昨晩のApple Special Eventで発表、11月2日から発売されることが明らかになったiPad mini。“ほぼ事前の予想どおりの仕様”だったのは事実だけれど、実物を触ってみてわかること、この大きさの必然感は、事前に予想していたモノが出て来た“既視感”とはまったく違うものだった。
↑会場となった米国カリフォルニア州サンノゼ市内にある映画館『カリフォルニア・シアター』。数百名のプレス関係者が新製品発表を見ようと全世界から集まった。 |
↑フィル・シラー副社長が披露した名前は、事前のウワサどおりのネーミング『iPad mini』。 |
●サイズ・重さ 誰が持ってもわかる軽さと重心の演出
↑以前からウワサのあったiPad miniの実機をはじめて披露する、フィル・シラー副社長。 |
しばしば耳にする「iPad、意外と最近使ってなくて」という人の大半の理由は、そのサイズ感ゆえだと思う。9.7インチは映像コンテンツを見るには最高だし、Retinaならではのブラウザーや文字コンテンツの美しさは特筆ものでも、要するに日本人が「サッと取り出して使いたい」と思うのは電車の移動中や、外食や打ち合せの待ち時間だ。イメージしやすく言えば、「手帳を見ようかな」と感じるシチュエーションが、タブレットデバイスが浸食するのに最適なタイミングじゃないだろうか。こういうとき、9.7インチでは少々大きいと思う人が多いのが、「意外と最近……」につながる要因だと思っている。
↑手の大きさと比較すると、画面の縦横比は同じでも、従来のiPadよりはずっと小さいことがわかる。 |
そうした目線で見て行くと、iPad miniのサイズはNexus7と高さこそほぼ同じ(1.5ミリ大きい)だが、幅で14.7ミリ広く、重さは32グラム軽い約308グラムだ。実は、先ほどの手帳の論理にならうと、この幅は僕が愛用しているモレスキンの13×21cmサイズにほぼぴたりと一致する。
これに気づいた時点で、うーん、なるほど、と思ってしまった。
iPad miniが狙っているスキマは、実はもう人が体験して生活に組み込んでいる紙ガジェットのスキマなんじゃないか。9.7インチが、生活に新しい携行物を持ち込もうとしたのに対して、iPad miniの7.9インチは、すでにあるものを置き換えようとしているように見える。
「iPad miniは大きい、日本人の手ではガッと掴んで持てない」と心配する人には、安心してもらってOK。モレスキンのこの手帳は、“ガッ掴み”できるし、打ち合わせにもガンガン持ち運んで使える大きさだ。電車の中でだって、余裕で取り出して使える。
↑斜め方向から覗き込んでも、このとおり視野角はとても広い。 |
↑iPad miniのLightningコネクター部分、コネクター周辺のスピーカー穴も含めて、デザインの意匠はiPhone5に近い。 |
↑スマートカバーなので、当然このようにパタパタと折り曲げて、スタンド代わりにすることができる。 |
↑iPad mini用のスマートカバー。iPad用と違い、可動部分は金属ヒンジにはなっていない。カバーと同素材の耳部分の中に磁石が入っていて、本体側面に吸着する。 |
実機を触ってみると、特に軽さの印象が強い。
数字上も、そもそも軽いのは間違いない。Nexus7より1割軽いから。でも、体感の軽さというのは、実は数字を比べるだけでは全部はわからない。たとえば4以降のiPhoneは、重量はそこそこ軽いのに、ボディ周囲にアルミを使うことで意図的な「重さ」の演出をしている。高級万年筆を手に持つとわかるように、適度な重さ感は、そのモノの高級感の演出に一役買う。
iPad miniは、側面〜背面までをアルミで覆う構造なので、こういった偏った重心演出はできないが、逆に「金属は重いだろう」という見た目の先入観を裏切る軽さになっている。
あえて指摘しておくと、サイズ面でNexus7が勝ることが1点ある。Nexus7の大きさなら、ジーンズのバックポケット(いわゆる尻ポケ)にすんなり入れることができる。ハンズオンで実際にも試してみたけれど、iPad miniの幅になるとジーンズの尻ポケには入れられない。
●Apple A5と、適切な解像度のほど良い関係
Retinaでなかったことは、3月に買ったばかりの新しいiPad(Retina )に加えて、自分を納得させるための「iPad miniを買い足さない理由」にはなり得る。ただし、断っておくと、このカジュアルなスペックでなければ、おそらくこのピタリと狙ったサイズ感とバッテリー10時間駆動にはならないということだ。
↑第4世代iPadと並べてみたところ。両サイドの額縁の狭さがよくわかる。 |
