新しいiPadが発表された。日本でも3月16日から販売が始まる。iPadのカテゴリーとしては第3世代目にして、初めて米国と同じ日(※時差の関係で実際は日本が先行)から出荷が行なわれる製品となる。米国で行われたプレゼンテーションの内容や、ニュースリリースでも第3世代という言葉は用いられているが、製品名は『iPad』。米国では“The new iPad”、日本では“新しいiPad”と同社の公式サイトには綴られている。発表前に噂されたように3番目の製品なのだから“iPad 3”、あるいは2048×1536ドットの高精細液晶パネルを搭載しているのだから“iPad HD”、どちらでも辻褄はあうはずだ。なぜ、もう一度『iPad』なのか? 製品発表のプレゼンテーションと実機のハンズオンから、その意味を考えてみた。
↑iPadとしては初めて米国と同時に日本での販売が開始される。 |
すでに報道されているとおり、もっとも目につく特徴は高精細液晶パネルによるスクリーン表示だろう。ひと目見ると明らかに綺麗というか滑らかな表示であることがわかる。特に元々の素材が高解像である写真や、あるいはWebサイトの日本語表示を小さくして見ると顕著だ。PCやMacでも同じだが、フォントサイズを小さくすればするほど文字を示す範囲は狭くなってドットが減り、文字のラインに滑らかさがなくなる。この閾値にとても余裕がある。標準搭載されているアプリならマップで衛星写真モードに切り替えてみてもいい。ハンズオンでは従来モデルとの比較写真は許可されないので、新旧モデルを並べての比較は掲載できないが、このスクリーンは是非ともその目で確かめてもらいたい。従来モデルとなるiPad 2が16GBモデルのみ継続販売されるのは、その違いを店頭で実際に比較するためではないかと勘ぐってしまうほどだ(もちろん、従来モデルの継続販売には別に本来の意図が存在する)。
↑高精細液晶パネルのRetinaディスプレーを紹介。比較はいずれも写真右側が新しいiPadで、左側が従来のiPad 2。
プロセッサーはGPUコアを4つ搭載するA5X。これは上記の高精細液晶パネルを運用するために必要となった能力に該当する。2048×1536ドットは従来モデルと比べると縦横ともに2倍、密度は4倍ともなる。単純に4倍になった情報量を従来と同様、あるいはそれ以上に滑らかに処理し、画面を表示したり画像編集やゲームなど内部での演算を行なっている。
↑Retinaディスプレーのために設計されたA5Xプロセッサー。 |
リア側のカメラはiPhone 4Sと同様に裏面照射型に変わり、1080p最大30fpsのHD動画撮影に対応する。フロント側は従来通りFaceTimeカメラだが、リア側にはiSightカメラの名称が新たに付与されている。このカメラを活かすアプリが同時に発表された『iPhoto』と、バージョンアップして機能とUIが一新された『iMovie』となる。
↑リアには5メガピクセルの裏面照射型カメラを搭載。 “iSightカメラ”の名称が付いた。 |
Mac向けにプリインストールアプリとして提供されているiLifeだが、iOS向けには、これまでは順次、開発と搭載が行なわれてきた。iMovieは2010年6月にiPhone 4と一緒に発表され、『Garageband』は2011年3月にiPad 2と一緒に発表された。そして今回、iPhoto発表に至り、ようやくMac向けと同じiLifeのラインナップが出そろった。なお、iPad 2と同時に発表された『iWork』もバージョンアップされている。
プレゼンテーションでは先に製品仕様が発表され、サードパーティーから開発中の2本のゲームタイトルと、ドロー系画像編集ソフトがデモンストレーションされた。そして、前述のiLifeシリーズであるGaragebandとiMovieのビデオ映像を紹介、iPhotoのデモが披露された。外観がさほど変わらない点や、ユーザーを驚かすような追加機能がないことで、やや期待外れと考えるユーザーもいるかも知れないが、本質はこれらソフトウェア部分の充実にある。
↑ナムコによるゲームの紹介。 |
↑Autodeskによるドロー系お絵かきソフト。 |
↑EpicGamesによるInfinity Bladeの新作はダンジョン探索型。 |
↑同時に発表されたiOS対応の『iPhoto』。写真のようなクロップや傾き補正が指先だけで行なえる。 |
↑iPhotoに搭載される各種フィルター。 |
↑iPhotoに搭載されるブラシや補正といった編集機能。 |
↑iPhotoのジャーナル機能。アルバムのレイアウトやサイズ変更、位置情報、撮影時の天候などを付加して共有できる。 |
