週刊アスキー 1/24号(862号)特集『2011年インターネット事件を追う!』で取材に応じてくれた、“いまいち萌えない娘”をつくった神戸新聞社 デジタル事業局・矢野正樹さんのインタビュー全文を掲載! “萌え”という概念に一石を投じた、いまいち萌えない娘はいかにして生まれたか、その秘密を聞いてみた。
Q 求人広告に“いまいち萌えない娘”が登場した経緯は?
まず、弊紙『神戸新聞』を販売している兵庫県には、サブカルチャーに関する観光資源がたくさんございます。例えば手塚治虫先生が育った街・宝塚市には“手塚治虫記念館”が、横山光輝先生の故郷である神戸には実物大の“鉄人28号”ができました。また、西宮市内が『涼宮ハルヒ』シリーズの舞台としてアニメファンのみなさんからは“聖地”と呼ばれていますし、神戸市内では数々の映画・ドラマ・アニメの撮影地や舞台として使用されています。
神戸新聞では、これらを観光資源のひとつとして盛り上げることはできないかと考え、兵庫県から緊急雇用創出事業に基づいた受託事業として、現在のサイト『いまもえ.jp』をつくることになりました。そのサイトを作成するための人材募集をすることになったのですが、ハローワークへの求人票の掲示や、新聞求人広告掲載のほかに、サブカル好きの方々に興味をお持ちいただけるような求人チラシを作成しました。ここに描いたイラストが“いまいち萌えない娘”です。「理由を3つ挙げなさい」という設問も、ただのキャッチコピーのつもりでした。ですので、“いまいち萌えない理由”の論議が起こるとか、“萌えるように描き直す”といったムーブメント、ましてやキャラクターとしてのさまざまな展開はまったく想定外でした。
Q “いまいち萌えない娘”のネットでの広がり方で、印象的だったものを教えてください?
いろいろありすぎるのですが、やはり震災に関係したことです。4月にTシャツやマグカップ、ストラップをコスパさんから発売していただきましたが、発売を発表した際に“弊社の利益はすべて震災募金に寄付する”と約束させていただいておりました。PIXIVなどで二次創作をされていた絵師さんのおひとりが震災直後、東北に救援物資を送りました。そのダンボールに“がんばれ東北!”というメッセージと、自作のいまいち萌えない娘を描いた紙を貼っておられたんです。それを、東北で救援物資を仕分けしておられた方が見つけて、「こんな救援物資もちゃんと届いていますよ」と写真付きでツイート。 「なんだかほっこりしたー!」などなどと、東北の方々を含め、とてもたくさんの方に拡散しておられました。震災後の殺伐とした雰囲気でしたが、少しでも元気を取り戻した方がおられたという話には、私たちもなんだか胸が熱くなりました。
一般の絵師さんたちによる二次創作が盛り上がりきった頃の3月に、弊社でマンガ同人誌を制作し、3月中旬の同人誌即売会で頒布する予定でしたが、震災でイベントは中止となりました。この同人誌は、採算度外視でスタッフのひとりが奥さんからお小遣いを前借したお金で印刷しておりました(笑)。なので、「ちょっと困りました」と、いまいち萌えない娘がツイートしました。すると、すぐにフォロワーの皆さんから「同人誌が欲しい!」、「通販して」、「本代+送料+募金で通販してはどうか」とアイデアをいただきまして、750円の定額小為替で通販することにしました。これをツイッターで告知したところ、平日の昼間に100冊分の予約が瞬く間にいっぱいになりました。さらに「欲しい」というご要望をたくさんいただいて、200部を増刷。これもすぐに売り切れ、計7万円ほどの募金をお預かりし募金をすることができました(スタッフも無事、前借を返済できました!)。震災当初の東北では郵便もなかなか難しい時期もありましたので、せめてパソコンはご覧いただける方のためになればと、マンガはPDFで無料配信し、これもご好評をいただく結果となりました。
震災とは関係ないところでは、ツイッターでは、サブカルの話よりも兵庫県の地域ネタの方が反応が良いようです。例えば「神戸の小学生は神戸だけのノートを使ってるねんで!」とつぶやいたとしますと、兵庫県内からは「そうそう、懐かしいー」、「あれって神戸だけなの?」。県外からは「何それ!?」、「うちの県ではそんなのないよ!」と返信が返ってきます。方言とか風習、地元オンリーの商品とか、サブカルではないのですが、全国の方に兵庫県を知って興味を持っていただく良い機会となっていると思います。また、県内からはより親近感を持っていただくことになっています。 ですから、もう“萌えキャラ”というよりも地方の“ゆるキャラ”の扱いになってますね(笑)
Q 今後の展望などありましたらお聞かせください?
'12年1月に同人誌の第3弾を出します。最初は地元の同人誌即売会での頒布ですが、秋葉原や 大阪日・本橋でご購入いただけるようにしたいと考えています。また、ギャルゲー風の神戸案内動画を公開しました。本当に最小限のアニメですが、“いまいち萌えない娘”が神戸弁でしゃべりますので、楽しんでいただければ幸いです。弊社の活動よりも、やはり二次創作をされている皆さんのおかげですので、今後もイラストや動画、同人誌などはフリーで楽しんでいただき、いまいち萌えない娘がツイッターなどで紹介してつくり手と見る側のみなさんが楽しんでいただけるお手伝いができればと考えています。2月のワンダーフェスティバルでは自作のフィギュアを頒布される方が2名おられるようですので、私たちも楽しみにしております。
いまもえ.jp(関連サイト)
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