AMD FX-8350 |
↑FX-8350のパッケージは従来とまったく同じ。表面の刻印をしっかり読まない限り、新旧FXシリーズを見分けることはできない。裏面のピン配列もまったく一緒でAM3+ソケット搭載マザーに搭載できる。 |
今年のAMDは前半にモバイル版Trinityを出したっきりで、全然デスクトップが出ない……と思ったら、後半に入って急激に動き始めた。今月初頭にGPU内蔵のデスクトップ版Trinityをリリースして低価格自作に新風を吹き込んだばかりだが、今度はGPUを搭載しないメインストリーム向けCPUでも新製品を発表。それが第2世代FXシリーズ。かつては開発コードネーム“Vishera”の名で知られていた製品群だ(以降新FXシリーズと呼ぶ)。
今回は新FXシリーズのフラッグシップモデル『FX-8350』をテストする機会に恵まれた。このテストを通し、今後のAMD製CPUの運命を占ってみたい。
コアあたりの実行命令数(IPC)が向上
まず今回登場した新FXシリーズのスペックなどをチェックしてみよう。第1世代と同じように、今回も全モデルが倍率ロックフリーとなっている。
新FXシリーズの設計はBulldozerアーキテクチャーの改良版“Piledriver”をベースにしている。ちょうどAシリーズが昨年のLlanoから今年Trinityに更新されたのと同じだ。そのため、CPUの基本的な構成(コア数やキャッシュ構成)にはまったく変化はない。ただ新FXシリーズでは、全モデルのベースクロックが従来より高めに設定されている。特にFX-8350は定格で4GHz動作になっている。
↑FX-8350の情報を『CPU-Z』でチェック。Turbo Coreが効いているので動作クロックは少し上がった値が表示されている。 |
↑新FXシリーズの内部構造。2コア+2次キャッシュで構成されるモジュールを2~4個組み合せ、3次キャッシュで連結したような構造は第1世代と似ている。 |
ベースクロックが上がったおかげで、第1世代で設定されていた“全コアターボ状態”と“最大ターボ状態”という区別はなくなっている。ただし、実際に全コアに負荷をかけてみると、動作クロックが微妙に低いコアが8コア中4~5つできたので、すべてのコアが上の表通りの最高クロックまで上がる、という訳ではなさそうだ。
2スレッド負荷 |
4スレッド負荷 |
8スレッド負荷 |
『CINEBENCH R11.5』で8/4/2スレッドで処理をかけた時の状態を『AMD OverDrive』でチェック。8コア全部に負荷をかけると、4~5コアはベースクロックに落ち込んでしまい、全コアのクロックが上がりきる訳ではないことがわかる。ちなみに4/2コア使用時は全部同じクロックと表示されているが、これはソフト側の不具合の可能性が高い。
では新FXで何が変わったか……といえば、それはPiledriverベースへ移行したことで、コア自体のIPC(Instrictuons Per Clock)が高くなった、ということに集約される。AMDによれば1世代前に対し、クロックの増分を含めれば15%程度処理効率が上がっているという。
価格で考えればライバルはCore i5-3570K!?
今回試すFX-8350は、実売1万8000円前後で流通しているCPU……つまり『Core i5-3570K』をライバルに設定していることがわかる。8コア8スレッドのCPUと、4コア4スレッドのCPU勝負はどうなるのかに注目したい。
今回集めたテスト用PCパーツと環境は以下の通りだ。基本的にTrinityの時(関連記事)と同じだが、マザーボードを変えている。さらに内蔵GPUを持たないFX環境のために、消費電力が少なめのエントリークラス『RADEON HD7750』搭載のグラボも追加している。
●AMD FXシリーズ環境
CPU:AMD『FX-8350』(4GHz、8コア8スレッド)/『FX-8150』(3.6GHz/8コア8スレッド)
マザーボード:ASUSTeK『Crosshair V Formula』(AMD 990FX+SB950)
メモリー:PC12800 DDR3 4GB×2
グラフィックボード:ASUSTeK『HD7750-1GD5』(RADEON HD7750)
ストレージ:インテル『SSDSA2CW120G3K5』(120GB SSD)
電源ユニット:玄人志向『KRPW-G630W/90+』(630W、80PLUS GOLD)
OS:Windows7 Professional SP1(64ビット)
ドライバー:Catalyst 12.9(β)
●AMD Aシリーズ環境
CPU:AMD『A10-5800K』(3.8GHz/4コア4スレッド)
マザーボード:MSIコンピューター『FM2-A85XA-G65』(AMD A85X)
その他のパーツは共通(グラフィックボード除く)
●インテルCore iシリーズ環境
CPU:インテル『Core i5-3570K』(3.4GHz/4コア4スレッド)/『Core i3-3225』(3.3GHz/2コア4スレッド)
マザーボード:ASUSTeK『P8Z77-V PRO』(Intel Z77)
その他のパーツは共通(グラフィックボード除く)
ひとつのコアなら弱いが、8つ集まれば炎となる!
