マイクロソフトのクラウドストレージサービス『SkyDrive』は、近日中に名前を『OneDrive』へ変更すると、1月27日、公式ブログ(該当記事:日本語訳)で発表(関連記事)されました。
↑おなじみSkyDriveのロゴももうすぐ見納め。 |
今回の名称変更は、英国における商標権訴訟を踏まえたものであるとの報道があります。その一方で、SkyDriveの何が問題とされたのか、マイクロソフトがなぜ負けたのか、理由がよく分からないために戸惑いの声が広がっているのも事実です。今回はこの点を中心に、OneDriveへと至る過程を振り返ってみましょう。
■SkyDriveを商標権侵害で訴えた“BSkyB”とは
英国において、マイクロソフトのSkyDriveを商標権侵害として訴えたのは、有料の衛星放送サービスで知られるBritish Sky Broadcasting Group(通称BSkyB)です。日本におけるスカパー! の旧称は、スカイパーフェクTV! ですが、この“スカイ”は、かなりの紆余曲折を経ているものの、BSkyBに由来しているといってよいでしょう。
日本においては馴染みがないものの、BSkyBは英国における有力なブランドとなっています。2013年9月、筆者はロンドンのオックスフォード通りで『Sky Sports』のロゴを発見し、思わずツイートしましたが、英国ではメジャーなブランドとして流通しています。
SkyDriveが負けたのはこのSkyですね pic.twitter.com/GUrHO6tVgk
— つやつや (山口健太) (@tezawaly) 2013, 9月 12
Skyブランドは、サッカーやF1の中継で知られるSky Sportsのような衛星放送だけではありません。スマートフォン向けの放送サービス『Sky Go』や、モバイル向けWebサイト『Sky Mobile』など、さまざまなSkyブランドのサービスが展開されています。2008年から2011年にかけてBSkyBは、『Sky Store & Share』というストレージサービスすら、提供しています。
■SkyDriveはBSkyBのサービスと誤解しやすい?
今回の訴訟では、英国の一般ユーザーがSkyDriveという名前を目にしたとき、これがBSkyBによって提供されているサービスであると誤解するのではないか、という点が争点となっています。
もちろんPCに詳しいユーザーにとって、SkyDriveがマイクロソフトのサービスであることは自明です。しかしそうでないユーザーに対して、SkyDriveはマイクロソフトが提供するサービスであると、正しく伝わっているのでしょうか。
↑BSkyBのロゴ。英国ではメジャーなブランドだ。 |
訴訟では、SkyDriveがBSkyBによるサービスであると誤解した事例が続々と挙げられています。たとえばLongさんは、音声読み上げソフトを用いてPCを利用する視覚障害者です。あるとき、彼がメールの添付ファイルを開こうとすると、SkyDriveアプリのインストールを勧めるページにリダイレクトされました。LongさんはそれをBSkyBのサービスと理解し、自身の“Sky ID”でログインを試みます。しかしログインに失敗。BSkyBのサポートセンターに電話したところ、そこで初めてSkyDriveがマイクロソフトによるサービスと告げられることになります。
あるいは、履歴書を添付したメールを送信しようとしたCushingさんの場合、その時点でHotmailは、Office文書を送信する際にSkyDriveを経由するという仕組みを採り入れていました。しかし彼女はSkyDriveというサービスに登録した覚えがなかったのです。彼女は自分がアカウントを持っているBSkyBが勝手に登録したものと理解し、BSkyBのサポートセンターに助けを求めるのですが、もちろんBSkyBは関係ありません。
■Windows Liveから独立していったSkyDrive
このような誤解は、ごく一部のユーザーに限られたものかもしれません。“平均的な”ユーザーなら、SkyDriveがマイクロソフトのサービスであることを、ちゃんと理解している可能性があります。しかし訴訟では、マイクロソフト自身がそれに逆行する動きを続けてきたことが指摘されています。
もともとSkyDriveは、Windows Liveブランドのストレージサービスとして、2007年8月に米国や英国で、2008年にはヨーロッパ全域へと展開してきました。そのため、サービス開始当初は“Windows Live SkyDrive”というロゴが用いられていました。しかし2011年10月からは、単独の“SkyDrive”として提供されるようになります。マイクロソフトはこの変更について、Windows Liveブランドではなく、個々のサービスをブランドとして確立していくという戦略の一環であると説明しています。
このようにSkyDriveは、“Microsoft”や“Windows Live”という、確固たるマイクロソフト独自のブランドを離れ、徐々にブランドとしてひとり歩きするようになります。最新の事例では、Windows 8のスタート画面において、単に“SkyDrive”と名付けられたタイルが配置されています。
↑判決文に添付された、SkyDriveロゴの変遷。Windows LiveやMicrosoftの表記がなくなり、徐々に独立したブランドになっていくことがわかる。 |
(判決文の記事リンク)
もしマイクロソフトが、“Windows Live SkyDrive”あるいは“Microsoft SkyDrive”という表記を続けていたとしたら、これがマイクロソフトのサービスであることは誰の目にも、あるいは誰の耳にも明らかなものであったはずです。しかしマイクロソフトは、SkyDriveというブランドをよりシンプルな形で訴求しようとしたために、英国においてBSkyBと衝突することになったわけです。
↑同じく判決文に添付された、SkyブランドとSkyDriveの類似性を示すXboxの画面。たしかに予備知識のない人が見れば、誤解を招いてもおかしくない。 |
■“OneDrive”は大丈夫か?
訴訟の結果、2013年7月31日にはマイクロソフトとBSkyBの間で和解が成立しています。その内容は、マイクロソフトが控訴を行わないことを条件に、新ブランドへの移行に必要な期間に限って、SkyDriveの名前を使い続けることをBSkyBが認めるというもので、BSkyBの全面的な勝利という印象です。
↑新しいOneDriveのロゴ。基本的なイメージはSkyDriveを引き継いでいる。 |
そして今回発表された新しいサービス名が『OneDrive』。気になるのは、では、OneDriveなら大丈夫なのか、という点です。今後、“One”に関する権利を有する企業から訴訟を起こされる可能性はゼロではないものの、マイクロソフトは和解から半年の期間を使って、新しい名前に商標的な問題がないことを念入りに確認したものと考えられます。
エンドユーザーにとって気になるのは、SkyDriveがどういった形でOneDriveに移行するのかという点でしょう。現時点でSkyDrive上にあるデータはすべてOneDriveにも引き継がれることが約束されており、移行の際にはこれまでにない新機能を上乗せした状態でリニューアルすることが期待されています。他にも、既存のURLや短縮URL(sdrv.ms)、ローカルドライブ上のパスにおけるSkyDriveという文字列がどうなるかなど、細かい点は気になるものの、まずはOneDriveの正式なローンチを待ちたいところです。
山口健太さんのオフィシャルサイト
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