜ衛星通信に“Kuバンド”を選択したのか? ライバルにあたる“OnAir”では“Kaバンド”を選択している。

Steenstrup氏:まず最初に、われわれは技術選択に関して“中立”の立場であり、そのときどきで最適な技術を選択しているに過ぎない。実際、Kaバンドによる通信は現状では遅く、それが今回Kuバンドを選択した理由ではあるが、Kaバンドのほうが便利なケースもある。たとえば、国内線の小さな飛行機への導入時などだ。場合によっては“Lバンド”が有効なこともあるだろう。高速回線をベストな経験と低価格で提供するため、ATG、Ku、Kaを今後も適時選択していく考えだ。

Hopkins氏:JALにも「なぜKuバンドなのか?」と同じ質問をされたことがある。たとえばボーイング777や767、席配列にもよるが何百人ものユーザーが同時にサービスを使った場合、Kaバンドだとどうなるか? (速度面で有利な)Kuバンドを選択した理由のひとつはそこにある。また衛星通信技術は日々進化しており、もし衛星側の通信装置がアップグレードすると、それを利用する航空機側の機材も恩恵を受けることになる。何年先かは不明だが、そのときはユーザーはより高速な回線を得られるはずだ。

――(飛行機の下側に取り付けられて地上のアンテナと通信を行なう)ATGから、(飛行機の上側に取り付けられて衛星と通信を行なう)Kuバンドの衛星通信になったことで、飛行機の離着陸時であっても機内インターネット接続サービスが利用可能になったと考えているが、実際にはどうなのか?

Steenstrup氏:少なくとも日本の法律は許可していないため、JALでは利用できない。米国では最近になりルールが緩和されたが、現状においても(WiFi機器の利用が許可される)高度1万フィートより下ではGogoのサービスそのものが有効化されないため、利用できないと考えていただきたい。なにより、地上に近い位置では通常の携帯電話での通信も可能なため、ユーザーの混乱の元になると考えている。

JAL SKY Wi-Fi Gogo

↑発表会展示コーナーでの“JAL Sky Wi-Fi”の説明図。左の写真は機体上部にアンテナを設置しているところ。

――デルタ航空では今年2月からKuバンドを用いた国際線での機内インターネット接続サービスが利用可能になると聞いている。具体的なサービス開始日時や利用可能機材は?

Steenstrup氏:デルタ航空が2月からサービスを開始するのは事実だが、具体的な日付については言及できない。“2月中”と考えてもらえばいいだろう。機材についてはボーイング747が最初のサービス機体になると考えている。日本路線でいえば、“成田~アトランタ”、“成田~デトロイト”、“成田~ニューヨーク(JFK)”あたりの便となる。ボーイング777と767についても、順次提供開始されると考えてほしい。

――現状では747、777、767とボーイング(Boeing)社の機材ばかりだが、エアバス(Airbus)社の機材への導入はどうか? また、従来のメタルとは違う素材を用いたボーイング787への導入計画は?

Steenstrup氏:JALの場合、767、777、そして737のボーイング機材への導入が進んでいる。将来的には787やA350といった機材へも導入していきたい(※なお、JALは現状で国内線に787を投入していないため、今回のGogoのケースでいえば無関係)。787で問題となるのは、機体がファイバー素材のコンポーネントという点で、これが耐久力にどの程度の影響を与えるのかということだが、今後もボーイングとの協力で導入のための作業を密に進めていく。実際にわれわれとしては可能だと考えている。

――米国でGogoを利用していると、たまにGogoの接続ポータルで広告が表示されたり、特定の企業がスポンサードすることで接続料金が無料になることがある。こうしたサービスはGogoが提供しているのか? あるいは航空会社の工夫によるものか?

Steenstrup氏:ケース・バイ・ケースで両方の場合が考えられるが、基本的には広告の営業もすべて航空会社側に任せる形となる。システムやマーケティング面でわれわれも支援するが、広告掲載の有無やレベニューシェアも含め、航空会社側に委ねられることになる。おそらく、数年前にGoogleがスポンサードして接続料金を相殺したケースのことを話しているものと思われるが、こうした機会は広告主にとっても広告会社にとってもいい宣伝機会となるだろう。

JAL SKY Wi-Fi Gogo

↑料金オプションの例。

――昔、JALも採用していた国際線向けの機内インターネット接続サービス“Connexion by Boeing(以下、CBB)”では、システム機材のサイズや重量が大きく、これが導入のネックになっていたという話を聞いたことがある。実際にそれと比較してのGogoはどうなのか?

Steenstrup氏:Gogoの例でいえば、メインとなるサーバーと(衛星通信用の)アンテナ、そしてアクセスポイントの3つで構成されている。アクセスポイントは(737のような)ナローボディ機で3つ、(ワイドボディ機である)777では6つとなっている。正確な重量は把握していないが、サーバーもアクセスポイントも一般的なサイズのもので、とりたてて重いものとは認識していない。私は過去にCBBで働いていたが、その当時よりはサイズ的には少し、重量的には非常に軽くなっている。そしてCBBは何より価格が高かったことが問題であり、現在のシステムは進化してはるかに軽量安価を実現している。

――なぜ本社の拠点としてシカゴを選んだのか?

Steenstrup氏:単純な理由でいえば、創業者がいた場所だから……ということだろう。またGogoがATGの社名でスタートしたとき、通信技術の会社がシカゴを拠点していたのも大きい。たとえば基地局技術は(シカゴを拠点とする)Motorolaのものだからだ(※なお、このMotorolaとはLenovoやGoogleによる買収が話題になった“Motorola Mobility”ではなく“Motorola Solutions”のほう)。このほか、米コロラド州にも大きな拠点がある。こちらは(商用フライトではない)ビジネスジェット向けサービスが中心だ。海外拠点としては英国、シンガポール、ドバイ、バルセロナ、そして東京が挙げられる。東京には15人のメンバーが常駐しており、各国の拠点も顧客となる航空会社のサポートのために存在している。

Hopkins氏:予定としては、シカゴの本社も(シカゴ郊外の)米イリノイ州イタスカ(Itasca)ではなく、1年以内にシカゴ中心部へと引っ越す予定だ。その場所には米ユナイテッド航空の本社があり、米ボーイング本社と並んで、Gogoの本社の建物も存在することになるだろう。

●関連サイト
JAL SKY NEXT特設ページ
Gogo公式ページ(英文)

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