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ドコモ・au・ソフトバンク、決算発表で見えた通信サービスと次期iPhone戦略【石川温氏 寄稿】

2013年05月03日 13時30分更新

 ドコモやau、ソフトバンクの2012年度決算説明会が4月末に実施された。各社の業績、契約者数などが明らかになり、2013年度に向けてのサービス展開についての方針が見えてきた。そこで、石川温氏に各社の課題と展望を解説してもらいました。

NTTドコモ

<2012年度>
営業収益 4兆4701億円(前年度比5.4%増)
営業利益 8372億円(同4.3%減)

ドコモ 加藤社長

●MNPの転出抑止対策にiPhoneの取り扱いはあるのか
 最近のドコモというと、iPhoneがなく、MNPで「一人負け」しているという印象が強い。しかし、決算の数字を見れば好調さを維持している。その理由は、ケータイからスマホへのシフト、さらにはFOMAからXiへの乗り換え需要が旺盛であるためだ。実際、ドコモのスマホ端末販売台数は1329万台で前年度比が50.7%増、Xiの契約数も1157万件と前年度比5.2倍増となっている。

 このような数字を受けて、2013年度は、さらにスマホとXiによる成長が見込まれる。同社の加藤薫社長は「2013年度はスマホの販売台数は1600万台、Xi契約者数を2.2倍の2500万契約を目指す」と説明。2012年度は販売した端末の3分の2がスマートフォンであったが、2013年度は4分の3がスマホユーザーになっていくと予測している。ケータイからスマホにシフトすれば、それだけパケット収入の増加が見込めるということだ。

 とはいえ、端末販売台数で好調なドコモの成長において足を引っ張っているのが「MNP」だ。加藤社長はiPhone5の強さを認めたうえで、「MNPの転出抑止に充分な効果が得られておらず、純増数獲得では苦戦している」と、今後の課題が転出問題であることを認識。「今年2月に発売した春モデルにおけるイチオシ機種や販売施策の効果もできており、競争力回復の兆しが見えつつある。MNPで突然、プラスになるとは考えにくいが、夏モデルでは改善を見込んでいる」と、できる限りの対応策を講じていく予定だ。

 MNP転出対策のひとつとして、毎回期待されるのがiPhoneの取り扱いである。今回、その質問に対し「日本市場において魅力的な端末であることは間違いない。しかし、ドコモは自らプロバイダーとしてスマートライフのパートナーになっていく。その点を踏まえて検討している。従来と違った情報はない」とした。山田前社長のときから「iPhoneはドコモの独自サービスを提供できないので、導入しづらい」というコメントを貫いていたが、現状でもそのスタンスに変わりはないようだ。
 

●アマゾンになりたいドコモの本気
 KDDIやソフトバンクとの競争が激化するなか、ドコモはエリアやサービス面において他社より優位に立とうと必死だ。

 エリアに関しては、Xi基地局数を1年前倒しして倍増させていく。75Mbps対応基地局は今年6月までに1万5000局開設予定(当初計画では1万局だった)。112.5Mbpsエリアも100都市に拡大(当初計画は52都市)する。また、今年度中には150Mbpsサービスも開始する予定だ。

 サービス面においても、5月中旬から「ドコモサービスパック」を開始。約100コンテンツが使い放題になる「スゴ得コンテンツ」だけでなく、iコンシェルやクラウドの増量サービスをまとめて月額525円で提供する。KDDIの「auスマートパス」が絶好調であるが、それに対抗するサービスとして投入していく構えだ。

 これらの計画で他社にキャッチアップしていくなか、ドコモ独自のサービスとして差別化を狙うのが「ウェルネス(健康)」だ。健康機器などから得られたヘルスケアデータを管理できるだけなく、らでぃっしゅぼーやなどの健康食材、さらには保険サービス、通販による健康機器販売を連携させることで、ユーザーの健康をサポートしていくという。今年6月に「カラダのキモチ」、2013年冬には「からだケアエージェント(仮称)」といったサービスを提供することで、ドコモらしさを出していく。

