ほとんどのスマートフォンからタブレット、果てはパソコンまで、続々と標準搭載が進んでいる“NFC(Near Field Communication)”だが、一方でNFC技術を活用したサービスがまだまだ少ないのも事実。
そんなNFCを活用したアプリやサービスを集まったエンジニアらが開発する腕試しイベント『NFC HACKATHON Nov 2013』(外部サイト)が六本木で開催された。今回はその模様をお伝えする。なお、同イベントでは週刊アスキー9月10日増刊号の付録『NFCディスク』(関連記事)のスペシャルバージョンの配布が行なわれており、イベントで登場したサービスの一部はこのNFCディスクが活用されている。
■ハッカソンって何?
“ハッカソン(Hackathon)”とは、10年くらい前からオープン系開発者の間で流行っている開発系イベントの一種で、集まった者同士がチームを組んで共同開発を行い、その場でアプリやサービスを作り上げることを目的としている。開発時間は数時間くらいのこともあれば、数日に及ぶ耐久レースになることもあり、ハッカソンの語源も“ハッキング(Hacking)”+“マラソン(Marathon)”の造語からきている。短時間でプロジェクトを完了させるという腕自慢的な部分もあるが、一方でプログラミングスキルを持つ者以外が加わることでプロジェクトに幅が出たり、同好の士が集まることで情報交換ができたりと、交流の場という側面もある。また時間内にプロジェクトが完了しなくても、その反省を次に活かすことも可能だ。いずれにせよ、市場でまだNFC関連のサービスが少ない中、こうした草の根活動で底上げが行われていくというのは面白い現象だ。
今回のNFC Lab主催の『NFC HACKATHON Nov 2013』は2部構成となっており、チーム分けとアイデアの出し合いを行う“アイデアソン(Ideathon)”と、後半の開発フェイズである「ハッカソン」、そして結果発表までのトータル8時間ほどのスケジュールだ。純粋なエンジニアのみのチームもあるが、中にはプログラミング知識の少ないマーケティング関係の人もおり、これらをうまく配分してチームとして成り立つようにするのがポイントだ。アイデア出しが終わったところでいちどプレゼンを行ない、その後はタイムアップまで開発を続けて各々のチームがデモを行う。最後は全員の評価でどのチームが優勝かが決まり、持ち寄った商品を順番に持ち帰る形となる。
↑“アイデアソン(Ideathon)”では事前に行なったチーム分けを基に各チーム単位で企画をまとめ、このような感じでタブレット等にプレゼン用のアイデアスケッチを行ったりする。
↑作業風景。ちょうどお昼時だったので各自食事を持ち込み5時間ほど作業を続ける。
■実際にどんなサービスがハッカソンで作られたの?
ハッカソンで作られたサービスのひとつが“NFC受付システム”だ。主催者のひとりであるInuchin氏がイベント前に開発したシステムでは、あらかじめNFCタグに規定のデータを登録しておくことで、あとは当日そのタグを持ってきて同氏が用意したNFC対応タブレットにかざすだけでチェックインが完了する。ここで使うNFCタグは、週刊アスキーの付録『NFCディスク』でいい。ただし、今回のイベントでも利用されているイベント開催システム『Zusaar』(外部サイト)との連携がまだ行なわれていないとのことで、ここを改良するのが今回のテーマだったが、結局JSON形式のデータをうまく取り込めずに失敗している。もっとも主催者なので、ほとんど作業時間がとれなかった感じではあるのだが……。
↑NFC Hackathonの会場に来ると、NFCタグを使った受付システムがお出迎え。あらかじめ指定したデータを書き込んだタグを持ち込んでタブレットにかざすと、チェックインが完了する。
ふたつ目は“おまと名刺”という名刺交換をNFCで行うサービスだ。通常、NFCを使う名刺交換といえば端末同士を接触させてデータを交換させる形態が一般的だが、これは片方の端末をNFCタグを貼付した名刺で代用し、いかにも「“それっぽく”名刺交換」が行なわれているようにしている。メリットは名刺を実際に渡すわけではないのでエコなこと、そして名刺データ受け渡し用アプリを用意することで渡す情報の取捨選択が可能な点、さらにソーシャル連携が可能という点がポイントだ。練習的な側面があるものの、実際に短時間で動作可能なアプリが構築され、デモ中もひっきりなしにキャラクター“プロ生ちゃん(暮井慧)”(外部サイト)がアプリの中でしゃべるといった具合に、面白い出来となっている。なお、今回のイベントとコラボしているプロ生ちゃんは、ほかのチームのアプリにもイラストで登場していたりする。
