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スマートテレビ大激論 (第2回)

これからのテレビ設計と、ソーシャルの力

2012年10月13日 15時00分更新

 未来のテレビはリモコンがなくなる!? 日本テレビのデジタル革命児・安藤聖泰氏と、アスキー総研の遠藤所長が、テレビの可能性について対談。テレビ論からFacebookマーケティングまで、熱く語りあいます!

安藤聖泰

スマートテレビ大激論

日本テレビ放送網株式会社 編成局メディアデザインセンター所属。2010年より、IT情報番組『iCon』のプロデューサーを務める。さらに、ソーシャルを活用したテレビ視聴サービス『JoinTV』を立ち上げ、日本テレビにおけるデジタル戦略を担っている。

遠藤諭

スマートテレビ大激論

アスキー総合研究所所長。デジタル・IT関連のコメンテーターとしてテレビや雑誌等でも活躍。ブログ『遠藤諭の東京カレー日記ii』を週アスPLUSで連載中。

■「テレビを見ていない時にもなにかできないかなという思いがあった」

遠藤 『私は未来に住んでいる』というニューヨーク・タイムズのコラムニスト、Nick Bilton氏が書いた本があるんですよ。『I Live in the Future & Here's How It Works』って、すごい大上段の書名ですよね。「未来に住んでるから、俺の言うとおりになる」ってことなんだと思うんですけど。要するに、あらゆるメディアが融合したりリンクしあったりして、なにが重要になるかとというと、“ストーリーテリング”だって言うんですよね。単純にコンテンツがぼんと出てきて、みんなで見るというのではなくて、物語性というのが大切になってくると。

スマートテレビ大激論

 ユーザーが見て、なにが起こったかとか理解する。ネットではそういうことが多いんですよね、たとえばスーザン・ボイルがなぜ出てきたとか。そういうのがすごく重要で、いかにそれをプロデュースするかみたいなことが大事になると。そういうときに、テレビ局って、やっぱり茶の間の中心的なメディアだから一個のキーですよね。

安藤 「さあ、なにをやろう」みたいな話ですよね。

遠藤 そういう時代には、もうリモコンじゃなくなる?(笑)

安藤 いや、リモコンがなくなるとややこしい話になってくるんですよ。たとえば操作がセカンドスクリーンになってしまうと、人の目線がどうなるか。コンテンツがこっちにも存在しているのは、なんかそれは……。

遠藤 スマートフォンやタブレットをテレビと連携する“セカンドスクリーン”の議論とかもそうですね。

安藤 だからスマホがコントローラーになるのはあるとして……。僕はテレビでソーシャルをどうやろうかと何年も前に考えたときに、ラジオってすごくツイッターと相性がいいなって。そもそも企画そのものが、お便りを読んだり、メール投稿を紹介するとかなので。視聴者は耳でラジオを聴き、あまっている目でツイッターなどを見られるんです。

 テレビの場合は、スマホがリモコンの代わりになるのか、テレビのもう一個のサブディスプレーになるのか。セカンドスクリーンって、スクリーンという名のコントローラーなんです。だからコンテンツやサービスが、スマホをコントローラーと見るかディスプレーと見るか。我々つくる側としてはどう使っていくか。セカンドスクリーンと一言で言えば簡単ですけど。

遠藤 その設計をどうできるかが勝負、だと思いますね。

安藤 単純に選択肢が増えたと見ればいいだけですが、今は。

セカンドスクリーン

スマートテレビ大激論

↑IFA2012のパナソニックのカンファレンスでは、タブレットでテレビの映像を見る“セカンドスクリーン”のデモ映像が紹介された。

遠藤 昔だったらザッピングしてチャンネル変えるところを、変えないでアプリの『wiz tv』を見ると今どれが盛り上がっているかわかるとかはおもしろい変化だなと。ちなみに、wiz tvって、日テレをちょっと水増しとかしてないですか?(笑)

安藤 してないです(笑)。見てもらえばわかるけど、各局の人気番組のグラフが高いのを見てもらえば正直なところがよくわかると思う。

遠藤 わざと言ったんですけど(笑)。

安藤 あれはだからもう、社内的にももっと、がんばろうぜみたいな(笑)。他局の情報とかも出したりして。

遠藤 ムチャクチャですよね、他局の宣伝になってる可能性があるわけじゃないですか。

安藤 ムチャクチャですよ。これたぶん、何年か前の日本テレビだったらありえなかったんじゃないですか。ま、いまだに他局ではありえないと思いますけど。テレビっていうパイ自体をなんか盛り上げる工夫をできればいい。あとはチャンネルを選ぼうって。

 wiz tvって“テレビを見ながら使う”という発想もあるんですけど、実はテレビを見ていない時にもなにかできないかなという思いもあったんですよね。暇なときとかにアプリを立ち上げて今なにやってるんだとか。テレビの前にどう来てもらおうかという。でも、あんまり大層な戦略ではないんですよ、盛り上げようぜっていう程度の。

遠藤 暇なときにセカンドスクリーン見ていて、家帰るとそれがついてたらこわいね。

安藤 あ、それやりたいですね!