ドコモ 健康支援サービス「わたしムーブ」

 ドコモとしては、中長期的な計画として「スマートライフのパートナーへ」という方針を掲げている。ユーザーに対し、膨大な情報から適切な情報を適切なタイミングで提供し、生活を支援するという世界観を目指しているようだ。
 そのため、ドコモ自らがサービスを提供するだけでなく、そのサービスをさまざまなネットワークや、あらゆるデバイスでも使えるように環境を整備していくという。

 ドコモという、巨大な利益を生み出し、優秀な人材のそろうメガキャリアがサービスにも積極的に進出することで、あらゆる業界にとって影響を与えることは間違いないだろう。加藤社長はかつて「Amazonになる」と明言し、本気でスマホを使った通信販売に乗り出すと宣言した。すでにdマーケットでは、日用雑貨や野菜が買えるようになっている。さらに「マガシーク」といったアパレル通販会社も買収したことで、利便性はさらに増すはずだ。

 巨人・ドコモが通信分野だけでなく、他の業界に乗り込むことで、既存の会社などが脅威に感じているのは間違いない。その影響は通販、ソーシャルゲーム、健康、医療、保険、金融、教育、メディアなど多岐にわたる。
 過去のドコモを見ていると、さまざまな会社と合弁や事業提携を行ない、他の分野に進出したものの、成功したビジネスモデルというのは本当に数が少ない。かつて「脅威」に感じた、ドコモのチャレンジがいくつもあったが、振り返ってみれば「肩すかし」で終わることが多かった。他業界に進出したところで、どうしても不慣れなせいか、ドコモとのシナジーを出せずに終わるケースばかりであった。
 しかし、ドコモでは6月から「スマートライフビジネス本部」という部署を立ち上げ、本格的にさまざまなビジネスを開拓していく。この本部が、どこまで「本気」で新たなビジネスモデルを生み出していけるのか。スマートライフビジネス本部が、ドコモの新たな成長のカギを握っているといっても過言ではないだろう。
 

au

<2012年度>
営業収益 3兆6623億円(前年度比2.5%増)
営業利益 5126億円(同7.3%増)

au 田中社長

●好調なスマートバリュー、スマートパス
 同社の田中社長は「2012年度は成長期点の1年となった。営業収益、営業利益、EBITAマージン(※収益性の指標のひとつ)が過去最高を更新。(マルチユース、マルチネットワーク、マルチデバイスの実現を目指した)3M戦略による競争優位性を確立できた」と語った。

 KDDIが好調な原因のひとつに挙げられるのが「auスマートバリュー」だ。auの契約数は386万件、固定は212万契約件となり、期初予想に対してそれぞれ76万契約増、57万契約増。スマートフォンの新規契約者のうち、39%がauスマートバリューを契約しており。また、auひかりの新規契約者も55%がauスマートバリューを契約しているという。auスマートバリューが契約できる固定回線は、FTTHで5社、CATVで106社189局、世帯カバー率は約80%にまで拡大している。

 auスマートバリュー目当てで、auに加入する契約者が増えたことで、MNP純増数は2011年10月より18ヵ月連続で首位を獲得。2012年度は101万件のMNP純増数となった。また、解約率も0.67%で業界最低水準をキープしていることがアピールされた。

 一方、アプリが使い放題となるauスマートパスも574万件の契約を達成。期初予測は500万件の契約数であったことから、こちらも好調だ。田中社長は「3月は、スマホ購入者の約9割がauスマートパスを契約するなど、スマートフォンのデフォルトサービスになった」と語った。しかし、最近、店頭では端末を購入するうえでauスマートパス契約を必須としているところもあるため、この9割という数字は、現場の相当な努力の成果と見ることができる。

au スマートパス

●次期iPhoneは800MHz LTEか
 エリア展開に関しては800MHz帯の4G LTEにおいて実人口カバー率96.4%を達成し、2014年3月末までにはカバー率99%を目指すという。iPhoneで利用する2GHz帯のLTEエリアのカバー率については「公表しない」(田中社長)というスタンスだ。

