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臓器の輪郭入力や金属アーチファクト除去をAIで実現

放射線治療をAIで効率化するベンチャーと京都大学病院の挑戦

ベテランと新人で大きく変わる臓器の輪郭入力をAIで

大谷:今回イーグロースさんが開発している放射線治療におけるAIの活用について教えてください。

今西:放射線治療においては、臓器のどの位置に対して、どれだけの放射線を当てるかという綿密な治療計画が事前に必要になります。そして、この計画を作るためには、そもそもCT画像を精査し、臓器の輪郭を定義し、どのように放射線を打つのかをシミュレーションしなければなりませんでした。今まで手作業だったこの作業を、イーグロースではAIの画像解析による自動化支援の研究開発を行なっています。

大谷:既存のソフトウェアでは難しいのでしょうか?

中村:はい。臓器の輪郭入力は、ベテランが描くのと、新人が描くのでは、かなり違いが出てきてしまいます。見ている画像は同じなのですが、ベテランは経験則的にどの領域までを標的として含めなければならないかがわかっています。一方、新人にとってみれば臓器は臓器としか見ないので、見えざる病巣まで標的には含めていないことが多いです。

たとえば、ベテランの場合、前立腺がんで手術後に再発しそうな箇所を泌尿器科の先生と何度もやりとりしているので、CT画像で臓器はここまで囲まなければならないということを知識として知っています。しかし、新人ではそのような経験はないし、なにより分業化が進んでいるので、標的として捉えるというところに意識が向かなくなります。

大谷:なるほど。ベテランと新人の経験差が生じる作業なのですね。

今西:はい。治療施設の方針によっても、おそらく囲み方の違いが出てきます。でも、最近はAIのような飛び道具が実用的になってきたので、われわれのようなベンチャーでも、アイデアさえあれば大手に勝てるはず。だから、現場の治療データで精度を高めていきたいのです。

深層学習により、対象臓器の三次元領域を高精度に抽出するGrowth RTV

大谷:放射線治療において、AIはどこらへんがブレイクスルーなんでしょうか?

今西:今までのソフトウェアはなんらかの形式化に基づいて開発されていたのですが、AIの場合はニューラルネットワークをどのように構築するかというより抽象的な概念によって設計を進め、最終的にソフトウェアに落とすことができます。

「AIは人間のできないことをできるのか」というのはよく聞かれるのですが、「人間が実時間かけてできないことをできてしまう」という点では答えはイエスです。同じことを少ない実時間でできてしまうのが、AIのメリットです。

中村:今まで輪郭入力は手作業だったので、時間がかかります。1症例あたり2~3時間かかることもありました。これをAIが自動で行なってくれるので、時間の使い方が変わってきます。

われわれのような大学病院で人数がある程度多ければよいのですが、地方病院や一人医長の病院の場合、輪郭入力がボトルネックになっている可能性があります。また、経験年数が短いことから輪郭入力に不安を持っている医師も多いと思います。

大谷:確かに人手不足の地方病院にとっては、医療のレベルを左右する問題ですね。

中村:はい。ややおこがましい話ですが、そのような病院に対して、当院の輪郭モデルを教師データとして使ってもらえればよいと考えています。教育的な意義もあり、治療成績のお墨付きを持った輪郭モデルを使えれば、難しい放射線治療も普及させることができるかもしれません。そういうポテンシャルを持った実証実験なんです。

大谷:属人化している輪郭入力のノウハウをベストプラクティス化するための取り組みなんですね。

中村:うちでしかできない治療を他院でもできるようになれば、いわゆる「医療の均てん化」が図れます。ノウハウ付きの技術をいろいろな医療現場で使ってもらえたら、こんなに素晴らしいことはありません。

自分の描いたプランを自由に試すことができる

大谷:今回こうしたAIでの研究開発において、さくらインターネットのGPUサーバーサービスである「高火力コンピューティング」を採用した理由を教えてください。

今西:過去、Web系のベンチャーのサーバー管理をやっていた時期があって、さくらのレンタルサーバーやVPSを使っていました。ですから、高火力コンピューティングはリリース当初から知っていました。

機械学習の精度を向上させるのは、本当に泥臭い世界で、トライ&エラーの連続です。だから、AIサービスも時間課金というのはあまり現実的ではないと思います。その意味では、定額で利用し放題の高火力コンピューティングは魅力的なサービスです。

研究室の一角に設置されたマシンで試行錯誤は続いている

大谷:やはりメリットはコストなんですね。

今西:AWSやGoogleの機械学習サービスも使っていたのですが、時間課金なので連続的に利用するとやっぱりコストに跳ね返ってきます。その点、さくらのサービスプランニングの上手さというか、かゆいところに手が届く料金体系なんですよね。それまでオンプレで利用していたエントリGPUでは回すのが難しかった計算が高火力ではさくっと回るので、自分の描いたプランを自由に試すことができます。その開放感が印象的ですね。

大谷:実際に、どのような感じで使っているのでしょうか?

今西:医療業界においては、教師データを集めること自体に苦労しますので、われわれが注力しているのは「教師なし学習」です。少ないデータでどのように人間らしくふるまうのかを学習させています。

最近リリースしたのが、CT画像で発生してしまう金属アーチファクトというノイズをAIで除去するというものです。金属アーチファクトが発生すると、本来軟組織が映っているところが空洞になっているように見せてしまいます。これを修正するような作業はとても時間がかかると聞いていますが、これに関してもAIで自動化できます。

GANにより金属アーチファクトの低減を実現

大谷:さまざまな学習に使っているのですね。

今西:あと、京大病院ではないのですが。国内最大級の眼科と提携し、基礎研究をやっています。一症例であれば集まるのですが、合併症だと症例数が大きく減ります。教師あり学習は、一種のパターンマッチングなので、知らないデータが来るととことん弱い。だから、教師なし学習で合併症例を作っています。もともと緑内障の画像に網膜剥離の画像を組み合わせて、合併症の画像を作っていけば、合併症を検知できるAIが作れるのではないかと考えています。

中尾:正常な症例から疾患症例を作ったり、あるいは疾患症例から正常な症例を作ることにもAIは活用できます。将棋の世界では強いAI同士を戦わせることが行われていますが、医用画像においてもAI同士を競わせることを通してより精密な画像生成を可能とするような敵対的生成ネットワーク(GAN)という手法が注目されています。GANでは、単一の学習ではなく、画像を生成するAIと画像を識別するAIを学習させるプロセスを繰り返し実行することになります。そのためのリソースとして高火力コンピューティングを使っています。

先ほどの金属アーチファクトでのノイズ除去であれば、ノイズありとノイズなしの画像群を用意します。さまざまなノイズへ対応したアルゴリズムを確立することはこれまで難しい課題とされてきましたが、ノイズあり画像からノイズなし画像への変換をAIが学習することによって、人間が個別に考えるアルゴリズムよりも精度の高いノイズ除去が可能となると期待されます。

人間が個別に考えるアルゴリズムよりも精度の高いノイズ除去が可能となる(中尾氏)

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