↑音声認識による文字入力。日本語キーボード表示時には日本語で、英語キーボードでは英語として認識される。なお、SiriはiPhone 4Sのみの機能で、新しいiPadに搭載されるのは音声認識による文字入力機能のみだ。 |
↑写真では伝えきれないが、iPadのRetinaディスプレーによる高精細な表示は実物を見ると驚くものがある。 |
プレゼンテーションのなかでティム・クック最高経営責任者がグラフを示して強調するまでもなく、現時点におけるタブレット分野の覇者はiPadである。これは圧倒的なシェアをもち、競合が束になっても競合とはなり得ていない現状だ。また、日本ではまだ提供されていないコンテンツが多いとはいえ、音楽、映像、そして電子書籍分野における巨大なコンテンツデリバリー能力とフォーマットをすでにもっている。あえて何かを奪いにいくという緊急的な必然性は少ない。そこでAppleが考えたのは、iPadの再定義なのだろう。
↑前四半期におけるiPadの出荷数。タブレットではなく他社のPC出荷数と比較している。価格帯も異なるため、同等な比較とは言えないが、タブレット分野に絞ればこれ以上に大きな差が存在することになる。 |
高精細液晶パネルは、iPadのセールスポイントのひとつでもある電子書籍ビューアーとしての能力を向上させる。Retinaディスプレーの名称のとおり、これが本来目指していた解像度なのかもしれない。高機能なプロセッサーはこの表示を支えるほか、ゲームなどのエンターテインメントをより強化する。iSightの名称があらためて付与されたリアカメラ、そしてiLifeとiWorkシリーズのラインナップをMacレベルにまでそろえたことは、タブレットがコンテンツを消費するビューアーとしてだけではなく、コンテンツをつくるための機器としても機能することを示している。
初代製品と比較すれば、フロント・リアカメラが加わった。後述するモバイル通信環境も向上した。モバイル通信時のiTunes Storeからのダウンロードサイズ上限も20MBから50MBへと緩和された。iPadが初めて登場した2年前には技術的に、あるいはコスト的に困難だった部分をあらためて解決し、Appleとしてあらためてユーザーに問うタブレットという形が今回発表された”新しいiPad“となる。あえて数字などを付加せずに再び『iPad』として世に出したことは、そうした意味が込められていると筆者は考える。
さて、そうしておそらくは目指すべき仕様となったiPadにおけるモバイル通信環境だが、米国では4GとしてLTEが利用できる。モバイル通信環境の3Gから4Gへのステップアップは、高精細液晶パネルや高機能プロセッサー搭載と並ぶ、iPad再定義の重要な要素と言える。米国ではLTE対応キャリアとしてAT&TとVerizonが選定され、iPad Wi-Fi+4Gモデルではいずれかのキャリアを選択できる仕様だ。
↑4G(LTE)対応まで強化されたモバイル通信環境。 |
↑北米における4G(LTE)対応のキャリアを紹介。 |
一方、日本で新しいiPadの取り扱いのキャリアとして発表されているソフトバンクモバイルは、現時点で米国キャリア同等のLTEサービスを行なってはいない。そのため、日本向けモデルの仕様表にLTEの表記はない。発表会では、モバイル通信環境についてはキャリア側からの説明のみということで、アップルからは一切の情報開示がなかった。
サイトで公開されている仕様を確認してみよう。LTEに次ぐ高速データ通信サービスとして搭載されているHSPA+(21Mbps)とDC-HSDPA(42Mbps)が日本向け製品にも含まれていることがわかる。これらの通信規格は『ULTRA SPEED』としてソフトバンクモバイルがサービス展開してはいるものの、周波数帯としては1.5GHzを使っているために、iPad側の周波数帯(850・900・1900・2100MHz)とは一致しない。残念ながら現時点ではHSPA+、DC-HSDPAともに国内での利用はできないことになる。Wi-Fi+4Gというモデル名は世界共通だが、日本国内においては、従来の3Gレベル(最大14Mbps)が上限という残念な状況だ。SIMロックの有無にもよるが、海外のパケット定額サービス利用時に(周波数帯が合えば)HSPA+、DC-HSDPAなどが利用できる可能性はある。とはいえ、まだ明確にはされていない。
こうした通信規格や料金プランに関する情報は、16日より前にソフトバンクモバイルから公式な発表が行なわれるはずだ。なお、iPad販売への参入が噂されたKDDIは、現時点で販売キャリアには含まれていない。
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