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Angry BirdsのRovioが抱く野望――ゲームにとどまらない拡大戦略

2012年11月14日 11時30分更新

 Angry Birdsが世界的に大ヒットしたRovio Entertainmentだが、Rovioにとってモバイルゲームはほんの始まりにすぎない。実はRovioの売上げのうち、本業のゲームは7割――今後は現在3割を占めるゲーム以外の売上げをさらに拡大させていくという。次世代のエンターテイメント企業を目指すRovioのしたたか、かつ堅実な売上げ戦略について、同社幹部のPeter Vesterbacka氏が米国で開催されたイベントで語った。

Angry Birdsno

 Vesterbacka氏はこの日、Angry BirdsのRed Birdを模した赤いフードパーカーに、手にはiPadが入った赤いAngry BirdsのiPadケースという姿で現われた。共同創業者でもあるVesterbacka氏の肩書きは、Mighty Eagle。“恐れを知らないワシ”といったところか。肝心の任務はというと、マーケティングである。

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 タッチ操作できる大画面が画期的だったiPhone、そして開発したアプリを公開できるApp Storeをうまく利用して成功を収めたAngry Birdsだが、運がよかっただけではない。RovioはAngry Birdsの前にもたくさんのゲームを作って失敗した経験があり、日の目を見ない日々があった。急にスポットを浴びたベンチャー企業ではないのだ。Rovioの本拠地はフィンランド、シリコンバレーと比べると起業やビジネスの面で決して恵まれているとはいえない。粘り強さとしたたかさ。Rovioをみていると、大国ロシアとスウェーデンに囲まれて独立を求めてきた歴史、厳しく長い冬を持つフィンランドの特有の精神が感じられる(シェアを落としMicrosoftに買収かと噂されているNokiaも、100年以上の歴史のなかで、タイヤやゴム長靴、テレビなど時代に応じて製品を変えてきた粘り強い会社なのだ)。

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 ゲームに限らず、オンラインで展開する企業にとって大きな課題は、収益=どうやって儲けるかである。Vesterbacka氏はフィンランド訛りの英語で、「われわれはかなりうまくやっていると思う」と微笑む。Rovioが何から売り上げを得ているのか?(ちなみに、2011年の売り上げは7540億ドル)ーーゲームではAngry Birdsでシーズンに合わせたエディションを作成したり、Angry BirdsのキャラクターBad Piggiesをスピンオフさせたりしている。Vesterbacka氏のスピーチの前日(11月8日)には、待望の『Star Wars Angry Birds』をリリースした。また『Amazing Alex』という、Angry Birds系列ではないゲームもある。これらはもちろん、ユーザーを飽きさせないこと、継続してAngry Birdsアプリを購入してもらうことなどを狙ったものだ。

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 では3割を得ているという“ゲーム以外の事業”とは何か? Vesterbacka氏の出で立ちからも明らかなように、洋服やぬいぐるみなどのグッズで、ゲームがデジタルであるのに対し、物理世界からの売り上げとなる。「物理グッズの売り上げは数年後には半分に達すると予想している」とVesterbacka氏は述べる。ゲーム企業の多くがデジタルを重視する中、Rovioはデジタルから物理世界に飛び出してデジタルと物理世界の両方から集客し、相乗効果を図っているのだ。この日Vesterbacka氏はHasproとの提携により実現したAngry Birds Star Warsのボードゲームを携えて登場したが、「これはクリスマスに売れるだろう」と自信を見せる。

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 映画業界とも組んでいる。2011年は、20th Century Fox(20世紀フォックス)と組んで展開した『Angry Birds Rio』をローンチ。20th Century Foxの映画『Rio』を宣伝するのが目的だが、これもヒットした。20th Century Foxにしてみれば映画の集客になり、Rovioはダウンロード収益が増えたという。出版にも進出、今年は卵料理のレシピアプリをiPad向けにリリースしている。

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 市場としては、Rovioが狙うのは成長国ではなく、途上国だ。中でも中国は特に重要という。Rovioにとってはユーザー数が最も成長しているというだけでなく、すでに米国に次ぐ2番目の国となった。そういえば1年以上前にVesterbacka氏の話を聞く機会があったが、その時も「Angry Birdsは、中国でディズニー、ハローキティに次いでコピーされている。コピーは人気がある証拠、大歓迎だ」と余裕を見せていた。

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 現在Rovioはその中国で、McDonalds(マクドナルド)とのタイアップキャンペーンを秋に開始した。位置情報を利用しており、ユーザーは店内で特別なゲームモードを利用してプレーできるという。中国にある約5000店のMcDonaldsで展開中で、同社にとっては過去最大のキャンペーンという。20th Century Foxと同様、McDonaldsは集客が増え、Rovioはゲームの利用が増えたという。

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 次に計画しているのが、Angry Birdsのテーマパークだ。上海の近くに設立中という報道があるが、年内にオープンの予定という。1ヵ所だけではなく、数ヵ所で展開する計画のようだ。どんなテーマパークになるのか、Vesterbacka氏は具体的な内容は明かさなかったが、「体を使い(運動)、脳のエクササイズにもなるような場所」とのことだ。「(モバイルゲームの)Angry Birdsアプリからのテーマパークへ、面白い進化になる」と自信満々である。

 Rovioは今年の春にフィンランドに、夏にイギリスに“アクティビティパーク”を開設しているが、ここでは入場を有料にし、事業として成功しているという。

 このように、今後もデジタルにとらわれない発想で収益アップ(マネタイズ)を進めていくようだ。「どんなモデルでもちゃんと機能するならやるつもり」とVesterbacka氏、自信の影にあるのはAngry Birdsの成功だ。「“ファン”(RovioはAngry Birdsゲーム利用者をユーザーとは言わず、ファンと言う)にすばらしい体験をつくれば、収益化は簡単だ。だがすばらしいユーザー体験なしには難しい」と述べ、「すぐに動く、動き続ける、そして収益に変える」ーーこれがRovioの拡大戦略の根本にあると続けた。

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 Vesterbacka氏のスピーチの翌日、RovioはAngry Birds Star Warsがリリースから2時間半で、iOSのApp Storeでトップになったと発表した。2時間半というのは過去最短という。

 Rovioは早い段階からゲーム企業ではなく、エンターテインメント企業を見据えて事業を展開している。そのうち、Angry Birdsと聞いてモバイルゲームを連想しなくなる日がくるのかもしれない。

『Angry Birds Star Wars』
Angry Birds Star Wars - Rovio Entertainment LtdApp Storeからダウンロード

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