■「JoinTVの発想って、石川五右衛門的だよね」

遠藤 レコーダー『SPIDER』を作っているPTPという会社がいろんな実験やってるらしくて。たとえば番宣を見てからその番組を見ると、チャンネルを変えない比率が高いとか、本来ならテレビ局がやっているべき実験をやっているらしいんです。

 僕はアナログ放送版を使っていたんですけれど、番組が終わるとSPIDERはスクリーンセーバーモードになってしまう。スクリーンセーバーには全録して蓄積されている番組から適当なものが表示されて、けっこう見ちゃったりするんだよね。偶然に見るってすごいテレビ的なことじゃないですか。単に時間的なたまたまじゃなくて、SPIDERがなにかの基準で出してくる。そこはすごいなぁと。

安藤 テレビの唯一・最大の強みは、現在のテレビの受信機にすべて入っている統一ブラウザーだっていうことなんですよ。携帯だって今までキャリアごとに違うブラウザーだったし、PCの世界だってIEだChromeがある。一部を除けば、ほとんどテレビというデバイスはBML(Broadcast Markup Language)というブラウザーになっている。

遠藤 前にも言ったけど、僕はJoinTVの話を最初に聞いたときは痛快だった。っていうのは、普通ああいうことってのはデジタル機器でやることなのに、忘れ去りそうになっていた地デジのDボタンという。

安藤 放送局も一部では忘れかけてましたからね。

遠藤 それをまんまと使ってやった、石川五右衛門じゃないんだけど、誰も気付かないうちにサッと使ったという。地デジのDボタンって、スマートテレビが来たらもう終わりじゃないかみたいなものと、Facebookのいちばん新しいものをつないじゃった。あれは、オープングラフAPIを使ってるんですよね? 去年9月にリリースしたばっかりのオープングラフAPIと組み合わせたという、その意外性という痛快感。僕の最初の興味はそういう感じだったんです。

■「オープングラフのパワーってあるな、を感じている」

安藤 去年9月に、まさにFacebook社のサンフランシスコのマーク・ザッカーバーグが目の前で発表しているところにいて、オープングラフを発表した時に、「やばい、これテレビでできる」と思った。

遠藤 Pinterestなんかはうまく、ちゃっかり乗った系だけど。その後うまく波に乗ってるところって意外にないですよ。あんなすごい仕掛けなのに。そのうち、あらゆる人間の行動が文字どおり一挙手一投足が表示されちゃうんじゃないかなと思ってたんですけどね(笑)。“○○さんが右腕あげました”とかね。

安藤 オープングラフを管理するプラットフォームは、みなさんが用意してねっていう発想なんですよね。

遠藤 “いいね!”よりハードル高そうですね。

安藤 “いいね!”は、Facebookがサポートしているアプリケーション。でも、たとえば“ウォッチ”という、JoinTVが使っているタグ“視聴中です”は、日テレが全部つくっている、その管理からなにから。

遠藤 ある種、mixiアプリ的な感じで自分で用意しないといけない。

安藤 まさにそうなんです。Facebookアプリとしてきっちり動作をするプラットフォームとか、友達関係とかも全部管理してやれと。だから、意外にハードルが高い。

遠藤 なるほど、それは大変そうですね。

安藤 JoinTVで番組中にシェアとかできる仕組みをつくってるんですけれど、オープングラフ経由で見ている人が多い。予想外に来ているんで、オープングラフのパワーっていうのはあるなっていうのは感じてはいるんです。

 あと、JoinTVに入っている人以外にも見えちゃうところがすごいところですよね。たとえば100万人が見ている番組でいろいろやっても、やっぱり100万人にしか伝わっていない。それが、オープングラフを使ったり、シェアや“いいね!”の仕組みをつくることで、100万人の内わざわざDボタンを押して頑張ってくれた人がその内の10分の1だったとして、さらにその中でネット接続しているのが10分の1、視聴者の内の100分の1しかやってなかったとしても、その人の友達のうち100人に伝われば、200万人に届いたことになる。

 テレビ放送の価値を、今までテレビだけでできなかったリーチをソーシャルの力を借りることによって伝播できる。伝搬の形は、テレビを見ていた形とは違うものの、でももしかしたら番組が伝えたかったこと、スポンサーが伝えたかったこと、そういうものを、テレビを通じて伝播できるっていう意味は大きい。

遠藤 一番いいのは、たとえば僕がなにかの番組を見ているというアクティビティがFacebookのフィードに出てきた時に、そのままその番組が頭から見れたらいいんですよね。

安藤 そこ来ますね。僕らもいつかはやりたい。やってないけど、システムとしてはすぐやろうと思えばできる。見逃し動画にしてみたいですね。ビジネスモデルだけのことを考えたら、視聴者の皆さまに申し訳ないけど、たとえば『家政婦のミタ』を見て“いいね!”を押して友達がそれをクリックしたら、“『家政婦のミタ』日テレオンデマンドで1話○○円”ってやることはできるんですよね(笑)。

