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TrueAudioとMantle~RADEON R9/R7がPCゲームの在り様を変える(笠原一輝氏寄稿)

2013年09月27日 15時15分更新

AMD GPU14 TECH DAY

 AMDはその開発コードネームであるHawaii(ハワイ)にちなみ、新しいGPUのお披露目イベント(AMD GPU14 TECH DAY)をアメリカ合衆国ハワイ州オアフ島において開催した。新しいGPUのブランド名はRADEON R9シリーズ、RADEON R7シリーズと、従来のRADEON HDからブランド名に若干変更が加えられている。RADEON R9シリーズの特徴は、RADEON HD7000シリーズで導入されたGCNアーキテクチャーの延長線上にありながら、新しくDirectX11.2に対応したり、電力効率の改善が図られている点だ。

 さらに、RADEON R7/R9シリーズでは完全な新機能の追加も行なわれている。それがTrueAudioと呼ばれるオーディオ機能と、開発コードネーム“Mantle”と呼ばれる新しいプログラミングモデルを導入するという2つの機能だ。これらの機能は、PCゲームユーザーにとっては実に注目の新機能なのだ。

GCNアーキテクチャーの改良版、DirectX11.2に新たに対応したRADEON R9シリーズ

 今回AMDが発表したRADEON R9シリーズ、RADEON R7シリーズには複数のラインアップが用意されている。今回のAMDのイベントで明らかになったのは、以下のラインアップ。

★RADEON R9シリーズ(メモリー/市場予想価格(米ドル)/3DMARK FIRE STRIKEのスコアー)

RADEON R9 290X (4GB/未公表/7000以上)
RADEON R9 290(未公表/未公表/未公表)
RADEON R9 280X(3GB/299ドル/6800以上)
RADEON R9 270X(2GB/199ドル/5500以上)

★RADEON R7シリーズ(メモリー/市場予想価格(米ドル)/3DMARK FIRE STRIKEのスコアー)

RADEON R7 260X(2GB/139ドル/3700以上)
RADEON R7 250(1GB/89ドル/2000以上)

 今回AMDが公表したRADEON R9/R7シリーズの詳細はここまでで、より詳しいスペック(それぞれの演算器の数やクロック周波数など)に関しては発表されなかった。性能に関しては、3DMARK FIRE STRIKEのターゲットスコアーが発表された程度で、こちらも発表はなかった。

 わかったのは、最上位モデルとなるRADEON R9 290Xの演算性能が5TFLOPSになっていることで、メモリーの帯域幅が300GB/秒以上だということのほか、いずれの製品もシングルGPUであること。AMDは通常、まずシングルGPUの製品を発表したあと、追加のSKUとしてデュアルGPUのグラボを発表したりすることがあるので、将来的にはそうした製品がより上位の製品として追加されるという可能性はあるだろう(現時点ではAMDはそのことにはなにも言及していない)。

 気になるグラフィックスコアのアーキテクチャーだが、今回は詳細は非公表。今後予想される正式発表時に詳細が明かされることになる。現時点でわかっていることは、最上位モデルとなるRADEON R9 290シリーズは、GCNアーキテクチャー(RADEON HD7000シリーズ世代で導入されたアーキテクチャー)の延長線上にある改良版で、内部の構造などに改良を加えたことで電力あたりの性能が改善されているほか、DirectX11.2に新たに対応している。DirectX11.2の新機能はすでにMicrosoftにより明らかにされているが、いくつかの機能で新しいハードウェアが必要になるため、そうした機能が追加されていると考えることができる。

AMD GPU14 TECH DAY
↑AMDが発表したRADEON R9 290Xのビデオカード(手前)とGPU(奥)。
AMD GPU14 TECH DAY
↑AMDの新しいGPUはRADEON R9シリーズとRADEON R7シリーズ。
AMD GPU14 TECH DAY
↑3DMARK FIRE STRIKEのスコアー。
AMD GPU14 TECH DAY
↑最上位のRADEON R9 290Xは5TFLOPSの演算性能を備える。RADEON HD4800シリーズで1TFLOPSを超えたのは5年前の2008年なのだが、月日が経つのは早いものだ……。

PCゲームのオーディオ環境を劇的に改善するTrueAudioの機能

 AMDが発表したTrueAudio(トゥルーオーディオ)は、これまでCPUを利用して演算していたオーディオの処理を、GPUを利用して行なうための仕組みだ。

 よく知られているように、現在のAMD製GPUにはHDMIやDisplayPortなどを利用してスピーカーを内蔵しているテレビや液晶ディスプレーに接続する際にオーディオを出力するためのオーディオコントローラーを内蔵している。そうした意味では、別に新しくないのだが、従来方式とTrueAudioで決定的に違っている点がある。それはソフトウェアを利用してオーディオ処理を行なう場合、演算を“どこ”でやるかだ。

 現在の方式だと、オーディオコントローラーがGPUの内部にあったとしても、実際にオーディオの処理を演算しているのは実はCPUなのだ。このため、例えばゲームをやっていて、遠くで鳴っている音、近くで鳴っている音と複数の音があった場合、CPUが距離などを演算してオーディオコントローラーに対してこのボリュームで鳴らせと指示を出している。こうしてCPUに演算をさせると、もちろんCPU負荷が高まることになるので、CPUに物理演算をさせたい場合にも、オーディオの処理にCPUの処理能力が占有され、結果システム全体の性能が低下する可能性がある。

