3月6日に日本でもオープンしたアップルのiBookstore。小説やコミックなど、日本の作品がiOSデバイスの「iBooks」アプリから購入できます(iBooksをダウンロードする)。
中でも注目なのが、「村上龍電子本製作所」を立ち上げ、オリジナルデジタルブック「心はあなたのもとに」、「希望の国のエクソダス」、「空港にて」の3作をiBookstoreで発売した村上龍さん。3月9日にApple Store 銀座店で行われたイベント「Meet the Author:村上 龍」で村上 龍さんのお話を聞いてきました。
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「心はあなたのもとに」
「希望の国のエクソダス」
「空港にて」
モデレーターのまつもとあつし氏とともに登場した村上 龍さん。村上さんは実はiBookstoreスタート前から「歌うくじら」という作品をアプリとして発表しています。
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「歌うくじら」
この「歌うくじら」をデジタルで発表した経緯や「作家自らが電子書籍に取り組む」ことへのきっかけを尋ねられ、「iPadが登場したときのスティーブ・ジョブズのプレゼンを見て、これで本が作りたいと思った。むしろ、これで本を作れ、と言われているようだった。あの基調講演を見たタイミングが半年早かったら、電子書籍で自分が本を出すことに現実味がなかっただろうし、半年遅ければもう間に合わなかっただろう。ちょうど原稿を書き終わったタイミングであのジョブズを見られたことを運命だと思っている」と話しました。
今回、デジタルブックとして発表した3作は、アプリではなく電子書籍であるため、本の中身をリッチコンテンツにするのではなく、扉を動画にする、物語の一部のみに仕掛けを作るといったシンプルな作りになっています。
特に、「心はあなたのもとに」には登場人物たちが電子メールや携帯メールを介してやり取りするシーンが多い作品。そこで、「メール」アイコンを押すと現れる、本物のメールような横書きのインターフェースを採用しています。
「本作はメールのやり取りが大きな要素なので、縦書きの本の中で「メール」というものをどう効果的に見せればいいか、ずっと考えていた。私たちが横書きとして見慣れているメールをそのまま縦書きにすると、読者が頭の中で「これはメールだ」と変換して読まなければならない。その必要をなくすために、この方法を思い付いた。さらに、パソコンと携帯電話のメールの区別、受信/送信なのかがわかるようにしたくて、何十種類も試した」と熱く語ってくれました。
また、今後のビジョンとして、「日本を表す百科事典のようなものを作っている。日本経済が停滞しているいま、我々日本人が持っているさまざまな資源を思い出すべきだ。鯉のぼりを見て理屈なくおだやかな気持ちになれることや、七夕のような美しい風習があることを思い出してもらいたいし、いまなくなりかけているコミュニティー(居場所)を復活させるためにも必要だと思う。また、こんな百科事典のような分厚い本を本物の紙の本で読もうと思ったら大変だ。それをこんなに簡単に読めるのが電子書籍であり、言葉にしなくても「これが電子書籍だ」ということを説明できる」と話してくれました。
講演の中では、笑いを交えた村上さんのチャーミングな部分も。「読者が書いてくれる手書きの読書カードは、手書きでびっしり書かれていると読みづらいのであまり読まない(笑)。でも、Amazonのカスタマーレビューはとても気になる(笑)。一度、「『13歳のハローワーク』なんて書いていないで、小説を書け」と書かれたレビューを見て、とてもショックを受けた。すでに次回作の小説を書き進めているところだったのに……。でも、そういう意味でAppleで購入できるアプリや本に設けられた「レビュー」という試みは画期的だと思う。いい意見も悪い意見も聞けるから」と話していました。
「電子書籍」というジャンルを早いうちから当然のものとして捉え、その中でできることを常に考え続けている村上さんだからこそ、斬新なアイデアを次々と生み出せることができるのだと思います。スティーブ・ジョブズを思い出してワクワクしたり、Amazonのレビューの話で照れ笑いしたりと、リアリティーのある少し過激な文体や、強面のお顔からは想像できない豊かな表情でお話ししていた村上さんは、本当にチャーミングな方だと思いました。
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