CES開会の前日には、“業界を代表する企業”のトップが基調講演を務めるのがならわし。昨年まで、この地位はマイクロソフトのものだった。だが、マイクロソフトは、今年からCESへの参加を見送っており、その座を受け渡した。
今年そこに現れたのは、クアルコムのCEO、ポール・ジェイコブスだった。
壇上に表示されたのは“BORN MOBILE”というキャッチフレーズだ。
↑クアルコムのポール・ジェイコブスCEO。“BORN MOBILE”をキーワードに、伝統的な家電の世界からモバイルへの転換を強調した。
「CESの歴史上、モバイルカンパニーの基調講演でショーが始まるのは、初めてのこと。伝統的な家電メーカーと違って、我々はテレビもオーディオもゲーム機も作っていない。でも、いまや、すべての家電機器の中で最も早く広がっていて、すべての中心にあるのはモバイルデバイスだ。世界中で64億のデバイスがモバイルネットワークにつながっていて、全世界の人口より多い。毎日新しくネットワークに接続されるスマートフォンの数は、世界で毎日生まれる赤ちゃんの数より多い。なんて驚異的なことだ。この規模は世界を変え、業界を変えている。クアルコムは“BORN MOBILE”な会社だ」(ジェイコブスCEO)
同社の主力商品は、スマートフォン向けのSoC『Snapdragon』(スナップドラゴン)シリーズ。各種通信インフラ技術も手がけている。この現象のただ中にあっては中核の存在である、という強い主張が込められている。
そして、その後に壇上に現れたのは意外な人物だった。
「昨年、マイクロソフトはウィンドウズを“BORN MOBILE”なものに変えた」。そこまでジェイコブズCEOが言った後、「じゃあ、今年は?」と言いながら登場したのは、マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOだ。昨年でCESからは“卒業”したが、Windows 8、Windows RT、Windows Phone 8を“BORN MOBILE”世代と位置付け、クアルコムとの協力関係で新しいプラットフォームを提供していることをアピールするため、再びバルマー氏がやってきたということになるだろうか。Windows RTはARMベースのプロセッサーで動作しており、Snapdragonはもちろん対象。NokiaのLumia 920や、HTCのWindows Phone 8XもSnapdragonを使っている。壇上でも、その革新性や機能性をアピールした。
↑マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOが登場。特にWindows RTとWindows Phone 8とSnapdragonの相性の良さを強調。
●新SoC『Snapdragon 800』シリーズでモバイルにも4Kを!
そして、この流れをさらに強化するものとして発表されたのが、新世代SoC『Snapdragon 800』シリーズである。800シリーズは、現行製品である『Snapdragon S4』に比べ75%処理性能が高く、LTEの拡張仕様対応で最大150Mbpsの転送にも対応する。無線LANについても802.11acに対応し、より高速化される。しかもGPUの電力消費量は半減しており、パフォーマンスを高めつつバッテリー動作時間は延びる、と同社は主張している。
↑Snapdragon 800シリーズを発表。大幅な性能向上により、グラフィック処理性能が高くなった。
それら、性能面での優位性を強調するためにデモされたのが“UHD”(Ultra HD)映像の再生だ。1080pのフルHDよりも解像度が高い、いわゆる4K2Kの映像にモバイルチップが対応する。
「このショーでは、たくさんのUHD対応機器を見ることになるだろう。それに加え、800シリーズの能力によって、クラウド上のコンテンツに、どこからでもアクセスできるようになる」(ジェイコブズCEO)
↑Snapdragon800シリーズが、モバイルにも“UHD”(4K)の世界をもたらす。
デモでは、800シリーズでは最高スペックとなるクロック周波数2.3GHzのものを使い、UHDかつ7.1chサラウンド音声の動画を再生した。そのデモに呼ばれたのは、米国で今夏公開が予定されている怪獣映画『Pacific Rim』の監督、ギレルモ・デル・トロ氏。これは、前日キーノートらしい、華やかな演出が狙いだろう。
↑『Pacific Rim』のギレルモ・デル・トロ監督が登場。「モバイルでも好きなところからUHDの映像が見れるのは、大きな価値になる」と話した。
このほかにも、同様に2013年5月公開予定の『Star Trek Into Darkness』に出演するアリス・イヴや、2012年度NASCARチャンピオンのブラッド・ケゼロウスキー、そして、セサミ・ストリートのビッグバードまで登場した。彼らは皆、クアルコムとともにスマートデバイス向けの特別なアプリケーションの開発と提供を予定しており、それをひとつの差別化要因とする、という戦略でもあるようだ。
↑『Star Trek Into Darkness』に出演するアリス・イヴがStar Trekのモバイルアプリを紹介。
↑セサミストリートのビッグバードは、セサミストリートを使った教育アプリを紹介。写真から文字認識して声と連動。クアルコムのARライブラリーを使って作られているという。
そして、最後にはロックバンド・マルーン5が登場、生演奏を行なって彩りを添えた。
↑基調講演のクロージングはマルーン5の生演奏。
●インフラ技術にも注視、将来の“トラフィック爆発”に備える
基調講演で発表されたのは、これらの技術だけではない。インフラ面の今後についての言及も目立った。
特に興味深いのは、今後ますます増大するモバイル通信のトラフィック問題を『1000X CHALLENGE』と題し、取り組みを語ったこと。「机の本棚の上にも置ける」(ジェイコブズCEO)きわめて小さな基地局の導入や、データ転送速度を改善する“STREAMBOOST”などを公開した。ただし詳細については、CES会場で解説するとして触れなかった。
↑モバイルのトラフィック問題も提起。ごく小さなセルの基地局による通信も検討中だという。
また、EV分野についても、無線給電技術“クアルコム Halo”をアピール。ロールスロイスをEV化して壇上で紹介した。
↑EV向けの無線給電技術“クアルコム Halo”。ロールスロイスをEV化して、その存在感をアピール。
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