ではCPUの計算力が問われる『CINEBENCH R11.5』からテストしてみよう。1コアの処理性能が悪いのが旧FXのネックだったが、IPCの向上でどれだけ改善しているのか?
前世代のFX-8150を基準にした場合、FX-8350の性能は13%前後の向上。前述の15%には及ばなかったが、かなり近い上昇率だ。1コアだけの処理性能はCore i3-3225以下というのはA10-5800Kと同じ傾向だが、8コア全部使えばCore i5-3570Kを上回った! 4コア4スレッドに8コア8スレッドのCPUが勝つのは当たり前じゃん……と思うだろうが、1万8000円前後で買えるCPUと考えるなら、FX-8350はある意味トップに立ったと言えるのではないか。
動画エンコードでは性能が発揮できない?
8コアCPUの使い道として考えられるのが動画の2パスエンコード。速度だけならCore iシリーズのQSV(クイック・シンク・ビデオ)が最強だが、画質の悪い1パスエンコードだけ。高画質で残したい場合はCPUでじっくり2パスでエンコードするのが定石だ。
そこで『TMPGEnc Video Mastering Works 5』を使い、再生時間1分7秒のAVHCD動画(1920×1080ドット、約212MB)をiPad用のMPEG4(1280×720ドット、VBR)に変換する時間を比較した。ビットレートなどはデフォルト、エンコーダーはCPUのみを使う“x264”に統一している。
CINEBENCHでは健闘したFX-8350だが、動画エンコードではCore i5とi3の中間の性能にとどまった。ソフト側の最適化の問題や、AMDによるSSE1~4の実装がいまひとつという要素も考えられるが、やはりBulldozerに由来するコア自体の処理効率の悪さがここまで足を引っ張っていると考えられる。
ゲーム性能はどうか?
ではCPUパワーをそれほど要求されないゲームでの性能はどうだろうか? 『The Elder Scrolls V』を使って実験した。解像度は1920×1080ドット、画質Highで高解像度テクスチャーパックを入れた状態で、フィールド移動時のフレームレート(単位:fps)を計測した(『Fraps』を使用)。Core i3/i5の内蔵GPUだとキツすぎるため、両CPUにはRADEON HD7750を追加して検証している。
平均fpsはどちらも同じようなものだが、最低・最高fpsともにCore iファミリーのほうが高い。コアの処理効率やメモリー転送の効率など、総合的に現在のCore iファミリーに追いつけてないことがわかる。
総合性能ベンチマークではどうだろうか?
総合ベンチマーク『PCMark7』の結果もチェックしてみよう。ゲーム/クリエイター向けアプリ/ウェブ利用/ストレージの各分野を満遍なく評価する“PCMark Suite”のスコアーを比較してみた。ここではプラットフォームとしての比較をするため、内蔵GPUが使えるものは内蔵GPUを利用している。
このテストでもスコアーはCore i3-3225程度とやや厳しい評価。FX-8350はRADEON HD7750を組み合せているのでゲーム性能は良好なのだが、動画のエンコードやデータの復号処理などでCore i5-3570Kに大きな差をつけられてしまった。
消費電力をチェック
今は消費電力も決しておろそかにできない性能のひとつだ。『Watts Up? PRO』を使い、システム起動から10分後およびCINEBENCH実行中のピーク値を計測した。FXシリーズはグラフィックボードのぶんどうしても不利になるため、ここではグラフィックボードを追加した数値も比較する。
FXシリーズは新旧ともに32nmプロセス、TDP125Wなのである程度は予想できたが、正直ここまで差がつくとは予想外。同じPiledriverベースのA10-5800Kは、アイドル時の消費電力だけは優秀だったが、FX-8350は66ワットオーバーとかなり大飯食らい。テストに使ったマザーボードがオーバークロック向けのハイエンドモデルだから、という要素を考慮しても、新FXシリーズはおせじにも省電力とは言えない。
まとめ:オーバークロックで遊ぶには良いが、消費電力は考えもの
性能的にはじゃっかん不満はあるものの、FX-8350は8コア/4GHz動作でオーバークロックも楽しめると、かなり遊べる要素を備えたお買い得感がある。先日発売されたTrinityといい、安くて遊べるCPUを生み出す点では、AMDはかなり頑張っていると感じる。
しかし、今回の新FXシリーズを見て感じるのは消費電力の異様な高さ。これだけCore iファミリーに差をつけてしまうとやはりユーザーとしては腰が引けてしまうものだ。ここはひとつ、RADEON HD7000番台のようにワットパフォーマンスに全霊を傾けたCPUも作って欲しいものである。
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