週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

Windows情報局ななふぉ出張所

2014年は“SIMフリー元年”になるか?

2014年01月02日 17時00分更新

 あけましておめでとうございます。2014年最初の記事ということで、昨年末から盛り上がってきた“SIMフリー”について考えてみたいと思います。

 週アスPLUSの読者であればSIMフリー(またはSIMロックフリー)という言葉自体は説明不要と思いますが、一般的にはまだまだ認知度の低い言葉といえます。今後、日本においてSIMフリーが爆発的に普及することはあり得るのでしょうか。

2014年は“SIMフリー元年”になるか?
↑フランスのThe Phone Houseで売られている『Lumia 625』は、端末をどのキャリアで使いたいか、選択できる。

■日本にSIMフリー市場は存在しなかった?

 これまで日本には確固たる”SIMフリー市場”というものが存在しなかったと筆者は考えています。たとえば欧州なら、どのキャリアも3GのネットワークをUMTS 900/2100MHzで構築しており、SIMカードを入れ替えることで同じ端末を複数のキャリアで使うことができます。

 また、The Phone HouseのようなショップではたくさんのSIMフリー端末が売られており、自分が欲しい端末を、どのキャリアで使いたいのか選ぶことができます。

 一方、日本では各キャリアの通信方式や周波数が基本的に異なっており、同じ端末を複数のキャリアで使いたいという需要は小さかったものと考えられます。

 唯一、SIMフリーに注目が集まったのはiPhone関連といってよいでしょう。NTTドコモは長期間に渡ってiPhoneを販売しなかったため、なんとかしてドコモでiPhoneを使いたいと考えるユーザーが続出しました。その結果、”脱獄”によりSIMロックを解除したり、SIMロックを解除できるアダプタを使ったり、海外のSIMフリー版iPhoneを入手するといった方法が編み出されたのは記憶に新しいところです。しかし2013年9月20日にドコモからiPhoneが発売されることで、いったん終息した形となりました。

■海外利用のためのSIMフリー市場は小さい

 このように、”ドコモでiPhone”のような起爆剤となる動機付けとして、”海外利用”があります。筆者も海外では、ほぼ毎回のように現地のSIMカードを入手して、スマートフォンを使っています。

2014年は“SIMフリー元年”になるか?
↑フランスで購入したOrangeのSIMカード。SIMフリー端末と組み合わせて安価に通信できるものの……。

 ただ、これは手間がかかりすぎるため、万人向けとはいえないのも事実です。SIMカードを買える場所に行き、使えるようになるまで丸一日を要することも少なくありません。せっかくの海外旅行なのに、SIMカードの入手に時間を取られるのはもったいないことです。数日の滞在なら、キャリアが提供する海外向けのパケット定額サービスを使ったほうが得策でしょう。

 ほかにもモバイルWi-Fiルーターのレンタルや、海外用SIMカードの販売など、日本で準備できる方法も増えています。そのため、海外利用を目的としてSIMフリーを求めるのは、今後もマニアを中心とした一部のユーザーに限られるものと筆者は考えています。

■日本で“SIMカード屋”は実現するか

 SIMカードはどうでしょうか。日本でもMVNOを中心としたSIMカードの販売が急速に広がっており、低価格なプランは節約術のひとつとして、一般層にも認知され始めています。ただ、“MVNO”という言葉にはマニアックな響きがあります。もっとキャッチーなブランド名……たとえば充電池における“eneloop(エネループ)”のような存在が現われれば、一気に普及する可能性があります。

 すでに中国や香港では、町中でたくさんのSIMカードが売られています。日本では本人確認などの手続きが必要な関係上、“ひと山いくら”で売られるような状態にはならないでしょう。それでも、SDカードやUSBメモリのような感覚で、多数のSIMカードが量販店に陳列される日が来るかもしれません。

2014年は“SIMフリー元年”になるか?
↑香港のSIMカード屋台。さまざまなキャリア・サービスのSIMカードがぎっしり並んでいる。
2014年は“SIMフリー元年”になるか?
↑上海もSIMカードの販売が盛ん。電話番号を張り出したSIMカード屋が軒を並べる。

 こうしたMVNOによるSIMカードの販売には、SIMフリーに対して2つの効果があります。まず、MVNO自体がSIMフリーの推進に積極的な姿勢をとっていることです。たとえば日本通信はプレスリリースにおいて、同社がSIMロック解除を求めていくことを独特の文体で主張(関連記事)しています。

