現在、もっとも期待されている電子書籍フォーマット『EPUB3.0』。
日本語表記をサポートし、さらにJavaScriptや動画にも対応になったことで、電子書籍の新しい表現方法も生まれてきそうだ。
今夏にEPUB3.0がリリースされることで、電子書籍、そして出版はどう変わっていくのだろうか?
『電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ』をはじめとした電子書籍関連書籍を執筆しているジャーナリストの西田宗千佳氏に、EPUB3.0リリース以降の電子書籍について話を聞いた。
EPUB3.0の日本語表示例 |
EPUB3.0では、縦書き、ルビ、傍点、禁則処理などの日本語表記をサポートしている。 |
-EPUB3.0の登場で、電子書籍はどう変わると思いますか?
西田氏:これまでの電子書籍が衝撃的に変化するわけではないと思います。今ある電子書籍フォーマットと比較した場合、EPUB3.0でないとできないことはおそらく1つか2つではないでしょうか。単に読むだけなら、既存のフォーマットと大きな差はなく、3.0の登場そのものに価値はありません。しかし、世界中で使えるフォーマットの中で日本語向けのルールが使えるようになることは大きな価値があります。あえて言うならhtmlがなかった世界にhtmlが現われたようなもの。ウェブのように、世界の誰かが作った電子書籍を、自由に読むことができる、ということです。3.0になって、電子書籍を出版しやすくなるのは間違いありません。
国際的に利用される規格なので、例えば海外の端末でも初期状態からサポートされ、特別なソフトをインストールしなくても電子書籍が読める可能性がでてきます。
また、HTML5と親和性が高いため、ブラウザーで読めるようにするサービスが増える可能性も高いでしょう。閲覧ツールの自由度が高まり、これまでより多くの読者を見込めるため、作り手側がリリースするフォーマットとしてEPUBを選択する可能性が高まります。結果としてEPUBが普及する、というシナリオがありえます。
-電子書籍の作り手の環境も変わるということですか?
西田氏:作るためのツールについても、リリース後すぐには変わらないと思います。プロユースであれば、まず『InDesign』などが利用されると思います。その後一般向けとして、Windowsであれば『ワード』、MacOSであれば『iWork』などによるサポートが考えられます。フリーのツールだと、もっと早く出てくるでしょう。
長期的に見た場合、オープンな規格であるEPUBを採用するということは、いろんなツールを比較して選択することができるようになることも意味しています。
一方、十分でない点として、たとえばマンガのレイアウトを完全に再現したり、異体字にもれなく対応するといった機能については、3.0でもすぐに対応できないかもしれません。が、いろいろなメーカーが参入しやすいのがEPUBの利点です。
ただ、ツールが出てくるには最低でも2、3ヵ月かかるのではないでしょうか。
-各出版社もEPUBに対応してくるでしょうか?
西田氏:各出版社も、すぐには変化はありませんが、今後を考えた場合、XMDFや.bookのコンテンツを大量に、長期的に利用していく・作っていくつもりのところは、かなり少ないようです。
メーカーやプラットホームホルダーも同じ考えで、例えばソニーは、EPUB3.0がリリースされた暁にはメインのフォーマットにEPUBを追加採用するという動きもあるし、シャープにしても、XMDFだけにこだわるつもりはないと話しています。
出版社にしても、ツールやノウハウが揃ってきた段階で、EPUBに乗り替えることも予想されます。ビューワーにおけるフォントレンダリング品質の向上や禁則表示の高度化など、制作環境が整備されて、これまでのクォリティーが保てることが確認された段階でEPUBへの移行を進めていくことになるでしょう。
-個人のユーザーはどうでしょうか?
西田氏:同人誌出版を考えた場合、現時点で一番現実的なのは、PDFです。が、今後はEPUBも選択肢として含まれていく可能性があります。
もちろん現在でも、シャープのXMDFを作成できるツールは無償公開されていますし、.bookフォーマットのデータも一般ユーザーでも作成可能です。PDFならもっと簡単です。
現在の日本で、本気で電子書籍に取り組んでいる人にとっては、最初に述べたように衝撃的な変化はもしかしたら無いかもしれません。
もっとも重要な点は、EPUBは“世界中どこでも使える可能性があるフォーマット”であり、世界のどこかの誰かに読んでもらえるかもしれないということです。
-EPUB3.0の今後は?
西田氏:元々電子書籍ビジネスでは、フォーマットを押さえるものがビジネスで勝利するのでは、という議論もありました。が、実際に電子書籍がビジネスとしてスタートして以降、作り手の側で、フォーマットの権利で利益を出すのは非現実的だという認識が広まり、可能な限り多くのフォーマットに対応しようという流れにきています。つまり、複数のフォーマットに対応するなら変換する必要すらないですし、仮に必要な場合でも、変換ツールが出てきた段階で対応していくことが考えられます。XMDFや.bookと並べてEPUBを見た場合、結局どれもタグベースの言語なので、相互変換が比較的簡単にでき、拡張も容易です。
EPUBフォーマットが生きてくる例としては、青空文庫が考えられます。すぐではないでしょうが、EPUBフォーマットのメリットと、現在の青空文庫フォーマットをあわせて考えた場合、共存が予想されます。
今後のEPUB3.0の流れですが、具体的には3.0フォーマットが正式にリリースされてからツールが整備されるには、(先ほども言ったように)早くて3ヵ月。さらに、商業用の電子書籍が出回りだすのは、早くとも年末以降になるのではないでしょうか。
西田氏インタビューに続いて、明日7月20日は『EPUB3.0』での電子書籍の作成方法を紹介。HTMLの知識のない人でも、簡単に縦書き表示を体験できるので、お楽しみに!
なお、週刊アスキー8月2日号(7月19日発売)でも、特集記事『期待の標準規格が縦書きやルビに対応したっ!! EPUB3.0で電子書籍を作る』が掲載されているので、こちらもあわせてご覧ください。
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