↑ハッカソンで開発したNFCアプリを実演デモを交えてプレゼンテーション。これは“おまと名刺”というアプリで、名刺に仕込んだNFCタグで情報を受け渡す仕組み。紙を渡さずに済むというエコな発想と、受け取った側の情報登録の手間を省き、さらに送信する情報の指定やソーシャル連携がポイント。
3つ目のチームは“伝言板”アプリを作成している。これはNFCタグを介して端末にインストールされたアプリ同士でメッセージ交換を行なうアプリで、“ケンカ中や仲直りのきっかけが見出せない夫婦や恋人同士がサイレントコミュニケーションを行うツール”ということだ。仕組みは単純で、先ほどのプロ生ちゃんで“喜怒哀楽”を表現したイラストアイコンを複数用意し、メッセージ登録の際にはこれを1点選択してショートメッセージをNFCタグに書き込むというものだ。あとは相手がメッセージの登録されたNFCタグにタッチすれば、その内容を読むことができる。完成度の高さもさることながら、実際のデモ時の寸劇がおもしろく会場を沸かせている。
↑寸劇風景が楽しい“伝言板”アプリ。あらかじめ登録された表情豊かなキャラアイコンとショートメッセージを登録でき、NFCタグを通して相手側の端末のアプリにその内容を送信する。無言のメッセージ交換ということで、冷蔵庫に取り付けたタグを使って通信を行うことがアイデアソンのラフスケッチでも紹介されていたが、会場に冷蔵庫はないので、冷蔵庫のイラストを描いたタブレットにタグを取り付けてデモを行っている。
4つ目は“NFC占い”のサービスだ。“女子高生が使えて楽しいNFC的なAndroidアプリ”を表題に“NFCタグを読み取って相手との相性診断を行なう”というものだが、実際の結果は乱数で、相性診断を処理するクラウド上のサーバシステムと、占いのイラストカードを複数登録してNFCタグを読み取り結果を表示するAndroidアプリの組み合わせがポイントとなる。バックエンドの実装とアプリの作り込み自体は進んでいたものの、結果的に両者の連携がうまくいかず完成しなかった。ただ、漫画のイラストを交えたプレゼンで未完成ながらも場を楽しませた点を評価したい。
↑NFC占いのアプリ。バックエンドのクラウド上で動かすシステムやアプリの画面デザインなどはできていたものの、肝心の両者の連携がうまくいかずにタイムアップで完成を断念。なのでプレゼンでは使う予定だったイラストカードをまとめて紹介。
最終的に、結果発表では完成度の高さから満場一致で3つめの“伝言板”アプリが優勝となったが、プロジェクト自体は未完成でもプログラミングやコラボレーションの練習になった点ですべての参加者にメリットをもたらしたはずだ。また、Android開発未経験のメンバーがほとんどというチームもあり、それでもうまくチーム作業を分担できた点は評価したい。最後はイベント参加者のひとりである日本マイクロソフトの太田寛氏が11月11日に開催される『Win8.1+周辺機器連携ミニハッカソン』(外部サイト)イベントを紹介してNFC Hackathonは終了した。
↑日本マイクロソフトの太田寛氏は同社主催の“Win8.1+周辺機器連携”をメイントピックにしたミニハッカソンイベントを紹介。
ハッカソン系のイベントに初めて参加した筆者の個人的感想だが、高度なサービスやアプリを開発するのではなく、プログラミングにとらわれないさまざまなスキルを持つ者同士が集まって意見を出し合い、プロジェクトを進めていく過程は非常におもしろいと思った。とくにNFCやプログラムに関する知識は皆一様ではないため、“できること・できないこと”の判断や意外なアイデア登場まで、広く考える場になると思うからだ。NFC業界の関係者は以前、「NFCの3つの動作モードのうち、お金に結びつけやすい“カードエミュレーション”に比べ、“カードリーダー・ライター”や“P2P”は企業や団体が参入をためらう節がある」と述べていた。NFCの盛り上げという意味で、後者2つのモードを活用したサービスは草の根運動によってこそ底上げされるべきなのかもしれない。
↑ハッカソン終了後はピザとドリンクの打ち上げパーティ。こうした風景はハッカソンではお馴染みのもの。
●関連サイト
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