 もちろん、現在のオーディオ処理はCPUに多大な負荷がかかっているわけではなく、おそらく一桁台程度の負荷率だと思うが、それでも今後より複雑なオーディオ処理をやらせようと思うと、CPU負荷率がどんどん上がっていくことになる。例えば、将来的に現在の5.1チャネルや7.1チャネルなどではなく、仮想的に数百チャネルを用意してそれを演算で鳴らし、それをダウンミックスしてヘッドフォンに流すなどの処理を行なうようになると考えた場合、CPUへの負荷はすさまじいことになるだろう。

 そこで、AMDが導入したのがTrueAudioだ。TrueAudioでは専用のDSPのようなモノをGPUの内部に用意する。ソフトウェアはその演算器を利用して、オーディオの処理を行なう。これをうまく活用すれば、CPU、GPUに負荷をかけることなく、これまでとは比較にならないほどリアルなオーディオ処理が可能になるだろう。今回AMDはイベント会場内に7.1chのスピーカーを設置し、来場者の周囲360度からさまざまな音が聞こえてくる様子をGPUを利用してリアルタイムで演算して再現してみせた。今後PCゲームでそうした機能が利用できるようになれば、例えばFPSゲームをしているときに、敵が来ている方向からの足跡がどんどん大きくなるとか、そうした活用法が考えられるだろう。つまり、今後PCゲームはビジュアルだけではなく、オーディオもどんどんリアルになっていくということだ。

AMD GPU14 TECH DAY
↑TrueAudioはGPUを利用してプログラマブルなオーディオ処理を行なうことができる。
AMD GPU14 TECH DAY
↑TrueAudioを利用すると、演算するチャネル数を飛躍的に増やすことができる。スピーカーがそれだけ必要ということではなく、実際にはダウンミックスして出力することになる。
AMD GPU14 TECH DAY
↑左が現在利用されている方式、この場合はCPUに負荷がかかる。中央が、専用のDSPを利用した場合で、プログラマブルに利用することができない。右がTrueAudioの仕組みで、ソフトウェアからプログラマブルに利用でき、CPUに負荷がかからない。

DirectXを置き換えてハードウェアにダイレクトにアクセスするMantle、性能アップ実現か?

 そしてRADEON R9/R7シリーズでもうひとつ対応する新機能がMantle(マントル、開発コードネーム)だ。Mantleとは惑星の内部構造のことを意味しており、核の周辺にあって地殻との中間にある層のことを意味している。AMDがこれをMantleと名付けたのは、GPU(核)とPCゲーム(地殻)との間にあって、それを仲介する層という意味を込めていると考えられる。

 Mantleとは、非常にざっくり言ってしまえば、DirectXの置き換えだ。よく知られているように、DirectX(厳密に言えば、GPUが利用しているのはDirect3D)は、MicrosoftがWindowsに向けて用意しているミドルウェアで、GPUをソフトウェアレイヤーからは仮想化することでどのGPUでも同じソフトウェアが利用できるようにする仕組みだ。MantleはそれをAMD独自のミドルウェアに置き換えることで、DirectXが持っているオーバーヘッドを回避することができるようになる。これにより、ゲームベンダーはAMDのGPUによりダイレクトにアクセスすることが可能になり、かつAMDによれば、AMDのAPUを採用しているXbox OneやPlayStation 4向けに書いたゲームをPCゲームへと書き換えることがDirectX向けに書き換えるよりも容易になるということだった。

 ただ、もちろん、MantleをサポートするのはAMDのGPUだけ(かつGCN対応のGPUのみ)になるので、ゲームベンダーとしてはMantle版だけを用意するというのは、NVIDIAやIntelのGPUでプレイしているユーザーを切り捨てることになるのでできない相談だろう。このため、ゲーム開発者としては、DirectX版を用意して、かつオプションとしてMantle版を用意するという形になるのではないだろうか。しかし、すでに述べた通り、性能面ではメリットがあると考えることができるので、仮に両方のバージョン(DirectX版とMantle版)が用意されているようであれば、Mantle版でプレイしたほうが高い性能でプレイできる可能性が高い。その意味で、PCゲームユーザーで、特に性能にこだわりたいユーザーであればMantleは要注目だと言えるだろう。

 なお、AMDは現時点ではMantleの詳細を明らかにしていないが、11月に米国カリフォルニア州サンノゼで開催する予定のAMD Developer Summit(APU13)において詳細が明らかにされる予定だ。

AMD GPU14 TECH DAY
↑AMDのMantleの仕組み。ざっくり言ってしまえば、DirectXを置き換える仕組み。それによりGPUにダイレクトにアクセスでき、DirectXの抱えるオーバーヘッドを回避できるので、性能が向上する可能性がある。
AMD GPU14 TECH DAY
↑Mantleの詳細は、11月に行なわれるAMD Developer Summitで明らかになる予定。
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