 もうひとつは、日本のユーザーがSIMカードの扱いに慣れる、という点です。これまで一般ユーザーにとってのSIMカードとは、携帯電話の購入時に店員に入れてもらい、機種変更や解約時に店員に取り出してもらうものでした。しかしMVNOの登場により、ようやく日本のユーザーがSIMカードに直接“触れる”ことができるというわけです。

■SIMフリー版iPhoneの衝撃

 SIMフリー端末も徐々に増えてきました。たとえばASUS JAPANは、スマートフォンとタブレットを合体できる『PadFone 2』の発売に際して、「日本にSIMフリー端末を普及させたい」と展望を語っています。残念ながらPadFone 2がSIMフリー市場を大きく拡大したという印象はないものの、その後も同社はFonepadシリーズを国内向けにSIMフリーで販売しており、特設サイト(関連記事)ではSIMフリーとは何かを啓蒙する試み(関連記事)も行なっています。

2014年は“SIMフリー元年”になるか?
↑スマートフォンとタブレットを合体できる『PadFone 2』。SIMフリー市場の開拓を目指したが、やや時期尚早だった感がある。
2014年は“SIMフリー元年”になるか?
↑『Fonepad 7』、『Fonepad Note 6』など、ASUSは継続的にSIMフリーに取り組んでいる。

 スマートフォンについては、NexusシリーズがSIMフリーで販売されています。Nexus 4は日本での発売が遅れたためあまり盛り上がらなかったものの、Nexus 5はイー・モバイル版とGoogle Play版が同時発売。イー・モバイル版もSIMフリーとなっている点が嬉しいところです。

2014年は“SIMフリー元年”になるか?
↑Nexus 5。国内で使える最新のSIMフリーAndroid端末として、貴重な存在だ。

 さらに”SIMフリー業界”を震撼させたのが、11月22日に始まったアップルによるSIMフリー版iPhoneの販売です。キャリア版の発売から2ヵ月遅れではあるものの、オンラインのアップルストアからSIMフリー版のiPhone 5s/5cを購入できるようになりました。これは日本の“SIMフリー史”に残る出来事といってよいでしょう。

2014年は“SIMフリー元年”になるか?
↑海外では珍しくないが、アップルによるSIMフリーiPhoneの販売が日本でも始まった。

 ただし、キャリアを通さずにSIMフリー版のみを販売することは、依然として”無謀”な試みと考えられています。たとえばWindows Phone 8のように、日本で未発売の端末をSIMフリー版として発売してほしいという声は大きく、関係者も検討自体はしているようですが、リスクが大きすぎるため実現には至っていません。Nexus 5やiPhone 5s/5cの販売比率も、キャリア版の占める割合がかなり大きいものとみられます。

■日本のSIMフリー市場拡大に向けて

 日本ではSIMフリー端末にSIMカードを自由に抜き差しして利用できる環境が徐々に整いつつありますが、海外に目を向ければ、スマートフォンのみならず、タブレットやWi-Fiルーター、USBモデムなど、膨大な数のSIMフリー端末が存在しています。

 しかし海外端末を国内利用する上で避けて通れないのが、電波法の問題です。

 たとえば2020年に開催される東京オリンピックにおいて、海外からの訪問客が利用する端末の問題があります。現在では、“技適”を通っていない端末を国内で利用する場合、海外のSIMカードによるローミング状態となっていれば、電波法の定める“外国の無線局”に相当するため違法ではない、とされています。しかしこの状態でもWi-FiやBluetoothを有効にすることはグレーゾーンです。

2014年は“SIMフリー元年”になるか?
↑2012年にオリンピックが開催されたロンドン。ヒースロー空港には名物“SIM自販機”がある。

 今現在も、日本には多数の外国人観光客が来日しています。しかし日本のSIMカード事情は充実していると言いがたいのが現状です。日本通信は『VISITOR SIM』という海外からの訪問客をターゲットとしたSIMカードを販売していますが、動作保証端末は技適を通っている、NTTドコモ製端末が中心(関連記事)です。日本を訪れた外国人が技適を通っている端末を持っている可能性は低く、現状に即した状態とはいえないでしょう。

 たしかに電波法は、その条文にもあるように、“電波利用の公平性や効率性を確保することで誰もが電波を活用できるようにする”という理念があります。しかし携帯電話についていえば、一種の非関税障壁として機能しており、海外端末が日本市場に上陸するための大きなハードルとなっています。技術的な安全性を確保した上で、日本でも多様なSIMフリー端末を自由に使えるようになることを期待します。

山口健太さんのオフィシャルサイト
ななふぉ

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります