映画『おおかみこどもの雨と雪』が7月21日から公開される。細田守監督作品としてストーリーやアニメ表現などが大いに話題になっているけれど、同時に魅力的なのが主題歌「おかあさんの唄」をはじめめとする劇中音楽(劇伴)。
映画を見終わった後に思い出す優しいメロディー。初めて長編映画への音楽を手がけた高木正勝さんに、どのような思いで制作されたのか、話をうかがった。
高木正勝
音楽家、映像作家
●プロフィール
1979年生まれ。京都在住。2001年ファースト・アルバム『pia』(映像作品を収録したCD-ROMとの2枚組)をリリース。美術館での展覧会開催や、世界各地でのコンサート活動などジャンルにとらわれない活動を展開。2009年、Newsweek日本版「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれるなど世界的に注目を浴びている。
■初めての長編映画の劇伴ということで、製作時に特に意識された点はありますでしょうか。また、従来の音楽制作と違った部分はありましたでしょうか。
いままでの仕事だと、家でひとりで完成させることがほとんどだったので、たくさんの人と一緒にいいものを完成させるには、どういう風に物事を進めればいいのか、色々と工夫しました。
はじめのデモ出しの段階は、完成形を考えずに、思いついたままピアノと歌声をスケッチのように録音して送るように心がけました。最初から「この曲はこうだ」と決めてかかると、後々融通が利かなくなって、変更に対応できなくなったり、一緒に仕事する人もやりにくくなるだろうなと感じたので。原石のような形のデモを作って、あとは完成された動画に合わせて、大胆に整え直すやり方を採りました。いつもだったら、最初から本番のつもりで全ての音にこだわって作り込んでいきますが、今回は、アイデアの段階で留めて、それを皆で共有して、どう膨らませていくか、きちんと相談しながら進めました。バンドを組んだような感覚で楽しかったです。
■主題歌『おかあさんの唄』では細田監督が作詞されていますが、詞(言葉)についてどう感じましたか。
実際に声に出して読んだり歌ったりすると、自分がお母さんになったような気分になる不思議な詩だと思います。まるで手紙のような、おまじないのような詩。はじめて声に出して歌ったとき、自然と泣いてしまいました。10年に一本の傑作だと思います。
■劇伴はオーケストレーションでの演奏でしたが、楽器(音色)への意識はあったのでしょうか。
映画全体が起承転結みたいにAパートからDパートまで、大まかに4つに分かれていたのですが、各パートで年代や場所、状況がまったく違ったので、メリハリがつくように工夫しました。4つの映画音楽を一気に頼まれた気分で。例えば、Aパートはピアノと弦楽器を中心に、Bパートはギターと木管を中心に、といった感じで楽器の編成が被らないように気をつけました。大人だけが出てくるシーンと、子どもが出てくるシーンでは、やっぱり軽やかさに違いがあるので、大人のシーンは落ち着いたしっかり包み込むな音色を、子どものシーンは丁寧な音じゃなくて元気な音、例えば笛を強く吹いてプピーと鳴らしたり。そういう変化を心がけました。
■物語はこどもたちが成長する12年間を2時間で描いています。音楽についても、テンポについて、あるいは濃縮されたものを詰め込む感覚があったのでしょうか。
完成された映画を観ると、ほんとうに凝縮されたいたのだなと感じ入りましたが、制作中はひとつひとつのシーンに集中していたので全体の構成はあまり気にしていませんでした。それぞれのシーンがきちんと成立していたら、この映画は大丈夫だと思ったので。凝縮した感じが出たのは、各シーンがきちんと独立して成り立っていたからかなと思いました。
■映像作家として、本作の映像(アニメ)について、どのような印象を受けましたか。
以前、簡単なアニメーションを見よう見まねで作ったことがあったので、様々な点で圧倒されました。
美術がここまでざわざわと動くアニメーションもなかったかと思いますし、子どもの描写も「よくぞ、この仕草を描いてくれた!」と唸ってしまうシーンが多くて。ある時期の子どもって、どこに重心があるのかわからない、ふにゃふにゃした走り方をするんですよ。言われてみれば当たり前のことなんですが、よく見ないと気付けないことなので。完成された画面を見て、とにかく驚きました。
いままで自分の映像で実現したかった表現に挑戦できたことが何より嬉しいです。とくに雪山を家族が駆けるシーンをあのような形で完成させられたこと、とても誇りに思ってます。
■最後に。今後のご予定など、このようなことがしたいなどありましたら教えていただけますでしょうか。
10月17日から21日まで新国立劇場で森山開次さんのダンス公演「曼荼羅の宇宙」の音楽を手掛けます。ピアノ演奏で出演もする予定です。
しばらく音楽の仕事が続きましたが、来年に向けて映像制作も少しずつスタートさせています。
『おおかみこどもの雨と雪』
●全国東宝系にて公開中
監督・脚本・原作 細田守
脚本 奥寺佐渡子
キャラクターデザイン 貞本義行
音楽 高木正勝
(c)2012「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会
●関連サイト
映画『おおかみこどもの雨と雪』公式サイト
Takagi Masakatu(高木正勝公式サイト)
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2,350円
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990円
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