 田中社長としては、800MHzは全国でつながることを重視し、2GHzはトラフィックが集中するところに重点的に打っていくとし、「今後、発表する端末のことを考えても、この考え方で間違いない」(田中社長)と語る。

 この考え方から推測するに、おそらく秋以降に発売される新型iPhoneについては、800MHzのLTEに対応する可能性が高そうだ。現行のiPhone5は対応できないが、新型であれば、地方は800MHz、都心部は2GHzのLTEに接続すると思われる。あえて、いま2GHzのエリアを公開しないのは「いずれ、2GHzも800MHzも関係なくなる」のではないだろうか。

 KDDIが狙う次のステージは、本格的な利益拡大への道だ。auスマートバリューの契約者を増やすことで、顧客基盤を拡大。さらにスマートパスをベースに「うたパス」や「ビデオパス」、「ブックパス」を訴求することで、ARPU(加入者ひとりあたりの月間売上高)を上げていく。また、アジアでは「データセンターやクラウドなどのグローバルICT事業と、新興国での新事業やMVNOを展開」(田中社長)するなどのグローバル戦略を推進させていくという。
 

●本業の通信事業で活路を開く
 NTTドコモが通信販売事業や健康サポートなどの新規分野の開拓に積極的な一方で、ソフトバンクは米Sprint社を買収し、アメリカ市場に活路を見いだそうとしている。そんななか、KDDIは、本業である通信事業から軸足がぶれることなく、新たな成長軸を描こうとしている。他社ではまねできない携帯電話と固定回線を組み合わせる「auスマートバリュー」はまだまだ顧客を開拓できる余地があり、充分に競争力のある商品と言える。
 auスマートパスに関しては、契約者数の増加ペースは好調で、ARPUの向上にもつながっているが、その先にあるビデオや音楽、書籍などの新たな付加サービスまで契約させられるかが、今後の課題と言えそうだ。

 経営的な数字は好調だが、一方で気がかりなのがネットワークの品質だ。年末年始に大規模な障害を起こしただけでなく、4月16〜19日にかけてはiPhoneなどのメール障害、さらに27日にもLTE通信障害を起こしており、KDDIへのユーザーからの信頼が揺らぎつつある。記者会見の冒頭、田中孝司社長は度重なる障害について謝罪した。

 27日のLTE通信障害はソフトウェアのバグが原因で、田中社長は「相次ぐ障害は独立した事象であるが、外からみれば、連続して発生していることを疑問に思うはずだ。私自身が先頭に立って再チェックし、ソフトウェア品質の改善、復旧時間の最短化、障害への対応力、設備の分散収容化に向けた設備投資を前倒しすることで、経営の最重要課題として信頼回復に努めたい」と語った。

 ソフトバンクとのiPhone販売合戦が過熱するなか、ネットワーク品質の信頼回復はまさに急務と言えるだろう。
 

ソフトバンク

<2012年度>
営業収益 3兆3783億円(前年度比5.5%増)
営業利益 7450億円(同10%増)

ソフトバンク 孫社長

●順調な契約者増、ドコモを超える決意
 2013年度には営業利益が1兆円の大台を突破する見込みであることを明らかにしたソフトバンク。7年前にボーダフォンを買収した際、すべてにおいてドコモに負けていたが、孫社長は「10年以内にドコモを超える」と決意。ここにきて、2013年度の営業利益予想を8400億円と語るドコモを大きく上回る可能性が出てきた。

 ソフトバンクの好調さを支えるのが契約者数だ。2012年度はソフトバンク単体で353万件の純増を達成。これにイー・アクセスとウィルコムを合計すると436万件に達し、ドコモの140万件、KDDIの260万件を大きく引き離すことになる。孫社長は「メディアではいまだに国内第3位のキャリアと表現されることも多いが、実態としてはドコモを超えており、ユーザー数でもKDDIをはっきりと上回っている」と語った。

