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ヤマザキマリのスティーブ・ジョブズ漫画はApple通が読んでも面白い?|Mac

2013年08月21日 15時00分更新

 「テルマエ・ロマエ」のヤマザキマリ先生による漫画「スティーブ・ジョブズ」の1巻が発売になりました。以前、新連載開始直後に長編インタビューをお願いし、どんな心境で挑むのか、ウォルター・アイザックソン氏の伝記という原作がある中でどのように展開するのか、なぜ少女漫画誌「Kiss」(講談社刊)なのか、といったことをお聞きしました(関連記事

 そこで今回は、Appleの歴史に精通するベテランのテクニカルライターから見て、漫画「スティーブ・ジョブズ」はどうなのか? 果たして面白いのか? 読書感想文を書いてもらいました。

テクニカルライター 柴田文彦氏

「MacPeople」で「OS X&iOSアプリ開発道場」、「時事放言」を連載中。Appleの歴史をはじめMac OS、プログラミングなど技術全般に詳しい。著書に「MacOS進化の系譜―パーソナルコンピュータを創ったOSの足跡」、「Xcode 4 入門 for iOS/Mac OS X」、「Objective-C プログラマーズバイブル」、「Mac OS X 実践活用大全 Mac OS X 10.6 Snow Leopard対応版」など。「開運!なんでも鑑定団」(テレビ東京)でスティーブ・ジョブズのサイン色紙の鑑定を行ったこともある

■Apple以前のジョブズを知るのにピッタリの1冊

 スティーブ・ジョブズに関する話題は、衰えることを知らないかのようだ。本国アメリカでは、没後2年近く経ったいま伝記映画が公開され、話題を集めている(国内では11月1日公開予定)。そして日本では本書が登場した。

 本書は、ウォルター・アイザックソンによるスティーブ・ジョブズの伝記を原作として、「テルマエ・ロマエ」で有名なヤマザキマリが、かなり忠実に、そしてある種の思い入れを持って漫画化したもの(以前の週アスPLUSのインタビューや、あとがき代わりのインタビューにもそんな感じのエピソードが書いてある)少女漫画の月刊誌「Kiss」に連載されているものをコミック化した第1巻だ。コミック化以前は、特に男性だと、読みたくてもなかなか読む機会がなかったという人が多いのではないか。これで電車の中でも大手を振って読めるようになった意義は大きい。いや、本当に社会的な意義が大きいと思う。

 原作の伝記同様、古いほうから時代を追って描かれているので、第1巻はジョブズの生い立ちから、インドに放浪の旅に出たあたりまでだ。かろうじて、後にAppleを共同で設立することになる盟友ウォズニアクとの出会いは描かれるが、まだAppleのアの字も出てこない。完全にApple以前の時代だけをカバーする。

 それだけに、本書を実際に読んでみる前は、人ごとながら心配だった。Apple以前のジョブズしか出てこない第1巻が、果たしてどれだけの魅力を持つことができるのかと。しかし実際に読んでみると、そんな心配は杞憂であることがわかった。というよりも、心配していたことなど忘れて楽しめた。Apple以前だからこそ面白い、という要素もいろいろと仕込まれているからだ。

 昔からジョブズやAppleを知っていて、折に触れて雑誌の記事や書物を読んできたという人も少なくないだろう。ただ、そうした記事や書物は、主にApple以後のことを扱っているものが圧倒的に多い。それ以前は、せいぜいウォズとの出会いや、二人がメンバーだったホームブリューコンピュータークラブのエピソードあたりからをカバーしている程度だ。もちろんアイザックソンの伝記を読んだ人はジョブズの生い立ちから読み始めることになるのだが、これまでその伝記を除けば、Apple以前のジョブズを知る機会は、意外に少なかったことになる。その空白の時代、といっては大げさだが、これまであまり描かれてこなかった時代を知るための手軽な手段が登場した。それがこの漫画の第1巻だ。

■想像でしかなかったイメージを漫画が補強する

 もちろん、すでにアイザックソンの伝記を隅から隅まで読んで、内容を諳んじているような人に、本書を勧める理由は乏しいかもしれない。ただし、そういった人でも、また昔からジョブズやウォズに関する記事や書物を読んできたという人にとっても、本書の描写に違和感を覚えることは少ないだろう。これまで、各人が頭の中に長年かけて形成してきたイメージ、伝記を読んで想像していたシーンのイメージが、コマ割りされた漫画のという制約の多い表現に、素直に落とし込まれていると感じられる部分も多いはずだ。特にジョブズやウォズの若い頃の顔の表情を知る人は少ないはずだし、作者も想像で描いたはずなのだが、さもありなんと自然に納得できるのは、ある種の驚きですらある。これまで何となく頭の中に描いていたイメージが、本書によって補強できるのは確かだろう。

 本書には、Apple以前のジョブズやウォズを描くのに不可欠な小物「ブルーボックス」や、それより古い「ヒースキット」なども登場する。コンピューターの歴史からすれば先史時代に属するような「遺物」も、かなりていねいに描かれている。よほどのマニアでなければ、突っ込みを入れるような異同は発見できないだろう。そもそも、そうしたものを実際に見たことがある人はそう多くないはずだ。これまでに写真さえも見たことがなかったという人も、本書の絵を見て記憶に焼き付けておけば、それでまず間違いはない。

■本書によってジョブズの伝道師になる

 アイザックソンによるジョブズの伝記を読んで感動し、友だちやパートナーなどにも読ませたいと思った人も少なくないかもしれない。しかし、特に日本語版では上下2巻に分かれた活字だらけの分厚い伝記本を人に勧めるのは気が引けて、躊躇した人もいるはずだ。あるいは実際に人に勧めてはみたものの、敬遠されてしまったとか、せっかく貸したのに読まれた形跡がない、などと嘆いている人はいないだろうか。

 本書は、そういう人のためにあるようなものだ。誰かに「人間ジョブズ」に興味を持ってもらいたかったら、まず本書を手渡して読んでもらうのがもっとも手軽で、説得力もある方法だろう。それで興味を持ってもらえばしめたもの。あとは原書の伝記を読んでもらうなり、本書の第2巻を待つなり、「Kiss」の読者になるなりすればいい。もちろんその誰かが自分自身でもいい。

 それはともかくとして、本書の続編はいまから楽しみだ。本書のシリーズが、伝記全体を何巻に分けて表現することになるのかはわからないが、はっきり言って取っ付きにくい分厚い伝記に風穴を開け、より多くの、より幅広い読者を獲得できることは間違いないだろう。最初に書いたように、それは社会的にも意義の大きなことだと信じる。

スティーブ・ジョブズ
早くもiBooks版も販売中。iPadで読める

以前のインタビューで、ヤマザキマリ先生から「MacPeople」読者に向けていただいたメッセージ

 原作本や映像では表現できない、漫画ならではのジョブズというものがあると思います。これは、私が描きたいというより、「ジョブズが見たらどう思うだろう」という中で描いている作品です。もちろん、敬意を払いながら、彼がやってきたことに対してリスペクトを持って描いています。
 だから、Mac好きなみなさんの反応というのは、いちばん気になるところではありますね。この漫画を読んで、ジョブズという人間の新たな見方が出てくると私はうれしいです。いちばんの読者になるのは、Appleやジョブズが好きな人たちなので……。それに、我が家にひとり、うるさい人がいますからね(笑)。

インタビューの全編はこちらからどうぞ

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スティーブ・ジョブズ I - Walter Isaacson & 井口耕二

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■関連サイト
講談社Kiss公式サイト

■映画「スティーブ・ジョブズ」関連サイト
映画公式サイト
新予告編(YouTube)

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