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引越し記念! よりぬき東京カレー日記(6)

WiiのリモコンとHEINZのトマトケチャップ

2007年01月08日 18時00分更新

引越し記念! よりぬき東京カレー日記(6) WiiのリモコンとHEINZのトマトケチャップ

 毎年1月にラスベガスで開催されているのが「CES」(コンシューマエレクトロニクスショウ)という家電とコンピュータとカーエレクトロニクス関連の見本市。私も何度も出かけているのだが、部屋でレポートなんかを書いている途中で腹減ったのでホテルのレストランに行ったときのことだ。

 カウンターにつくと隣の米国人が上手に箸を使ってホー(ベトナムの麺ですね)を食べている。この時期、ホテルの客の半分以上はCESという見本市に来ているデジタル系の方々とみてよい。私は、こちら風の皿の上にぶっちゃけたハンバーグが食べたくなって、O'DOUL' S(ノンアルコール・ビール)と一緒に注文する。

 皿の上にぶっちゃけたハンバーガーというのは、要するに上下のバンズがバラバラになったままデロ~ンとなった状態で出てくるものをいう。で、こちらでは定番のハインツ(HEINZ)のトマトチケチャップとマスタードが出てきた(キャッチフレーズの“57”って奴ですね)。

 ハインツのトマトケチャップって、日本でもホットドッグに塗ったやつがジェットコースターに乗っても飛ばないよなんてテレビ広告をやっていたことがある。つまり、ゆるくない。私は、それをフレンチフライの横に出したくなって瓶を振ったり、逆さにして瓶のお尻を叩きまくったりしていた。しかし、出ないのだ。

 かなり真剣に力を入れているのだが、出ない。なんとなく、任天堂のWiiのリモコンの操作がうまくいかなくて、空振りを繰り返している感じ。それで、それ以上ガラスの瓶を振り回すのはやめて一瞬躊躇して、「まいったな」という感じになっていたのだと思う。

 すると、ホーとは反対側でビールを飲んでいたオヤジが「かしてみな」と言う。で、お皿の手前に手の平を縦に立て、その人差し指の上あたりに瓶のほどよい位置をあてるようにして軽くトントンとやると、アラ不思議。中から、ペロンと舌を出すように垂れてくるではないか!

 オヤジがいうには「瓶の中に泡を発生させるのだよ」だそうだ。それを、カウンターの中の3メーターくらい先から見ていたオバチャンも、もうひとこと言いたいらしく「瓶の横上の“57”と浮き彫りされたあたりをやるのよ」と、ちょっと大声で説明してくれた。

 ところが、部屋に戻ってネットで「ハインツ日本株式会社」のページを見ても、このノウハウのことは見あたらない。それどころか、ハインツ日本株式会社の独自開発らしい「逆さボトル」なんてのがあって「液ダレしないノズルと逆さに置ける洗練されたデザインのボトルが特長です」などと誇らしげに書いてある。

 なんたることか! あのトントンのエレガントな出し方を知らしめる努力もせず、逆さボトルなんぞというものを発明してしまったとはな。だって、ケチャップは、断然、あのガラスの瓶がいい感じじゃないですか! といっても、米国でもガラス瓶入りは、こういうお店でしか見たことがないような気もするが。

 いずれにしろ、日本ではあのトントンってあまり知られていないと思う。ネットで探していくと、ようやく1件だけ、ハインツのトマトケチャップの上手な出し方を書いている人がいる。その回答者のブログに「1年間の滞在では、上手な出し方がわからずじまいでした…涙」などとコメントしている人に対して、その人は、あるスポーツバーでオジサンから教えてもらったとある。いわく、「1.瓶をまっさかさまでなく、45度に保つ。2.瓶上部に貼られてる“57”というラベルの“57”の数字のところを、こぶしでコツコツコツ・・・とたたく」とある。

 ははは、私と同じような目にあったわけなのねと納得したつもりが、よく見ると私が教わった方法とこの人が書いている方法、ちょっと違うではないか? ほぼ水平に軽くトントンが正しいのか、45度でこぶしでコツコツが正しいのか?

 実は、これには後日談がある。CESの会場からMacworld Expoのためサンフランシスコに移動して、数ヵ月前に、アップルに入社されたことがニュースにもなったMさんとお会いすることがあった。そこで、ユーザーインターフェイスの大家であるMさんに、「HEINZのトマトケチャップの出し方なんですが……」とふってみた。すると、返ってきた答えは、

「HEINZはペンシルバニアの会社なんですよ。ボクはペンシルバニアに住んでたんだけど、そういう話は聞いたことがないなぁ」

というのだ。Mさんは1989年~1991年にかけてカーネギーメロン大学の客員研究員をされていたとのこと。逆に、「HEINZのラベルの形はペンシルバニア州のマークの形なんですね」ということを教えてもらったのだが……。

 この話には、さらに後日談があって、京都大学化学研究所複合基盤化学研究系分子レオロジー研究領域のMASUBUCHI准教授のブログからトラックバックがあった。「まさにレオロジー(Rheology)である」であるというタイトルで、このケチャップに対する取り組みは立派な研究分野らしい。ということで、以下のような興味深い提案もされておりました。

「ケチャップはチキソトロピー流体です.チキソトロピー流体とは,液体そのものに力を加えると流れ出す,いわゆる構造粘性をもつ流体です.(中略)結論として(紹介したブロクでは試みられていない方法として)瓶に携帯をくっつけた状態でマナーモードで着信させる,を提案したいと思います.実験していないですけど.」

【筆者近況】
遠藤諭(えんどう さとし)
アスキー総合研究所所長。同研究所の「メディア&コンテンツサーベイ」の2012年版の販売を開始。その調査結果をもとに書いた「戦後最大のメディアの椅子取りゲームが始まっている」が業界で話題になっている。2012年4月よりTOKYO MXの「チェックタイム」(朝7:00~8:00)で「東京ITニュース」のコメンテータをつとめている。
■関連サイト
・Twitter:@hortense667
・Facebook:遠藤諭

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