 ドコモの契約者は6154万件だが、「いま日本は春で、まさにSpring has come。(買収予定の)Sprint has comeになれば(ソフトバンクグループ3社とスプリントが合計され9710万件となり、9893万件の)ベライゾンにも追いつく」(孫社長)と息巻いた。

10年以内にドコモを超える

 傘下のウィルコムは2011年度第2四半期以降、黒字を続けており、契約者数も2013年3月には536万件を達成。270億円の更生債権・更生担保権を一括弁済できることから、2013年度第2四半期よりソフトバンクの連結子会社になることも発表された。
 

●野望実現の米スプリント社買収、ユーザーのメリットはあるのか
 記者会見は2部構成で行われ、後半は、米スプリント・ネクステルの買収に関する説明会が行なわれた。スプリントはソフトバンクから買収に合意していたが、アメリカの衛星放送会社であるDishが、新たなにスプリント買収案を提示。これを受けて、孫社長はソフトバンク側の提案がいかに優れているかをアピールするプレゼンを行なった。

 孫社長は、スプリントはソフトバンクに買収されたほうが、ソフトバンクのこれまでのモバイル事業者としての経験が生かせる点、端末やネットワーク機器の調達において、2社でスケールメリットが出てくる点、今夏に買収を完了でき、すぐにネットワークの改善に着手できるとアピールした。

米スプリント社買収の行方は

 Dishに買収されてしまっては、モバイル事業の知見もないため、買収による相乗効果もなければ、端末やネットワーク機器の調達におけるスケールメリットもない。また、Dishの買収による払いこみは来年になるとされ、この1年でスプリントの競争力が低下してしまうと孫社長は指摘した。

 1株当たりの価値についても「誤解がある」(孫社長)として、正しい見方を説明。Dish側の提案では、ソフトバンク側に違約金を払う必要もあり、さらにスプリントに新たな負債が発生し、株価の価値は減少すると説明。「なぜ、いまになってスプリントは成熟した衛星放送事業を抱える必要があるのか」(孫社長)と、改めて、Dishの買収には価値がないとした。

 「ソフトバンクがスプリントを買収したほうがいかにメリットが大きいか」をアピールするため、孫社長のプレゼンはすべて英語で行なわれた。孫社長のわかりやすく、かつ熱血な英語プレゼンは見ていて圧倒されるほどだった。それほど、孫社長としては、スプリント買収に命をかけているのだろう。なお、アメリカのメディアに対しては、説明会とは別に電話による会見を行なうとのことだった。

 ソフトバンクとしては、スプリントの買収に関しては昨年の6月から交渉を続けてきた。順調に買収を完了できるかと思いきや、ここにきて、Dishという横やりが入ってしまった。
 「Dishが買収を提案してきて、危機感を感じているのではないか」という記者の質問に孫社長は「それはうがった見方である」と一蹴。他社が買収を仕掛けてくるのは、想定済みであるとした。

 今後、ソフトバンクが世界的な企業に成長していくには、まずスプリントの買収を成功させることが先決だ。そのためにも、是が非でもDishには勝たなくてはいけない。今回の説明会はそのためのアピールであり、焦点はいかにスプリントの株主に理解してもらうかにある。
 ただ、ソフトバンクのスプリント買収は、どちらかといえば、孫社長の学生時代からのアメリカで成功するという「野望」を実現するための道具に過ぎず、ユーザーのメリットにつながるものではないだろう。説明会でも、「ユーザーのメリットをわかりやすく教えてほしい」という記者からの質問に対し「戦略なので、教えられない。スティーブ・ジョブズも新製品の話は徹底的に隠したはずだ」と、はぐらかした。

 日本とアメリカでは、iPhoneこそ同じスペックが導入されるが、Androidスマートフォンにおいては、求められる機能もスペックも異なる。スプリントを買収し、どんなユーザーメリットがもたらされるのか。孫社長の「秘策」に期待しておきたい。
 

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