Surface RTの7月14日までの期間限定・1万円値下げキャンペーンについて、日本マイクロソフトは値下げしたキャンペーン価格がそのまま新たな希望小売価格となるよう、価格改定を発表しました。
↑32GB版3万9800円のキャンペーン価格がそのまま希望小売価格になった。 |
今回は、この値下げの背景にどのような理由があるのか、考えてみたいと思います。
■海外でも値下げを発表
Surface RTの値下げは、日本に限った動きではありません。たとえば米国では6月に“Surface RTを購入するとタッチカバーが1枚ついてくる”キャンペーンを展開していました。タッチカバーの価格は約1万円のため、実質的に1万円の値引きを実施していたと言えます。
その後、米国では本体価格を150ドル引き下げることを正式に発表。32GB版は499ドルから349ドルに、64GB版は599ドルから449ドルに、それぞれ値下げされました。世界各国でもこの動きに追従しており、イギリスでは120ポンド、ドイツでは150ユーロなど、各国で値下げが行なわれました。
↑イギリスでは32GB版が20%の消費税込みで279ポンドになった。 |
■値下げにより売り上げでiPadを上回った
Surface RTの値下げキャンペーン開始時に日本マイクロソフトは、値下げの理由を「iPadに対抗するため」と説明していました。発表時の記者会見でも、9.7インチのRetinaディスプレイモデルやiPad miniと直接的に価格を比較。iPadは為替レートの変動に伴い“値上げ”に踏み切った直後だったこともあり、Surface RTの値下げがより際立つことになりました。
↑Surface RTの位置付けはiPad対抗。 |
Surface RTの値下げ後、その効果は確実に現われています。日本マイクロソフトが量販店チャネルから得た売り上げデータによれば、4週間連続でiPadを上回ったとのことです。
やや気になるのは、Surface RTの売り上げが市場全体でiPadを上回ったのかどうかまではわからないという点です。iPadは、Surface RTが売られている家電量販店以外にも、アップルストアや携帯キャリア経由の販売量も大きいと見られるためです。
とはいえ、iPadとSurface RTを両方販売するような現場でSurface RTが上回ったことは事実であり、十分に健闘しているといってよいでしょう。このことから、価格が安ければ、Surface RTは十分にiPadに対抗できるものと考えられます。Surfaceの恒久的な値下げにあたっては、この勢いを継続したいという日本マイクロソフトの狙いが感じ取れます。
■価格以外でiPadに対抗するには?
逆に言えば、もし両者が同じ価格だったとしたら、Surface RTはiPadに対抗できるかどうか微妙な存在とも言えます。
たしかにSurface RTにはiPadにない魅力がいくつもあります。USBメモリーやマイクロSDからファイルをコピーし、加工して送信する、といった基本的なタスクも、iPadでは困難です。OfficeドキュメントをメールやSkyDriveを経由して編集しながらやり取りする、といったタスクでも、Surface RTはPC並みに利用できます。
Windows8タブレットをiPadと比較したマイクロソフトのCMにおいても、これらの点は強烈にアピールされています。
Windows 8: Less talking, more doing
↑iPadとWindows8タブレットの比較CM。
日本マイクロソフトでは、「従来のタブレットでは、思ったよりも“できないこと”が多い、という声をよく聞く」として、Surface RTならストアアプリによるタブレット利用と、OfficeやキーボードによるPC利用を1台で両立できるとアピールしています。
しかし一般ユーザーから見れば、Surface RTもまた、“できないこと”の多いタブレットと言えるのではないでしょうか。
見た目に反してWindows RTでは、Windowsのデスクトップアプリは動作しません。周辺機器の動作も限られています。3G/LTE通信に対応したモデルがないうえに、ユーティリティーを必要とするUSBモデムも動作せず、モバイルで使いたいタブレットにも関わらず通信機能に貧弱さを感じます。
↑WiFiが通りにくいイベント会場などで便利なUSB接続の4Gモデムも、Surface RTでは使えなかった。 |
仕事でも個人でも活用できるというSurface RTですが、「自宅で使うタブレットでは仕事のことを思い出したくない」という声も聞きます。仕事ではWindows PCを使っているが、家ではiPadだけ、というユーザーも少なくないでしょう。
日本で人気のエンタメ系アプリやゲームがストアに充実していれば、そういった用途もカバーできるはずです。しかし現状では“パズドラ”も“なめこ”もLINEゲームもないのが寂しいところです。
■Surface RTならではの価値とは
最近、海外取材が続いている筆者は、毎回のように空港で「カバンにiPadは入っていないか?」と聞かれます。本来であれば「タブレットは入っていないか?」と聞くべきところですが、多くの人がiPadを持っているので、こう聞いたほうが早いのでしょう。
なによりiPadは、“誰もがほしいガジェット”という良好なブランドイメージを確立しているように思われます。様々な懸賞における景品としてiPadが用いられているように、iPadはちょっと気の利いたプレゼントとして定番の存在になっています。
こうしたブランドイメージの違いを踏まえた上で、前述のiPadとWindows8の比較CMを見てみると、また異なる印象を受けるかもしれません。
まずは手に取ってもらうために、興味を持ってもらうために、値下げは効果的な施策と言えます。実際に、WPC会場限定で行なわれた99ドルでの特売には、長蛇の列ができました。
↑WPC会場でSurface RTを99ドルで買うために長蛇の列ができた。 |
しかしその副作用として、「もっと安くなるまで待つ」、「99ドルなら買う」といった、さらなる値下げを期待するユーザーが増えてしまった印象も受けます。
本質的にiPadに対抗するには、値下げだけでなく、Surface RTならではの価値を訴えていくことが必要になるでしょう。
山口健太さんのオフィシャルサイト
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