■「Facebookのキモは“いいね!”数じゃなく、エンゲージメント率」

遠藤 僕も『東京カレーニュース』っていうFacebookページを始めてわかったんだけど、個人アカウントでやっているのと、Facebookページを持つことってまったく違っていて、持った途端にFacebookの意味がわかるんですよね。やっぱりエンゲージメント率を気にしなさいってことね。

『東京カレーニュース』

スマートテレビ大激論

安藤 反応とか。

遠藤 そうそう。Facebookで重要視されている指標のひとつがエンゲージメント率という、反応数を会員数で割ったもの。反応数は、“いいね!”+シェアの数+コメントの数。なんと、このまったく違う属性のものを強引に足しちゃってるところがすごいんだけど、それを会員数で割った数字なんですね。ということは、ものすごく会員数は多いんだけど反応の少ないものはなにも生み出さないって彼らは経験的に知っているわけですよ。会員数が少ないけどそのわりには反応がある。仮に実数が少なくても密度が濃いものはなにかを生み出すわけですよ。

 そういう意味じゃ、ページのコミュニティーのサイズをどう設計するかも、ものすごく重要になってくる。日本テレビのページとかも、たぶんもっと細かくなっていくんじゃないかと。番組ごとになるとかね。ソーシャルメディアだから、むやみに新しいページを増やせばいいわけじゃないけれど。むしろ、そうしたソーシャルメディアにはみ出した部分まで含んでテレビ、みたいな。

安藤 今、エンゲージメント率という話がありましたけど、たとえばそのFacebookページで、何十万人とか集めたページがありますと。で、そのページでただ確かに情報を発信しているだけだったら、マスと同じことをやっているに過ぎないんですよね。それだったらマスがやります。とはいえ、今までの広告業界的な考え方とか古い考え方で言うと、“いいね!”はいくつあったの? フォロワーは何人あったの? というところばかり見ている。「相互フォローしたらフォロワーが増えます」とか、そんな小手先のテクが横行しちゃう。

 マスと同じことをやったらマスに勝てないです、その世界だったら。この間、某住宅メーカーのFacebook担当者とたまたま話す機会があって、その方が言っていたのは、モデルルームにお客さんが来たら、3人に1人は買うらしいですよ。

遠藤 え〜!

安藤 リアルな話。リアル営業の話ね。

遠藤 そんなに……。要は買おうと思ってきているわけですよね。

安藤 そうなんですよ。買おうと思ってきている。とはいえ、来させるまでが大変。逆に言うと、その会社はコミュニケーションの達人。言い換えると、エンゲージメント率のやり手の集団なわけですよ。で、その方たちが言っていたのは、マスで広く蒔いても脱落率が尋常じゃないわけですよ。

 コンビニならCMで見たからこれ買おうってなるんですけど、家くらいの規模になると、テレビでやってたからこれにしようとかじゃなくて、相手が信頼できる人とか人間性とか。その住宅メーカーのFacebookだと、完全にFacebookページが営業マン状態になっている。一般の方から「うちの家を建てた時にお世話になった○○さんもFacebookページで紹介して」と言われて、Facebook担当者はわざわざその地域に出張して取材して載せる。すると自分たちが「お客様の評判がすごくいい住宅です」なんて言わなくても、一般の人たちがすごくよく書いてくれる。

 そのページ見に行くと、確かに“いいね!”の数が少ないんですよ。大企業の“いいね!”数に比べて少ない。だけど、ものすごい効果を生んでるので、尋常じゃないエンゲージメント率なんですよ。あー、ソーシャルの使い方はここに来たな、っていうのをすごく感じた。だから、もしうまく連携できたら相当強いはずなんですけどね。

 ますますヒートアップしていく2人の対談。次の、放送と通信の融合をめざす“ハイブリッドキャスト”については、安藤氏が熱く語ります! 乞うご期待!

【第4回】ネット時代のテレビコンテンツとは?
【第3回】ハイブリッドキャストの抱える問題点
【第2回】これからのテレビ設計と、ソーシャルの力
【第1回】JoinTVの反響とテレビが抱える課題とは?

日本テレビでは、2012年10月19日(金)、26日(金)に放送される“金曜ロードSHOW! 20世紀少年 サーガ”でソーシャルテレビ視聴サービス『JoinTV』を利用した新コミュニケーション機能が楽しめます(第1回は10月12日(金)に放送済み)。JoinTVのサービス概要、登録方法については下記サイトをご参照ください。
「JoinTV」ホームページ(外部サイト)

2012年10月16日(火)に、安藤氏と遠藤氏が登場する“日テレJoinTVカンファレンス2012〜ソーシャルとテレビの明日を語る〜”が開催されます。このカンファレンスは関係者向けのクローズドなイベントのため、参加者がすでに定員に達していますが、下記アドレスでライブ配信が予定されているので、ぜひご覧ください。
日テレJoinTVカンファレンス2012〜ソーシャルとテレビの明日を語る〜(外部サイト)

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