プラネタリウムの投影機をドラマチックな演出装置として活用した演劇と、宇宙飛行士・山崎直子さんのトークショーを合体させたイベントが、3月23日に開催された。会場は東京・すみだ生涯学習センター、球形プラネタリウム投影機 『GSS-Helios』(五藤光学研究所)のあるユートリヤ・スターガーデン。
↑惜しまれながらも閉館となったユートリヤ・スターガーデン。 |
投影設備の老朽化にともない3月31日に閉館が決定しており、“すみだから宇宙飛行士を!” をスローガンに活動してきたプラネタリウム館が、本物の宇宙飛行士を迎えることとなった、最初で最後の機会となった。
↑引退することになった『GSS-Helios』は、2万5000個の星を投影できる実力を持つ。ちなみに2013年3月31日現在で世界最高峰の投影機は『Super MEGASTAR-II』で投影数は最大2200万個。 |
このイベント、実は、ひとりのプラネタリウム館スタッフの熱意から始まったものだ。
2012年末に、来春の閉館を告げられたボランティアスタッフの小島久恵さんは、プラネタリウムを楽しみに来てくれていた子供たちのために、なんとか宇宙飛行士を招くことができないだろうかと考えた。しかし1年先まで予定が詰まっている超多忙な宇宙飛行士に、3ヵ月後の講演を依頼するのは、あまりに無謀というもの。それでも諦めることができなかった小島さんは、この思いだけでも伝えたいと、山崎大地さんの著作『宇宙家族ヤマザキ』を舞台上演している宇宙食堂あてに、1通のメールを送ったのだ。
――プラネタリウム閉館に伴い、今後、子供たちにプラネタリウムを通した星空への夢、感動を伝える活動ができなくなってしまうこと。山崎直子さんから直接、“宇宙飛行士になる”という夢を叶えるプロセスを教えてもらえたら、子供たちへの最後の大きなプレゼントになるだろうと綴られた長いメールは、宇宙食堂主宰 新井総さんの心を打ち、山崎直子さんへと届けられた。
↑プラネタリウム館のスタッフが手作りしてくれたというワッペンを、首から下げる新井総さん。 |
とはいえ新井さんも、現実問題として実現は不可能だろうと考えていたのだが、意外にも直子さん本人が「私も子供のころ、よくプラネタリウムに通い、季節ごとの星座の話などを聞くのが大好きでした。プラネタリウムで育ってきた子供たちが元気よく次のステップに進む、ひとつの助けになるなら」と、これを了承。こうして、子供達のためにというそれぞれの想いが交差し、奇跡のイベントが実現したのだ。
当日は、宇宙モノ専門演劇ユニット☆宇宙食堂による演劇『瑠璃色の地球 ~宇宙家族ヤマザキ 2022スピンオフ物語~』(記事参照)からスタート。この日のために、 特別に山崎直子さんの想い出の星空を演出に加えた、一夜限りの特別ステージとなる。
ステージ後方にはプラネタリウムの惑星やスペースシャトルの映像などが映し出され、 引退する『GSS-Helios』とともにつくりあげる感動のステージとなった。
会場があたたかい拍手に満ち溢れたところで、第2部へ。笑顔の山崎直子さんが宇宙食堂特製スーツに身を包んで登場した。
↑今日のために宇宙食堂が用意してくれた特製の衣装を着て直子さんが登場。左胸元には“STS-131”のミッションバッチをあしらわれている。 |
大勢の子供たちを前にし、なぜ自分が宇宙飛行士を目指したかという話を披露。マイナス20度という厳しい寒さの中、宇宙船搭載物だけで救助を待つといったサバイバル訓練などを経て、ようやく宇宙へ旅立てるようになる宇宙飛行士。それでも「楽しいんです」と笑顔で語る直子さん。
いっぽう会場の子供たちは、国際宇宙ステーション(ISS)での生活に興味津々。「歯磨きはどうするの?」といった日常的な質問が、次々投げかけられた。実際に宇宙では水と歯磨き粉を吐きだす場所がないため、飲みこまなくてはならないのだが、訓練を積んだ宇宙飛行士といえども、最初は抵抗があるのだという。ためらう宇宙飛行士たちに、ディスカバリー号ではアラン・ポインデクスター船長が「Yes we can!」と励ましてくれたとか。
宇宙での無重力(微小重力)がヒトの鼻にも影響を与えるという話でも興味深い話が伺えた。ホコリが下に積もるということがないことから、ISS 船内はホコリっぽさを感じやすい環境だという。鼻をかむ動作は地上と同じなのに、無防備にやると体のバランスを崩すため、「足で体を固定して、準備してから鼻をかまないといけません」と直子さん。
宇宙飛行士試験の内容にも質問が及ぶ。選抜試験で取り組む真っ白なジグソーパズルは、どうやって集中力を保って取り組むのかと聞かれると、時間内にパズルを完成させた人は、実はひとりもいないといい、完成させたかどうかが大事ではなく、毎日なにか挑戦しようと思う気持ちを持って取り組むことがいちばん大切なこと、と述べた。
現在では、宇宙で必要とされる役割も多様化し、身体条件の面でも、視力矯正が認められるなど、条件が緩和されてきていることに触れ、「“宇宙に関わる”人はさまざまで、たくさんの道がある」と話す。南極観測隊に専任の料理人がいるように、宇宙でもそういう人が必要とされるかもしれない。それは民間の宇宙飛行士や観光宇宙飛行船のパイロットかもしれない。自分で考えて目指すことが大事ですよ、と会場の子供達の背中を押した。
最後には、子供たちからの花束贈呈、記念撮影、ハイタッチを交わしながらの退場。会場は終始、笑顔に包まれ、定員の3倍もの応募があったこのイベントは、参加した人たちに宇宙の魅力を強く印象付けて幕を閉じた。
望めばかなうと気軽にいえるものではないが、宇宙に思いを寄せる人たちの世界には、ときどきこうした心温まるストーリーが生まれることがある。このイベントをきっかけに、墨田区から未来の宇宙飛行士が誕生することを、願いたい!
本記事は、週刊アスキーの新連載『2013年宇宙の旅 ~宇宙をちょっと知っちゃうコーナー~ 』に掲載したイベントの全文記事です。週刊アスキーでは、毎週、知っているようで知らない宇宙の知識を、優しく読み解いていきますので、ぜひそちらもお楽しみください。
(4月21日3:55追記)『Super MEGASTAR-II』についての誤記を修正致しました。お詫びして訂正いたします。
■関連サイト
宇宙モノ専門演劇ユニット☆宇宙食堂
Naoko Yamazaki(twitter)
国際宇宙サービス
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