スペシャルイベントのキーノートでフィル・シラー副社長が何度も印象づけたように、iPad miniの操作面のユーザー体験は、すでにiPad2で担保されたものだ。iPad2と同じ解像度、同じプロセッサー(搭載メモリーは不明)を使っていて、解像度を特別高めているわけではないので、A5Xでなくても動きは十分に俊敏だ。
ベンチマークをとれば、Nexus7が勝つことはほぼ間違いないが、ブラウザーや標準アプリを短時間使ってみた範囲で「遅い」とか「モタつく」と感じることはなかった。
↑週アスPLUSを表示してみたところ。表示の速さ、レスポンスともに(iPad2相当であることを思えば当然)不満はない。 |
↑展示機のiBooksには夏目漱石『坊っちゃん』がインストールしてあった。キーノートで披露された、画面をスワイプするのではなく縦スクロールで次のページを見て行く新機能は縦書き表示でもできる。ただし、スクロール方向は縦のままだ。 |
Retinaでないことのデメリットは、もちろん表示の品位。特に日本人にとっては、漢字の描写の細かさに関係する。解像度はiPad2と同じといっても、画面サイズが小さくなっているので必然的にppiは向上している。ハンズオンのデモ機にはiBooksコンテンツとして夏目漱石の『坊っちゃん』がインストールされていた。写真を見てもらえばわかるように、Retinaほどではないにしても、文字のエンコードはまずまず美しく感じる。電子書籍ビューアーとして検討しているという人にとっては、悪くない仕上がりじゃないだろうか。
ただし、コミックコンテンツについてはどうだろう? 昨年のiPad2発売時に特別に作った漫画コンテンツを表示させた感触で言うと、フキダシ文字の細かさのために、漫画のほうが明確に高解像度を必要とするのは事実だ。
●ダイヤモンドカットと、ボディー表面処理、額縁デザインに感じること
↑ホワイトとブラックを並べて撮影。アップルマーク部分はミラーのような鏡面処理がなされている。いずれも、アルミ部分はつや消しカラーだ。 |
デザインの良さについては特に語るべくもないけれど、iPadにもiPhone5と同様のダイヤモンドカットのエッジ処理を持ち込んだことは、次からは9.7インチもこのデザインになるだろうことを感じさせる。このデザインは、とても上品で個人的にも気に入っている。
ボディーカラーの好みは人それぞれだけど、白好きとしては買うならホワイト。ブラックは背面がつや消し処理になっていることもあって、指紋が目立ちやすい印象だった。
↑LTE版のSIMスロット穴は右側面にある。この機体の回線キャリア表示はSprintだった。 |
↑LTE版の背面。9.7インチのiPadでは見慣れた、画面上部のみ樹脂素材のデザインはiPad miniでも継承されている。 |
細かな点で気になっているのは、これまでのタブレットのセオリーから外れて、額縁が非常に細いことだ。一般的に、タブレットデバイスの額縁は、親指程度の太さが必要だとよく言われる。これは、手に持ったときに画面に触れてしまい、誤反応をひきおこさないためだ。
iPad miniは、それを親指の半分程度(あるいはそれ以下)の幅まで切り詰めることで、縦横比を守りながら、ギリギリまで横幅を抑えている。特にキーノートでは言及されていなかったように記憶しているが、何らかの誤反応防止機能が実装されているのかもしれない。ハンズオンで触った感触では、意図しないタッチ反応などはまったくなく、スムーズそのものだった。
●iPad miniは買いかどうか?
冒頭に書いたように、iPad miniはスケジュール帳やメモ帳、あるいはペーパーバック、いずれにしろ既に人間が文化として取り込んで来た“紙ガジェット”の大きさの領域を狙っていて、まさにそこにフィットするように作ってある。
実用ガジェットとしてつくられているから、仕様面でキャッチコピーになるほど目を見張る点はないけれども、おそらく、長く、便利に使えるガジェットだ。
↑ハンズオンの終盤、騒がしくなったと思ったら、右1.5mほどの場所にティム・クックCEOが! 当然、カメラのレンズは大半がクックCEOの方に向き、その隙にiPad miniを撮影できた。 |
iPad miniの評価を大きく左右するのは、価格設定にあると思う。Androidタブレットが200ドルの争いを繰り広げる中では、2万8800円〜の価格は明確に強気だ。この素材と質感で同価格は無理にしても、仮に2万4800円だったら全然見た目の印象は違ったはず。もちろんアップルはそんなことはわかっていて、それでも勝算を見出している、ということになる。
現時点の市場の価格への欲求は非常に強いものだが、それがアップルの自信を超えるものかどうかは、発売日以降、北米で最も重要な年末商戦期の結果を見れば、自ずと判明するだろう。
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